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第25話 二尾

「な、なんで二本に増えてんだよぉっ!?」

「と、トモハルちゃん口調変わってる」

「こ、これが素です! というか!」


いやなんで!?

なんで増えた!?

増えて……えぇっ!?


「と、とりあえず原因はわからないんだね?」

「は、はい」


現状わかるのはわからないということだけ。

喜んでいいのか、絶望するべきなのかも。


「2つの尻尾を持つ狐尾族……んー、聞いたこともないな……いや、獣人全体でも……」


前世にも2つの尻尾を持つ生物なんて聞いたことがない。

たしかに猫又という妖怪はいたが、猫だし。

狐、というなら妖狐や天狐、いわゆる修行で徳を積んだ狐は尻尾を増やすというが、俺はそんな修行していないし、そもそもそれも妖怪や神獣の類だろう。

それともあれか。

ツインテールか。

ものすごい海老反りな怪獣に捕食されるのか。


「とにかく、医者に診てもらった方が……この近くの村に腕の立つ医者がいる、村に獣人も住んでいた筈だ」


〜〜〜〜〜


「脈拍、体温、共に問題なし。一応、《治療(メディケイションは行いましたが、影響は無いようです」

「そう……ですか……」


結果、ダメだった。

医者も初めて見る、文献にないでわからないことしか無いようだ。

もっと大きな国の図書館ならそれなりの文献があるかもしれないが、それを知ることは難しい。


ちなみに、この世界の医者は病気や怪我の検診をして、魔術で済ませられるか、薬が必要かの判断をする職業なようだ。

薬局も併用しており、軽いものならその場で治療してもらえる。


「あとは獣人の、猫尾族のチェリエが三つ先の家に住んでますから、訪ねて見るのも良いかもしれません。伝説や伝承というのも案外バカにならないものです」


と、アドバイスを貰った。

獣人が人間と暮らすことは珍しいことではないが、獣人が単体で住み着いているのは少ないらしい。

これまでの村でも度々獣人はみたがつがい(・・・)だったしな。

「ごめんくださーい」


訪ねてみる。

だが、返事なし。

いないのかな。


「ごめんくださーい」

「聞こえてるにゃよ」

「うわぁ!?」


後ろから突然声。


「さっきまで屋根にいたにゃん、ひなたぼっこの邪魔をするとは、何事……」


黒いショートヘアの、俺の胸ぐらいの身長の小さな女の子。

猫耳と鍵尻尾が可愛らしいが……


俺の尻尾を見て瞳孔が開ききっている。


「……狐んトコのにゃよね」

「……はい、一応……」

「……なん、これ」

「……わかりません……」


尻尾がクエスチョンマークになっている。

そりゃあわかるわけもないか……


「んー、でもここでおひるねしたら気持ち良さそうにゃあ……おやつあげるから屋根行くにゃ」

「だ、ダメですよ私は」

「いーくーのーにゃ!」

「わ、わかりましたからっ」


だが、屋根は藁葺きな上に、段差もハシゴもない。

登れるはずが……


「にゃんぱらりっ」

「えぇっ!?」


と思ったら、助走なしでチェリエはジャンプ、余裕で屋根に着地した。


「早くするにゃー」

「できるわけないでしょー!」


閑話休題。


「獣人のくせにこの程度も出来ないとはどういう了見にゃ……ぶつぶつ」

「申し訳ありません……」


近くの長椅子で勘弁いただいた。

相当俺の尻尾がお気に召したみたいで、ずっと離れず抱きかかえてる。


「そ、そのー……私、そろそろ……」

「にゃー……あと3時間……」

「日が暮れますから!」


仕方がないとなんとか説得したいところだが……なんせあの脚力だ、馬ですら逃げられるか怪しい。


「……それなら、条件にゃ」


なんか嫌な予感。

チェリエの指から爪が伸びて行く。


「毛皮置いてくにゃぁぁぁ!!」

「いやぁぁぁぁぁ!!」


そのとき。


「ほーらチェリエ。おいでー」

「なん♪」


気づくと、チェリエは消えていた。

真横にはさっきの医者がゆらゆらと猫じゃらしを揺らし、チェリエをあやしていた。

え、そんなんでいいの。


「トモハルさん、今のうちに」

「は、はい! ありがとうございます!」

「なん、なんっ♪」


助かった……

猫じゃらしと相対してるときのチェリエは可愛かったが、数瞬前まであれは狩るものの目だった。

獲物としてみられていたのだ……怖い。


