表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/56

第23話 ニンゲン

…………。


起きたら、森の中。

変わらない、さっきとなんら。

視界に映るのは、見覚えのある遺灰の山が崩れたもの。


「……っ」


足がまだ痛い。

血はもう出てはいないようだが、もしかしたら骨折ぐらいはしたかもしれない。


布を巻き、その上から木の枝を三本、そしてツタでぐるぐると。

これで多少固定はされるだろう。


「……夜は、開けたか」


おそらく、灰の匂いがしたから生き物が寄らなかったのだろう。

今の俺にも、だいぶ嫌な匂いだ。


……あの、黒い炎。

どう考えても、都合が良すぎる。

昨日からまるで、俺を助けている(・・・・・・・)みたいに。

妙、なんてものじゃない。


「…………」


目の前のもの。


ふと、手のひら程度の丸い石が見えた。


「……燃えろ」


すると。


石の底、地面に触れたところから、黒い光が見える。

眩しいのに暗い、矛盾を孕んだ炎が。

火種も無ければ火口(ほくち)もない。

第一、なんのアクションも起こしていないのだ。

ただ、燃えろ、と言っただけ。


「……はは」


灰になった石ころを見て、笑うしかない。

あれは俺がやったんだ。

あのオークション会場だって、人を殺したのだって。

俺が無意識に殺したかったってことだ。

確かに、あのときあいつらを恨みはした。

たかがその程度で俺は人を……


「…………」


脱力感、無力感、罪悪感、あらゆるマイナスが背中を押しつぶさんばかりに落ちてきた気がした。

俯いたまま動く気が起きない。

当然だ、人を殺して、それにすら気づかなかったんだから。


そのとき。


ガラガラガラガラ……

「あっ……」


気づくのが遅れた。

道路の方で、明らかに車輪の音がする。

馬車だ、馬の嘶く声も聞こえる。


「ん……声……?」


無用心だった、必死に息を殺す。


「……? そこの木の後ろにいるの、誰だ?」

「……っ!」


バレてる。


「あはは、尻尾が丸出しだぞ。頭隠して……なんと言ったか」

「あっ!?」


どうやら、尻尾まで隠せはしなかったらしい。

木の間から丸見えだったようだ。


「悪くはしないさ、出ておいで」


優しい男の声だが……人間をイマイチ信用できなくなった。

怖い、またあの場所に戻るなど。

オークションだとか、そんなのは別にいい。

思い出したくない、人を殺したときを。


「ふむ……逃げてきた奴隷さんかな? 周りに……うん、大丈夫だ。私は行商人をやってる、クラウドというものだ。帝国から逃げてきたのかな」


俺が捕まっていたのがここから一番近い国だとするならば、確かに帝国なのかもしれない。


「君たちにはひどい環境だっただろう、獣人は裏側に回されることが多いからな。奴隷なんか特に。賭博の景品、物好きの娼婦、闇オークション」

「闇オークション……?」

「そこから来たのかい?」


しまった、と声を塞ぐ。


「散々だったね、あそこは犯罪者が地下でやってるものらしくてね。それも、国がそれを黙認しているし、貴族も多数参加しているのだから手に負えない」


そういうことだったのか。


「きっと大変だろう。食料をここに置いていくから、食べていくといい。全部かじっておこう、嫌だろうが毒味だ、安心して食べて欲しいからね」


すると、蹄の音が止まり、馬車がストップする。

ガサガサと準備する音。


…………。


「ま、まって、ください」

「……おや」


意を決して姿をあらわす。

もしかしたら、という期待をしながら。


「……信じても、大丈夫、ですか」

「……さぁ、ねぇ。私がいい人かどうかは君には判断してもらうほかない」


見ると、初老の男性だった。

身なりがいい、商売は悪くはないとようだ。


「……大雪原というのは、どこに……」

「ん? あぁ……君はそうか、狐尾の。それならそこに向かうのも納得だ」


すると、クラウドはまた馬車に乗り。


「荷台でも良いなら乗ると良い。近くまでは行くからね」

「…………」

「きっと人間が嫌いだろう。だから」


クラウドがポケットから俺の前1mあたりに優しく、俺に当たらないように投げたのは。


「……ひっ」

「ナイフだ。私はこの通り、なんの対策もしてない。それを持っていなさい、せめて私が乱心したときの支えとなるように」


刃渡り10cmほどのナイフ。

クラウドは、ここまで譲歩したのだ。

俺を信頼できるように。

そして、ここまで信じてくれ、とすら言っていない。

全て、俺の判断に任せている。


「……お願い、します」


ナイフを携え、荷台に乗せてもらう。

適当な場所に座り、一応警戒しつつ。


「そうだな、布をかぶっておきなさい。すれちがいでも狐尾の子だとわからなくなるだろう。それと食料だ。樽に入っているのは売り物だが、ざるに入っているのは自由に食べて良い」


他にも、たくさん俺に有利な、というか自分には全く利益のないことを俺にたくさん施してくれた。

儲かっているとしても、あまりに気前が良すぎる。


「おっと、逆に警戒させてしまったか……あはは、すまないな」


頬をかき、クラウドは苦そうに笑っていた。


「では出発するよ、だいたい……5日ほどで大雪原に一番近くなるはずだ」


5日。

捕まった時、俺はそんなに眠っていたのか。

魔術、なんてふざけた力だ。


がらがらと車輪が動く。

速度は緩い。

三半規管は強い方だ、乗り物酔いはそんなにしない、はず。


「そういえば君の名前を訪ねていなかったね。名前はあるのかい?」

「……トモハルです」

「ほぉ。名乗ってもらえるとは、嬉しい誤算だ」


……この人は、イマイチ掴み所がないな。

聖人君子さんです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