第24話 行商
「トモハルちゃんは異世界から……へぇー、また珍しいものだね」
「聞いてくださいよ! 異世界から来たとおもったらいきなり雪しか無いんですよ! 裸で!」
「……辛かったね」
結果、自分でもどうかと思うぐらい信用してしまった。
窮地に追い込まれた人間は、そのときほんの少しでも優しくされれば簡単に傾いてしまうというが……
まさにそうらしかった。
旅を始めて3日。
もともとちゃんとした会話に飢えていたこともあり、びっくりするぐらい自分でも素直にいろいろ話している。
「第1! この世界に神様がいるのなら! 私に試練を与えすぎなんですよ! 私何回死にかけましたか!?」
「異世界人は文化も体質も違うというが……まぁ、君のは本当に特別だよね」
と、この通りだ。
ナイフなんかとっくに返した。
そうでなければ失礼というやつだ。
むしろ積み荷の整理など、自分から手伝っていることの方が多い。
「あ、もう少しで村ですね」
「あぁそうかい。また手伝ってくれるかい」
「もちろんです、クラウドさん」
〜〜〜〜
「えーと、エーシアの種5袋、毛皮2つ……しめて2銀貨と80銅貨になります」
「はいはい、ちょっと待ってくださいな」
最近だと、顔がいい俺の方が売れ行きがいいだとかで、俺が商品を売ることもある。
特に若い女性なんかには、可愛いだとかで割と人気。
小さな子供には耳とか尻尾に触ることも許している。
時々毛を引っ張られるが、まぁ許容範囲だ。
「ご一緒に塩漬けなどどうでしょう。冬に備えて、スタミナを保存しておくのも良いかもしれませんよ」
「んー……どうしようか」
「ザニーさん、いまなら全部で3銀貨にまけるよ」
「だそうですよ」
「おぉ、それなら買った」
「毎度ありがとうございます♪」
若い男性なんかには、こんな風に多少宣伝気味に売った方がよく売れる。
チョロいな。
「では、クラウドさんをどうぞご贔屓に♪」
「また頼むよー」
だいぶ人間にも慣れて来た。
というか基礎から人間ではあるのだ、一度二度汚いところを見たところで……とは、もう言えないだろうな。
クラウドさんに会えていなかったら、ニンゲンそのものを嫌いになっていたかもしれない。
それは狐尾族のみんなにやめてくれと言ってあることだ、
俺自身が破ってどうする。
いまだって、小太りのおじさんとか、奴隷の話とかが始まると若干身構える自分がいる。
あの炎が暴走しないことを祈るばかりだ。
「はぁ、疲れた……」
「おつかれトモハルちゃん。大丈夫だった?」
「えぇ、吐き気とかはもう……」
初日は商売に参加もしなかったし。
二日目はただただそこにいることが申し訳なくなり、一度宣伝してみるも、お客さんの前で吐いてしまいダウン。
そして今日ようやくマシになったのだ。
前世ではコンビニでバイトしてた、その経験でお客様対応ぐらいは出来るし、ホットスナックの宣伝力のお陰で一応求められていない商品を売ることもできる。
どれを優先して売るかは在庫を見てクラウドが決めることになっている。
「いやぁたまげたもんだよ本当に。まさか拾った女の子のおかげで売り上げが2割は伸びてる。いつもは捨てるものも、早い時期には売れそうだ」
「みんなチョロいですよね〜、全く」
「男なんてそんなものさ、なぁ?」
「今は私女の子ですもーん」
とまぁ、冗談交じりだが、異世界転生前は男だったとは伝えてある。
なので、俺に鼻の下を伸ばした奴らは……まぁ、お察しということだ。
悲しいかな。
とにかく、これぐらいの冗談は言えるぐらいには心も癒えた、ということだ。
別段、誘拐監禁ぐらいしかやられたことはない、傷はだいぶ浅かったというわけだ。
そんなことを言っていると。
……ブルル……
「……ん。どうかしたか」
馬が突然鼻を鳴らし、止まった。
周囲を見回し、ソワソワとして落ち着かないようだ。
……これは?
「……あぁ、なんかいるな。トモハルちゃん肉投げてくれ」
「肉、ですか? でもこれ……」
「あぁ、いいんだそれは……と、きたな」
近くの草むら。
そこには、聞いた覚えがある足音、嗅いだことのある匂いが。
おそらく、忍んだものなのだろうが……
卓越した逃げの本能は、狩りの本能より半歩早い。
今回は馬に感謝せねば
「燃えろっ!」
狼は燃やさない。
まだ心に引っかかるものがある、これを無くす前には、殺さない。
馬車を囲むように。
ヒヒィィィン!!
「落ち着いて、どうどう」
馬も驚いたことだろう、馬車を降りてなだめる。
この3日間でそれなりに仲は良くなった……と思う。
撫でるのを拒否しないし。
「こ、こりゃあ……」
ガルルルル……
ウォフ! ウォフ!
黒い炎の奥、外側には悔しそうにこちらに吠える野犬が。
だが、問題はない。
なんとか火に近づこうとするが、どうにも近寄れないようで。
グルル……
最後にまた唸り声をあげ、森に帰っていった。
「……ふぅ」
それを見届け、炎を消す。
馬はしっかり落ち着いている、偉い子だ。
「……トモハルちゃん、いまのは……」
「えっと、何も言わなくてすいません……」
「…………」
あれ、まずったか……?
「……固有魔術持ち(ユニーク)、というやつだったのか……?」
「へ?」
クラウド曰く、異世界転生者の例のインフレ魔術、いわゆる超級や特級といわれるものには、固有魔術という、そのものしか使えない、みたいな魔術があるらしい。
そんなものを得た記憶はないのだが、考えてみるとこれは魔法陣も使ってなければ触媒も使っていない。
極め付けに、詠唱すら燃えろだけ。
あまりにも強いし、使いやすい。
「わ、わかりません、けど、もしか、したら……」
「ん、トモハルちゃん……?」
「ん……」
何度目だろうか。
ギリギリ、馬車の荷台で、意識を落とした。
〜〜〜
「っ、目を覚ましたか……よかった、いきなり気絶するから……」
何がどうなった。
目の前が急に暗転したと思ったら……
目の前にはクラウドさん、かなり焦っているようだが……
「なあトモハルちゃん、君病気とかあるのかい? それとも他の原因が?」
「な、なんの話、ですか……」
ゆっくりと身体を起こす。
なんか、気持ち身体が軽くなった気が……
「なにって、その尻尾だよ!」
「尻尾……?」
腰から尻尾を引き寄せてみる。
いつも通りの尻尾だ。
銀色で、ふわふわの……
「……ん?」
違和感。
何故、俺は尻尾を持っているのに尻尾を振っている感覚がある!?
恐る恐る、もう片方の手を、背中に。
「……何故、なぜ!?」
理解不能。
亀を8回踏んだか、そんな記憶はない!
「なぜ尻尾がふえたぁぁぁ!?」
この通りクラウドさんは完全にいい人です。
んで、もちろん狐尾族の値段は知ってます。