第16話 フィッシング
俺の髪の毛を編んだ糸に、強度を上げる魔術、《強固》をかけてもらい、木の枝にくくりつけ、木の針をつけて釣竿にする。
それと、氷に穴を開けるための《炎槍》の魔法陣を作ってもらう。
魔法陣は木の板に木炭で描いてもらう、びっくりするほど繊細だった。
使うときは魔法陣の中心に手を添えればいいらしい。
これで釣りをする準備は整った。
ざるにチコルの実をいくつかもいで。
「じゃ、行って来るよ」
「ご無事で……」
「トモハル様……」
総勢28人、狐尾族全員に見送られる。
特攻隊じゃないんだから。
気軽な気持ちで行くだけ、今日は割と晴れてるし。
地図を見ると、それなりに歩くようだし、まぁ気長にいこう、気長に。
久々に一人になって、静かすぎる世界が若干恐ろしい。
振り向くともうあのかまくら郡は見えなくなっていた。
どうやら、この身体は狐と同じような性質をしているらしい。
鼻と耳が効く代わりに、目が少し弱め。
視力を犠牲にして嗅覚と聴覚が強くなってるわけだな。
まぁ普通の動物よりも視力は高いし、本能よりも理性の方が強い分処理能力も高いだろう。
そうこう思いながら、前世の歌でも歌って歩いて、目的の場所に。
見た目はあまり変わらないが、地面を踏む感覚がわずかに違う。
それと。
ドドドド……
手のひらを耳に当てると聞こえるような、地鳴りのような音。
小さなものだが……
おそらくこれは水の流れる音だな。
湖はそれなりに広いとマカが言っていたし、水流ぐらいはあるのだろう。
では早速。
「えっと?」
そのまま魔法陣の描かれた木の板を床に。
そして板に手を。
ズドンッ!
「わっ」
衝撃。
板を剥がして見ると。
「おぉ……!」
ぽっかりと、10cm程度の穴が空いていた。
マカの《炎槍》のおかげだろう。
下はくらいが、水音が聞こえる。
ビンゴだ。
早速針にチコルの実をちぎってつけて、穴に垂らす。
すると。
「……えっ」
いきなり釣竿に手応え。
リールなどないので手で引っ張ると。
「うわっ!」
ナマズのような魚だ、頭が大きい。
身体は小さめだが……
かなりアンバランス。
思いっきり咥えこんでいた。
ともかく。
「獲ったどー!」
1匹目ゲットである。
針を外し、そこいらに置いておく。
天然の保冷庫だからな。
それからというもの。
「おっ、今回は12秒か」
垂らせば、釣れる。
入れ食いもいいところである。
サイズはそれなりだ、そもそも針が大きいからな。
すでに20匹は捕らえただろうか。
このペースなら、あと五分もすれば餌は無くなって帰るしか無くなる。
「……おっ、35秒。新記録だな」
帰るしかなくなった。
餌が無くなったのである。
さすがに餌無しで釣り上げられるほどの腕やルアーは無いし、すでに大量も大量なのだ。
ざるに入りきるだろうか、48匹。
手のひら大のやつもいれば、腕ぐらいあるものすらいる。
なんとか手に持ち、全員持って帰りたいところだ。
〜〜〜〜〜
「「「…………」」」
「わっとと……ただいま」
「……早く無いですか。それと多すぎませんか」
「いやぁ、思ったより獲れちゃってさぁ」
大量の魚に雪を振りかけ、鮮度が落ちないようにしながら持って帰ってきたために、結構疲れてしまった。
三度笠にも何度かお世話になった。
「これ……プッチーですね。この季節は確かに飢えてますし、大量に取れるのも……」
どうやら俺の釣った魚は全部プッチーという魚らしい。
ちゃんと食べられるようだし、よかった。
「次回はソリかなんかを持っていきたいところだなぁ」
「ま、また行くつもりですか!?」
「いやぁ殊の外楽しくて」
釣りにハマってしまったかもしれない。
入れ食いってのがやっぱり楽しいよね。
「ではトモハル様、お預かりしますので。ここからは私たちが」
「あ、うん」
あとは村の女性にお願いする。
包丁がわりに石を研いでもらったし、鍋は木製と若干心もとないが、まぁそこはこの世界の文化を知る人に任せた方がいいだろう。
調理を待つ間は温泉。
気分が高揚して身体は寒くなかったが、リフレッシュついでだ、入っておく。
チコルの実もいくつか。
飽きた飽きたと言っておいてなんだかんだ食べるのである。
美味しいしね。
そして、湯船から上がり。
「あぁ、ちょうど出来たところですよ。水炊き、焼きです」
「おおっ!」
ちょうど、木の皿に料理が盛られているところだった。
あら汁のような、ほとんどそのままプッチーを煮込んだ汁。
これまた、鱗と皮を剥いだだけのプッチーを焼いた串。
どちらもかなり大雑把だが、料理が目の前で出来ているのだ、感動は凄まじい。
「じゃあ、いただきます」
俺が食べるのを一斉に見る狐尾族。
もちろん、すでにその手には食事が渡されているが、俺が食べるまでは食べないらしい。
もういい加減こういうのも慣れたので、スルー気味に。
「ん、んまい!」
塩すらない現状において、魚の出汁だけでこんなに美味しいとは。
果物ばかり食べていたから舌がだいぶ参っていたのだろうか。
狐尾族の女性が一気に安堵のため息をついた。
そんなに緊張しなくていいのだが……
焼きのほうも一口。
かなり淡白な味わいだ、秋刀魚とかの身の食感に近いだろうか。
噛めば旨味が出てきて、こちらも絶品。
俺が両方を食べると、狐尾族も続々と食べだす。
みんなの舌にも好評なようだ。
「今度行くときは俺も連れて行ってくださいよぉ」
「あ、俺も俺も! トモハル様お願いします!」
「あぁ、一緒に行こうか。そのためにまずは運搬用のソリと人数分の釣竿を用意しないとな」
若い男衆が続々と釣りの参加を志望してくる。
俺としては話す奴ができるのはありがたいことだ。
魚は干物にもなるから数をとっても困らないし、狐尾族的にはプッチーは雑魚らしいので、取れるだけとってきても環境にも問題はないだろう、とのこと。
よぉしこれから楽しみだぞう。
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