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フィッシングその2

「俺にはもうお前らしかいないんだよプッチー……」

「もー、元気出してくださいよ、トモハル殿」

「そーっすよ、まだ何もできないって決まったわけじゃ無いでしょ?」


現在、傷心(ハートブレイク)な自分を癒すために釣り中。

プッチーだけは今もなお俺の心を癒してくれる。

入れ食いとはかくも素晴らしいものか。


「でもお前らも使えるんだろー?」

「なんすか今日は一段とめんどくさいっすね」

「まぁあの二人割と俺らんなかじゃ天才扱いだからなぁ」


一緒に行くのは若い男衆数人。

まず細かいことを気にしないので何も気にせずに話せるのと、気がいいので結構ノリノリな会話が出来る。

さらに、俺の身体に欲情しない、と。

まぁ最後のは……うん。


ともかく、男衆は割と話せる、というわけだ。

別に俺が前世女慣れしてなかったって話じゃ無いからな。

どどど童貞ちゃうわ!


「にしても、異世界人っすかー、見るのは初めてっすねぇ」

「向こうってどんなところなんです?」

「んー?」


どうやら前世の世界に興味があるらしい。


「そーだなー……例えば、10階建の建物が沢山ある、とか信じるか?」

「うわ、初っ端からかましますね」

「あるわけないじゃないっすかぁ」


とまぁ、常識の乖離というものはとても深いもの。

こいつらも冗談だと思って聞いているし、まぁ、冒険譚風に話してやるか。


「俺たちの世界ではな、化学ってものが発展したんだよ」


石や木から始まったのはこの世界と同じ。

だけど違うのは、魔術という、リソースを支払えば結果がついてくるという保証をもつ手段が無かった。

つまり、どんなことも手探り、総当たり。

もちろん数学が発展してからは予測というものが理論的に立つようになったが、それからだってうまくいかないことはある。


だが、人間は凝り性だった。

手先の器用さはどこまでも満足せず、手当たり次第に思いつくものを作っていたら……気づくと、木は海を渡り、鋼鉄は空を飛び、人は……星を越えた。

たった1万年、地球の歴史から見れば短い瞬きだとしても、いまや地球は人間のもの。

人類神話とはよく言ったものだ。


「ほえー……」

「またとんでもない話っすねぇ」

「すげぇだろ、いるんだよ必ず。お前らの嫌いな人間にも凄いやつってのが」

「そーなんでしょーけど、ねぇ」


うわぁ、こいつら話せって言っといて結局大して聞いてなかったな。


「ったく、全部本当なんだぜ?」

「……ただまぁ、トモハル殿みたいなんがいっぱいいるって考えたら……」

「あぁ、あながち有り得ないわけじゃないかも」

「人をヤバい奴みたいに言うんじゃない」


別に俺が飛行機やらロケットやら開発したわけじゃない。

人類史を誇るのは人類の役目だが、努力を誇るのはまた違うのだ。


「はぁ、そろそろ釣り過ぎっすねぇ、帰りましょうか」

「今日は焼きらしいですよ。結構美味いっすけど、時々変に炎が揺らぐから怖いっすよね」

「あ、先に帰っててくれ。もうちょっと釣ってく」

「冷え過ぎないように注意っすよー、姉御ー」


姉御て。

俺はお前らの何なんだ。


とまぁ、なんとなくまだ釣りを続けたいから一人残ったわけだが。

後になって、この選択は最悪中の最悪だったことに気づく。

仕方ないじゃないか、気づくとかじゃないんだ、この段階じゃ。

だって。


「……え」


突然足元に魔法陣が出来るとか。

思いもしないんだよ、普通。

やばい、と思った。

咄嗟に逃げ出そうとした。


でも、動けない。


「捕まえたか?」

「あぁ、完璧だ」


そんな会話が聞こえるのは遥か遠く。

耳は反応した。

だけど、鼻は反応しなかった。

そうだ、無臭にする魔術を俺は知ってる……


「えらいべっぴんだな……こいつは高値になるぜ」

「遊ぶなよ、価値が下がるからな」

「な、なんなんだ、お前ら」


近づいてきたのはフードを深くかぶっていて顔がよく見えない。

あの時の倒れていた死体より、明らかに装備が潤沢だ。


近づいてきたのは、人間らしい。


「さて、《睡眠(スリプト)》頼むぜ」

「あいよ」


やばい。

会話の意味がわからないけど、絶対やばい。


「た、助けてーーーー」


そう喉から放り出すのが限界だった。

意識を手放し、倒れることも出来なかったのを理解した。


〜〜〜


「おい休むな」

「ぐぅあ!」


村ごと帝国の奴隷となって半月が経った。

確かに、決断したとき、仕方がないと村民は受け入れてくれていた。

だが、今はどうだ。

人に容易く鞭を打ち、成功失敗にかかわらず罵る。

あまりに苦痛な日々だ。


食と住は確かに保証された。

奴隷の子を産むために仲の良い男女は相部屋になり、子供を成せばそれなりの休みが出来る。

だがそんなものを塗りつぶす、痛み。

誰も彼も、目が死んでいた。


最年長の私にとって至ってはさっさと使い潰すつもりか、肉体労働が常。

昨日、右手の感覚が無くなった感覚を覚えている。


我々には死ぬ自由すらない。

我々は道具なのだ、誰だって手持ちの道具が壊れたら不満に思うことだろう。


「おい、手が止まっているぞ」

「は、はい」


今日もまた、レンガを積み上げ泥を塗り、また積み上げ続ける繰り返し。

老体に響く。


「はぁ、なんで俺はこんな古ぼけたクソの監視役なんだ!」


我々数人を見る監視官が口を漏らしている。


「最近狐尾の良質なのが捕まったって……はぁ、見るだけで目の保養になるのによぉ」


狐尾族……確か、大雪原にいた種族だったか……

獣人のはずだ……


「チッ、あー、イライラする……」


それほどまでに美しい種族だというなら、死ぬまでに一度見てみたいものだ。


「さっさと死んで俺をほかの仕事に移させろよ、無能どもォ……」


愚痴を聞きながら、またレンガを積み上げ続ける。

今日も、明日も、私が死ぬまで。

村長という名を捨てた、私が。

釣り手が釣られました。

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