第19話 急変
ぅ……ぁ……
ここは……
「あぁ、目を覚ましたわ!」
「なんと美しい! 毛並みも完璧だ!」
「女としても上出来だ……」
へっ……へっ?
何、なんだこれ。
指に指輪をいくつもはめていたり、きらびやかなネックレスをしている、明らかに金持ちオーラをもつ人々に囲まれて……
いや、それだけじゃない。
隔たり。
鉄格子。
辺り360度全て。
四角い檻の中に閉じ込められている。
手足を伸ばせばいっぱいいっぱいなほどの、小さな。
「買いたい、早くっ……」
「ママーっ、僕もあれ欲しい!」
「早くオークションが始まらないだろうか……」
オークション……?
……嘘だ、そんな、まさか。
いやありえないっ、そんなバカなことが……
「……ぁ」
記憶がだんだん戻ってくる。
いやな記憶だ、思い出したくもないのに。
ーーーえらいべっぴんだな……こいつは高値になるぜ。
ーーー遊ぶなよ、価値が下がるからな。
あの、男二人。
俺が……高値……?
オークション……俺が、商品……?
「い、いやだっ、だし、だして、だしてくださいっ」
「おお喋ったぞ! 生きがいいな!」
「必死な表情も美しいな……」
必死に、鉄格子を掴んで訴えても下卑た視線はニヤけるばかり。
値踏みでもするかのように、すでに自分のもののように。
「お願い……ですから……だして、ください……」
「何を言っている、24番。お前は今回の花形なんだ」
すると、横から、仮面をつけた痩せ気味の男。
「みなさま、充分にご覧になったでしょうか! 100年、いえ1000年に一度の美しさ! いかに優雅なキツネと言えどこれほどのものはそういないでしょう!」
「まだ、まだだ! もっと見せろ!」
「く、服が邪魔だな……獣に服はいらんだろう……」
頭の中を絶望が埋めていく。
ほんの少しでも否定していたかったのに。
こんな馬鹿げたことは茶番だと、誰かが言ってくれると思ったのに。
思っていたかったのに。
「オークション開始は5日後! みなさま、そのお身体を大事にしながらお待ちください!」
「ひっ」
また仮面の男が二人ほど現れ、俺の入った檻を押していく。
車輪がついた板にでも乗っていたのだろうか。
そして、下卑た視線は要求する声に変わって。
もっと見せろ、戻って来い、なんなら檻からだしてみたい、などと。
「お願いしますっ、出して、出してください!」
仮面の男たちは応えない。
それが正しいことであるかのように、明らかに俺を商品だと。
「くそっ……くそぉっ」
無力感。
人身売買オークション……確かに、前世では闇オークションだとか、そんな創作的な表現としてよく使われた。
確かに絶望感と臨場感などの演出としては非常に完成度の高い演目だろう。
だがそれを。
その"本物"を、自分が商品になって体験するなど……!
「ふざけんな……ふざけんなよぉ……」
鉄格子をいくら揺すっても、なんの手ごたえもない。
ことのほか頑丈だ。
四方は溶接された形跡などなく、鈍い光沢のままだ。
一箇所、鍵が付いている扉のような箇所はあったが、いくら押そうが蹴ろうがビクともしない。
「なんで……なんでだよ……」
そして、車輪の動きが止まると。
「……うぐ」
臭い。
ドブみたいな匂いだ。
薄暗い大きな部屋の中、そこは。
「死ね……死ねよ……」
「帰りたいよぉ……」
「なんで俺が……」
数多くの怨嗟と哀愁と諦観。
俺と同じや、大きかったり小さかったりする檻には、が一人ずつ。
それが何十個も。
「食事は朝昼晩と3回だ。体調は崩すなよ。何かあればここから移動させる」
「え、まって、待って!」
いくら呼び止めても戻ってこない。
こんなに騒がしいのに静かな場所に、何十人ものひとりぼっち。
俺はそのなかのひとりで。
「助けて……だれか……」
俺も、静かな声を上げるしかなかった。
かなり一気に物語が動きます。
ぶっちゃけ、鑑賞用の奴隷が労働用の奴隷と一緒にいるとはあんまり思えないのですが、何せ架空の種族であるため、どうしようか迷ってます。
もしかしたら表現変えるかもしれません。