第27話 助かった……?
……ぅ。
目がさめる……何度目だ、床を変えたのは。
今回は……あれ。
藁だ。
なんでこんな……
あたりはいろんなものが乱雑に散乱している。
「め、目覚めた」
隣から。
聞き覚えがないな。
振り向くと、そこには男性。
かなり驚いた目をしている。
「……報告しなければ」
「ちょ、ちょっと」
止める前に、男性は行ってしまった。
そのとき、銀の耳と尻尾が見えた。
狐尾族だ。
途端、胸が熱くなる。
帰って来た、そう思っただけで。
「……ぅ」
泣いてる。
まぁ、これまで泣かなかったんだから……ちょっとぐらい……
「よかったぁぁぁ……」
女々しいだろうか、涙が止まらない。
藁に背中を預け、軽く泣き喚いて。
「……よしっ」
出すだけ出したので、外に出ることに。
おそらくあの男性が助けてくれたのだろう、お礼を言わなければ。
外は寒い、眠っていたこともあるだろうが……もう冬、ということだろうか……
外観はいつか、ラクたちの潰れる前の村に似ていた。
「きゃっ、お、起きてるっ」
「あ」
すると、横目に女の子をとらえた。
「あの、すいませんここいらに……」
「ひゃぁぁぁぁ!!」
「あ、あれ?」
逃げられてしまった。
それも、結構な勢いで。
……何かまずったか?
いや、そんなことはない、はず……
また近くにいた人に話しかけてみる。
「あのー……」
「……すいません」
そそくさと早足で逃げられてしまった。
なんなのだ、この村は。
「……なぁ、お主よ」
すると、後ろから声。
振り向くとお爺さんが。
「あ、ちょうどよかった、聞きたいことが……」
「……一旦、わし言うことを聞いてもらえると助かる。これ以上、村に混乱を招きとうない」
「え?」
なんだかよくわからないが、お爺さんはそのまま一つの家に入った。
手で招かれたので俺も続いて入る。
「あっ……」
「あっ」
すると、そこにはさっき、俺が目覚めた時にいた男性が。
助かった、案内してくれたのだろうか。
「……なぁ親父。大丈夫なのか」
「……さぁな。邪悪ではなかろう」
なんの話をしているのだろうか……
わからないが、何となく話が切れたようなタイミングで。
「えっと、あなたが私を助けてくださったのですか?」
「……まぁ、そうなる」
男性は口ごもるように応えた。
何故だ、慈善的なことだ。
俺が男じゃなかったら惚れてるぞ、多分。
それをそんな後ろめたいことみたいに。
「……お前は、何だ」
「へ……」
唐突に、男性の方から質問された。
何って……
「狐尾族……ですけど……」
若干違和感はあるが、そう名乗るほかない。
すると、むしろ男性は眉間にしわを寄せ。
「嘘をつけ。悪魔が」
そう、言った。
「あ、悪魔?」
まさかそんなことを言われるとは思わなかった。
俺の見た目でそう判断されるようなところはどこにも……
「我らが誇りの尾! それが2つなど! 狐尾の民として言語道断!」
「あっ」
ついてからまだ時間が経っていなかったからなんとなく忘れていたが……そうだ、尻尾増えていたんだった……
となると、確かに……狐の尻尾が増えると言うのは、結局妖怪の証明みたいなものなのだ。
そう言えば、確かに悪魔と言われても……
「いやいやいやいや!」
「いやいやではない!」
「違いますよ清廉潔白です! この前尻尾が増えたんです!」
「正体を現したなこの妖魔! なんだ、命か! 魂か!? 何が欲しいんだ言ってみろ!」
なんだこいつは。
誰だ俺が男じゃなかったら惚れてるとか言ったやつ。
いますぐにぶん殴ってやりたい。
外面以外はてんでダメな模範的ダメ男じゃねーか!
「荒ぶるな、リハク。 鬱陶しくて敵わなんだ」
「……すまねぇ、親父」
お爺さんの一括で男性は引き下がった。
あぁ良かった。
流石は年の功、というか会話からしておそらく親子。
いくらダメ男でも親の言うことは聞くらしい。
「まずは、身の潔白を証明できるものはあるか」
「……ありません」
全くないのだ。
木のソリも捨ててきた。
持ち物は無し。
あのリハクとか言うやつが拾ってくれてなかったら無いな。
「……悪魔とは、嘘をつけないものだと言う。お主が違うと言えば、違うのだろうよ」
「あ、ありがとうございます!」
「ちょ、親父!? こいつを信じるのかよ!」
余計なことを言うな!
