表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/56

第16話 フィッシング

俺の髪の毛を編んだ糸に、強度を上げる魔術、《強固(モアハード)》をかけてもらい、木の枝にくくりつけ、木の針をつけて釣竿にする。

それと、氷に穴を開けるための《炎槍(ブレイズスピア)》の魔法陣を作ってもらう。

魔法陣は木の板に木炭で描いてもらう、びっくりするほど繊細だった。

使うときは魔法陣の中心に手を添えればいいらしい。


これで釣りをする準備は整った。

ざるにチコルの実をいくつかもいで。


「じゃ、行って来るよ」

「ご無事で……」

「トモハル様……」


総勢28人、狐尾族全員に見送られる。

特攻隊じゃないんだから。

気軽な気持ちで行くだけ、今日は割と晴れてるし。

地図を見ると、それなりに歩くようだし、まぁ気長にいこう、気長に。


久々に一人になって、静かすぎる世界が若干恐ろしい。

振り向くともうあのかまくら郡は見えなくなっていた。


どうやら、この身体は狐と同じような性質をしているらしい。

鼻と耳が効く代わりに、目が少し弱め。

視力を犠牲にして嗅覚と聴覚が強くなってるわけだな。

まぁ普通の動物よりも視力は高いし、本能よりも理性の方が強い分処理能力も高いだろう。


そうこう思いながら、前世の歌でも歌って歩いて、目的の場所に。

見た目はあまり変わらないが、地面を踏む感覚がわずかに違う。

それと。


ドドドド……


手のひらを耳に当てると聞こえるような、地鳴りのような音。

小さなものだが……

おそらくこれは水の流れる音だな。

湖はそれなりに広いとマカが言っていたし、水流ぐらいはあるのだろう。


では早速。


「えっと?」


そのまま魔法陣の描かれた木の板を床に。

そして板に手を。


ズドンッ!

「わっ」


衝撃。

板を剥がして見ると。


「おぉ……!」


ぽっかりと、10cm程度の穴が空いていた。

マカの《炎槍(ブレイズランス)》のおかげだろう。

下はくらいが、水音が聞こえる。

ビンゴだ。


早速針にチコルの実をちぎってつけて、穴に垂らす。

すると。


「……えっ」


いきなり釣竿に手応え。

リールなどないので手で引っ張ると。


「うわっ!」


ナマズのような魚だ、頭が大きい。

身体は小さめだが……

かなりアンバランス。

思いっきり咥えこんでいた。


ともかく。


「獲ったどー!」


1匹目ゲットである。

針を外し、そこいらに置いておく。

天然の保冷庫だからな。


それからというもの。


「おっ、今回は12秒か」


垂らせば、釣れる。

入れ食いもいいところである。

サイズはそれなりだ、そもそも針が大きいからな。

すでに20匹は捕らえただろうか。

このペースなら、あと五分もすれば餌は無くなって帰るしか無くなる。


「……おっ、35秒。新記録だな」


帰るしかなくなった。

餌が無くなったのである。

さすがに餌無しで釣り上げられるほどの腕やルアーは無いし、すでに大量も大量なのだ。

ざるに入りきるだろうか、48匹。

手のひら大のやつもいれば、腕ぐらいあるものすらいる。

なんとか手に持ち、全員持って帰りたいところだ。


〜〜〜〜〜


「「「…………」」」

「わっとと……ただいま」

「……早く無いですか。それと多すぎませんか」

「いやぁ、思ったより獲れちゃってさぁ」


大量の魚に雪を振りかけ、鮮度が落ちないようにしながら持って帰ってきたために、結構疲れてしまった。

三度笠にも何度かお世話になった。


「これ……プッチーですね。この季節は確かに飢えてますし、大量に取れるのも……」


どうやら俺の釣った魚は全部プッチーという魚らしい。

ちゃんと食べられるようだし、よかった。


「次回はソリかなんかを持っていきたいところだなぁ」

「ま、また行くつもりですか!?」

「いやぁ殊の外楽しくて」


釣りにハマってしまったかもしれない。

入れ食いってのがやっぱり楽しいよね。


「ではトモハル様、お預かりしますので。ここからは私たちが」

「あ、うん」


あとは村の女性にお願いする。

包丁がわりに石を研いでもらったし、鍋は木製と若干心もとないが、まぁそこはこの世界の文化を知る人に任せた方がいいだろう。


調理を待つ間は温泉。

気分が高揚して身体は寒くなかったが、リフレッシュついでだ、入っておく。

チコルの実もいくつか。

飽きた飽きたと言っておいてなんだかんだ食べるのである。

美味しいしね。


そして、湯船から上がり。


「あぁ、ちょうど出来たところですよ。水炊き、焼きです」

「おおっ!」


ちょうど、木の皿に料理が盛られているところだった。

あら汁のような、ほとんどそのままプッチーを煮込んだ汁。

これまた、鱗と皮を剥いだだけのプッチーを焼いた串。

どちらもかなり大雑把だが、料理が目の前で出来ているのだ、感動は凄まじい。


「じゃあ、いただきます」


俺が食べるのを一斉に見る狐尾族。

もちろん、すでにその手には食事が渡されているが、俺が食べるまでは食べないらしい。

もういい加減こういうのも慣れたので、スルー気味に。


「ん、んまい!」


塩すらない現状において、魚の出汁だけでこんなに美味しいとは。

果物ばかり食べていたから舌がだいぶ参っていたのだろうか。

狐尾族の女性が一気に安堵のため息をついた。

そんなに緊張しなくていいのだが……


焼きのほうも一口。

かなり淡白な味わいだ、秋刀魚とかの身の食感に近いだろうか。

噛めば旨味が出てきて、こちらも絶品。


俺が両方を食べると、狐尾族も続々と食べだす。

みんなの舌にも好評なようだ。


「今度行くときは俺も連れて行ってくださいよぉ」

「あ、俺も俺も! トモハル様お願いします!」

「あぁ、一緒に行こうか。そのためにまずは運搬用のソリと人数分の釣竿を用意しないとな」


若い男衆が続々と釣りの参加を志望してくる。

俺としては話す奴ができるのはありがたいことだ。

魚は干物にもなるから数をとっても困らないし、狐尾族的にはプッチーは雑魚らしいので、取れるだけとってきても環境にも問題はないだろう、とのこと。


よぉしこれから楽しみだぞう。

改善点などあったら感想欄にお願いしますー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