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第15話 魔術その3

「自然の力よ、応えよ。《火球(フレア)》」


しーん。


「やはり無理だと思います……私たちは海遊族ではないので魔力の流れはわかりませんが……」

「ダメかぁ……」


やっぱり、上手く出来ないらしい。

一通りの下級魔術を試したが、どうあがいても絶望。

もうだめぽ。

これで俺が主人公ならば秘められし力がー! とか言ってなんかとんでもなく右手が疼くのだろうが……


「要領が悪い訳でもありませんし……」

「いっそ魔法陣の技術を磨くべきでは……いえ、それでもやはり基礎がないと……」


ラクとマカの二重教師体制による指導。

別段教鞭を振られたりするわけでもないし、指導というよりはお願いしているだけだが……


いかんせん、憧れる。

マカの話を聞く限り別に勇者だなんだと躍起になる気はさらさらないわけだが、やっぱり火を出したり氷を出したりってやってみたいよね。


なのだが。


「魔力は足りてるんだよね、マカさん」

「えぇ、理論上可能なはずなの……」


素の口調で話し合い始める二人。

あの口調で普段から俺とも接して欲しいのだが。

ほんとに、切実に。


「やっぱり……あの説は正しいのかなぁ」

「あの説?」

「あぁ、とある学士が言ったものなんですが……」


学士曰く、向こう側、いわゆる俺の前世の人間たちは自然に嫌われている。

魔術とは自然を使役するものであり、それに嫌われたものたちは魔力が有ろうと無かろうと魔術を行使することは出来ないのだとか。

元来、あらゆる生物は魔力を持っており、人間も例外ではない。

つまり、自然を愛することが出来れば魔力を用い、魔術を使えるはずだが……


「どうやら自然の方は、人間全体が嫌いだ、というのが学士の言うことだそうで」


まぁ、そうなるわな。

ここ数百年の話といえど、人間は確かに自然に対して強行的だ。

自然という概念に意識があるのなら、人間はさぞかし恨めしいだろう。

もしくは、自分の思い通りに動かない邪魔な存在、と。

人間自身が思うエゴ、と言われれば言い返すことは出来ないのだが……


「ですが、異世界人でも魔術を使えるものはいますし、本体のままこちらに来るより、あちらの記憶を残してこちらで人生をリセットする、という、ある種転生のようなことをすると魔術師として根付きやすいそうです」


なるほど。

つまり、人間という概念がこちら側のものに書き直される……ということか。

もしくは、赤子は人間という存在として未熟ゆえに、自然に値するもの、として考えていいなかもしれない。

成人という言葉がある。

20歳になると成人式を行うのが向こうの常識だったが、つまるところ……20歳になるまで人には成れない、ということだ。


「……なら、こんな姿になったのに使えないのは……」

「…………」

「…………」


ご覧の有様です。

まぁマカだって別に魔術の専門家というわけではない、ただ上手いだけだ。

追い詰めるように問うのはいささか酷だろう。


「はぁ、流石にファンタジーな力を期待するのは難しいか……」

「うーん……できることはあると思うのですが……」


これ以上ラクやマカたちに頼り切るのも……


「はぁ、お腹空いたなぁ」

「ですねぇ」

「外に行きましょうか」


なんとなくお腹も空いたし、移動することに。

空気が若干重くなったのもあるし、まずは腹を満たす。

人間、まぁ人間以外も存外単純な構造で出来ている、食欲が満ちれば大抵の欲求は鎮まるものだ。


とはいえ。


「……ただ甘いのも、うん……」

「試せるものは試しましたしね」


一応水と火は使えるようになったので、チコルの実を多少調理はしたが……

そもそも調味料がないので、ほとんど味も食感も変わらない。

ジュースになったぐらいか。

それも味が薄まっただけだし。


まぁ、つまるところ。

飽きた。


「たまにはもっと良いもの食べたいよなぁ」

「トモハル様は異世界人ですし、やはり味が濃いものがお好きなのでしょうか」

「……まぁ、ねぇ……」


チコルの実だって不味いわけじゃない、前世の住民だってかなり好きな人は多いだろう。

それでも、主食にしたいかといえば……


「せめて何か……噛めるものが欲しいなぁ……」

「ですが、雪の下から芽吹くのはまだかかりますし……」


雪の下、ねぇ。

ふきのとうだとか、そういうのもあるのだろうか。

まぁもっとファンタジーなものが生えて来るのだろう。

土管から生えて来る人食い花みたいな。


「雪の下……雪の……」

「どうなさいました?」

「いや……」


そういえば、雪はある、んだよな。

それで、この雪は季節になればちゃんと溶ける、と。


「……どこかに湖とかないかな」

「湖ですか? 遠くはありませんが……」

「魚とかって」

「いますが、氷が張っていますよ?」


そんなことは想定内だ。


「魚取ろう」

「「へっ」」

「氷に穴開けて」

「む、無茶ですよ! 2m以上も氷はあるのですよ!」

「魔術で穴は開けられないかな」

「それは……可能、ですが、釣りをするにしても餌や糸が」

「餌はチコルの実で……糸は俺の髪の毛で……魔術で強化とかできない?」

「で、出来ないことはないですが……」


針は木でも出来ないことはないだろうし、道具は揃うだろう。


「あと、たしか……魔法陣で持ち歩きも出来るんだよね、魔術」

「えっと、はい……」

「一人で行って来るよ、地図に場所だけお願い」

「そ、そんな」

「外、寒いよ?」

「う……」


意外と、狐尾族の中でも寒いことに若干トラウマを持ってしまったものは少なくない。

雪崩に飲み込まれたせいで、ラクもその一人だったりする。


「それに、危なかったらすぐ帰って来るよ」

「イマイチ、トモハル様のそれは信用ならないのですよね……」


えぇ……

無茶しすぎたからだろうか、変な信用を得てしまった……


「じゃあ、日が落ちるまでには戻るから! ね?」

「……ちょっと会議します」


ラクとマカが俺を蚊帳の外にして話し合いを始めた。

保護者か。


そして、協議の結果。


「今回は良しとしますが……絶対に無茶だけはなさらないように」


保護者か。


ともかく、保護者同盟から許可が出たので、暇つぶしと食料のために準備を進める。

ひと釣りいこうぜ!

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