今度余計なことを言ったら口を縫い合わすぞ。
「だが、リハクの言う通りにお主が、尻尾を2つ持つという、我らには知り得ない存在なのもまた事実」
「っ、だよな、だよなぁ!」
「で、ですが! 私は確かに生まれ落ちた時は一本の尾で」
「ならばここでもう一度増やせるのか?」
「っ……わ、わかりません」
あれだって偶然どころか、全く想定外で予想外。
ゼロの状態から突然生えたものなのだから。
「であろう。なればこそ、お主が何であるが、証明せねばなるまい」
「首に斧をかければ一発だぜ」
「リハク、口を慎め。お前のよそ者嫌いはいつもそうだ」
さっきから言わせておけばこの男は。
精一杯にリハクを睨むが、リハクもまたこちらを睨み返してくる。
俺はあいつと違って子供では無い、先に目を逸らしてやろう。
「「ふんっ!」」
同時になった鼻。
「てめっ、真似すんな!」
「こちらのセリフです!」
いかん、こいつとは無限にそりが合わない気がしてきた。
こんなのよりもっと理知的な会話をしなければ、脳が腐ってしまう。
「で、証明とは? 何を行えばよろしいのですか?」
「特別なことはない、ただ中身の魔力を覗くだけじゃ」
「魔力を覗く……?」
「あぁ。リハク、水晶球をとって参れ」
そうお爺さんが言うと、リハクはらんらんと外に出て行った。
「水晶球というのは?」
「水晶というのは加工が難しく、それは魔力強く帯びているからだ。それゆえに、湖面に石を投げるように、触ったものの魔力を波うたせ、写し取る性質を持つ」
なるほど。
つまり、魔力測定器みたいなものなのか。
「ほら持ってきたぜ親子ィ! さぁ、悪魔に引導を渡す時だぜ!」
リハクが10cmほどの綺麗な球を布に乗せてやってきた。
こいつは本当に口が減らんな。
何だ、アレか?
俺のこと好きなのか?
照れるぜ。
リハクは床にそっと水晶球を置いた。
「触れてみよ」
そう促され、触って見ると。
ふわ……
水晶球が青く染まる。
それと同時に、なんというか……力が抜ける感覚。
魔力を吸われてる、ってことなのだろうか……
「おお……これは……」
こちとら異世界転生者なんだ。
神様がチートやら何やらくれているに違いない。
もう無限の魔力とか、最上級の魔術使い放題とか、どっかの性欲を持て余す蛇のバンダナとかみたいな物理を超えるアイテムとか。
いやそんなの持ってないけど。
さぁ教えてくれ!
「色や量は普通じゃな」
ズテーン。
普通なのかよ。
ちょっと期待したのに。
いやわかってたけど!
ラクやマカと魔術を試した時何もできなかったし。
いや、この状況ならば普通なのがいいか……
「だが……あまりに純粋な波形だ……」
純粋?
水晶球を見てみると、とーん、とーんと、まさに湖面に石を落としたような波紋が水晶球の中心から一つ、また一つと一定感覚で写っていた。
わかったのはこれは心臓と同期していること。
心臓の鼓動に合わせ、波紋が出来ていた。
「普通は、こんな綺麗にはならん。リハク、触れよ」
俺が離れると水晶球は半透明に戻り、次にリハクが触ると。
ぽぉん……
「へっ」
ぽぉん……
ぽぉん……
水晶球は悪趣味なスーパーボールみたいに、赤色と黄色の混じり合った色になった。
さらに、波紋は中心だけじゃなく、水晶球のあちこちから発生した。
「リハクはいわば……天才のそれでな。火属性と雷属性においては中級魔術を行使しおる」
「ふふん……」
なんだあの絵に描いたようなドヤ顔。
あとついでにマカの方がすごいぞ。
マカの方がすごいもん。
「お主のは……そうじゃな、言うなればしわがれた老人のそれじゃな」
「ろうじっ!?」
「ひゃははははははっ!!」
リハクの野郎ツボってやがる。
燃やしてやろうか。
「まぁ、少なくとも害はない、というのがわしの見解じゃ」
「老人が何しようが怖くねーわな!」
言わせておけばこの……
ただ、まぁ……安全を確認されたのなら……まぁ、この怒りも飲み込む、ことにした。
男とばっかり会ってるじゃねーか百合はどうした!
本当すいません……