「あぁおかえりトモハルちゃん。どうだった?」

「トラウマになったかもしれません……」

「トラウマって……何かあったのかい?」


〜〜〜〜


「あっはっはっはっはっ!」

「笑い事じゃないんですよぉ!」

「いやぁすまない、だが、うぷっ、あっはっはっはっはっ!!」


どうやら、毛皮だけでも手に入れようとするチェリエがツボに入ったらしい。


「こんな村さっさと出ましょう! 私の尻尾がまだふかふかなうちに!」

「て、手元が、くるうっ……うぷぷっ、ぶふっ……」


この人は本当につかみどころのない……


〜〜〜〜〜

その日の夜。


「大丈夫なのかな……本当に……」

「まぁ、大丈夫だろう今日一日なにも……んふっ……」

「いつまで笑ってるんですか……」


野菜の煮物スープを食べながら野宿。

女の身体になったからだろうか、お腹がすぐにいっぱいになる。


「お前のご主人はひどいやつだなぁ〜」

ブルルル?


馬をなでなでしつつ、苦言を呈する。

このちょっと湿った感じ、なんかくせになってきた。

それにかなり懐っこいし。


「こらこら、へんなこと吹き込むのはやめてくれよ……」

「今度笑ったらぺろぺろしてやれ、ぺろぺろ」

「やめてくれその子臭いんだから」


そんなこんなで夜食を終え。


「……もう明日で帰れますね」

「……そうだね」


明日で、約束の5日めだ。

そんなに長くなかったきがする。

というか、国にいた時の5日間が長すぎたというか。

クラウドといた時間が楽しくて。


「……寂しい、かな」


ちょっと呟いてみた。


「……もうちょっと続けてみるかい?」


クラウドも。

きっと俺は、クラウドに全幅の信頼を置いているのだろう。

これはいつか、依存になりえる。

そちら側に落ちてしまえれば、きっととても楽だろう。

嫌だ、という気持ちも全く無い。


「だけど、ダメです」


これはやってはいけないのだ。

俺には俺の義務がある。

誘拐されてもう半月以上は経っている。

そんな状態でクラウドについていくなど、出来ない。

それに、大雪原を記憶にある地図だけで探すのだ。

どれだけかかるか。

それまで待ってくれ、といえばクラウドは待ってくれるだろう。

だが、それもダメだ。

迷惑などかけられない。

かけたくない。


「……そっか」

「……クラウドさんも寂しいですか 」


……卑怯だと思った。

全くもって、クラウドを困らせる質問だ。

寂しい、と言って欲しかったなだ。


だが。


「寂しくないよ」


そう、呟いた。


「だって、君が寂しくなってしまうじゃないか」

「……そうですか」

「君は戻るべきなんだ。ここいらがいくら獣人に寛容だろうと、もっと危ない場所もある」


わかっていた、俺が過度に人間を信頼するのも危険だ、というのも。


「……わかるよな、君は賢い」

「……はい」

「この世は巡り会う、いつかまた会えるさ」


微笑むクラウドの顔は焚き火に照らされている。


すると。


ブルルル……

「あっ!? ちょっ、舐めるなって」

ブル?


馬が何を察したか、クラウドの顔を舐め始めた。


「あ、あはっ、あはははははははっ!!」

「ちょっ、笑わないでよ、君のせいだろ!」

「ざまぁないんですよ! あははははははははっ!」


良かった。

もうすぐで泣くところだった。


「もっとぺろぺろしたれ!」

ブルヒィィン……

「こら! やめろって、こらぁ!」

「あははははははっ!」


いつかまた、会えるのだ。

いま泣かなくてもいいだろう。


〜〜〜〜〜


「いままでありがとうございました。いつかもう一度出会えたときは、必ずお礼を」

「あぁ、期待しているよ。商人は口約束を大事にするのさ」


肌寒くなり、目の前から緑がめっきり無くなってきた頃。

クラウドとのお別れの時だ。

これからは道が違うからな。


「君は賢いし強い。軽く抜けているところがあるが……まぁ仲間のところに帰ることぐらい容易いだろう」

「はい、頑張ります」

「では、ね」


どちらも見えなくなるまで手を振っていた。

馬は最後まで止まったりを繰り返していた、仲間だと、あれは乗せなくていいのかと言ってくれているようで嬉しくて。


「……よし、行くか」


また、俺も違う方向を歩き始めた。

こう言う感じです。


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