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第10話 青天の霹靂

「すっげ……寒くねぇ……」


適当に布を家からたれ下げ、それを石で塞ぐ。

風は入らず、地熱がこもってむしろ暖かい。

土と身体の間にも布でワンクッション出来たからな。


「んー……」


…………。


「んー……」


…………


「んー……」


……やっぱりやる事がない。

衣食住揃ってしまうと人間目標を見失うのだ。

結局、生活の基盤を整えるには技術は無いし、かといってこれからの冬の間にあの村に行くのは気がひける。

だって他のもの要らないって言っちゃったし。

物乞いとは言われないだろうが、自分としてなんかヤダ。


「……んー……」


せめて、いろんなものを作ってみるのなら、夢を見るべきだろうか。


あの温泉を使った温泉宿。

きっと繁盛するだろう。

……経済とか医療とか知らないから結局は無理だろうけど。

だって赤字とか急病人とか多分俺が精神衛生的に無理だ……


「……温泉でも入るか」


結果そこに落ち着いてしまうのだった。


「くぁぁああぁぁああ……」


脚を思いっきり伸ばし、温泉へ。

ほんと、これがあれば生きていける。

あ、いやあとひとつ。


「ん、あまっ、うまっ」


かぶりつく……なんだっけ、チコルの実だっけ。

ラクから無毒だと教わった以上、もう歯止めは効かない。

食べれるだけ食べるのだ。

まだちょっと怖いといえば怖いけども。


はぁ、これが冷えたフルーツ牛乳なら。

果汁も少なく無いし、牛乳と砂糖さえ手に入れば……

いやでもこんな雪国だし、砂糖は手に入らなそう。


その時。


ズズズズズズ……

「な、なんだ?」


軽い地震。

地震慣れしてる日本人故、一応焦りはしないが……


ズズズズズズ……


その残響が消えない。

揺れているというより、轟いている?(・・・・・・)

はるか遠くの方から……振動が……

あっちの方は確か……


「ラクの村の方じゃねぇか!」


急いで支度。

一度面倒を見てしまった故、もう何かあったら放っておけない。

優先することもないし、そもそも最優先事項だろう。


湯冷めを肌に感じながら走り抜ける。布がある程度役立つかも、と一応持っていく。

雪の上の割にはそれなりの速度が出せていると思う。


そして、村にたどり着くと。


そこには。


「……あれ、確か、この辺りの……」


何も無い。

確か、この山の麓だったはずだ。


……あれ。

あの山、あんなに土が見えていただろうか。

まるで、雪が剥がれたような……


「……違っ!?」


そうだ、あれは剥がれたんだ。

山がおかしいんじゃない。

あれが、本当の姿なんだ!


「雪崩……!」


山に積もっていた雪が全て落ちていったのだろう。

それで、おそらく、村は……!


「ぅ……ぐ……!」


こんなの、どうしようもない。

助かる見込みなど、あるはずも……

無力感に腕を雪に叩きつける。


すると。


どくん……どくん……

「へっ」

どくん……どくん……


聞こえた。

なんだこれは。

心臓の音だ。

俺のものじゃない。

俺のはもっと早い。


じゃあ、誰の。


どくん……どくん……

「ーーー下からっ!」


無我夢中に掘る。

鼓動は掘れば掘るほど大きく、強くなる。

そして。


雪の中から、白以外が見えた。


「おい、おい!」


そのまま掘りすすめる。

一メートルは掘っただろうか。


「ぐ……ぁ……」

「生きてる、生きてるな!?」


見つけたのは男性。

20歳ほどだろうか。

全身が真っ赤だ、凍傷一歩手前だろう。

キツネの耳と尻尾がある、やっぱり村は雪崩の下敷きになっていた。


「あ、あんた、は……」

「よしもっと話せ! 脳を動かせ! 生きてるんだろほら!」


一瞬でも頭の電源を落とさせない。

感情のままに音をブチ込む。

ほんの少しでもいい、刺激を与え続ける。


「この布で暖をとっとけ、いますぐ! 身体起こせ!」

「わ、わかっ、た」


起こせるわけもないので、そのまま俺が起こす。

このまま雪の穴の中にいたほうが風などで冷えることは少ないだろう。

布を渡し、次へ。

横に掘ることは出来ない、雪をかきだす場所がない。

全部一から。


どくん……

どくん……

どくん……

「この、数を……?」


そこらじゅうから心音は聞こえる。

どうにかなりそうだった。

いくつかはもう事切れそうに。


「……あぁもう!」


迷っていたら誰も救われない。

直感でいい、働け。

殺すために俺はここに来たんじゃない、助けるために。


また雪を掘る。

手のひらの感覚がない、これは死んだかもな。

ここまできたらヤケクソだ。


「ぅ……」

「生きてるな!? おい返事しろクソッタレ!」


もう頭に浮かんだことを直に口に出していく。

思考0だ、大声を出さないとこっちが滅入る。


「……わた、し、は」

「よし生きてるな! そのまま歌でも大声で歌え! 頭動かせ!」


見つかったのは女性。

細身だが、明らかにさっきの男性よりも無事だ。

場所が良かったのだろうか。


「そっ、か……そうだ、なだれに、のまれ……」

「そうだ! だけどもうそれは考えるな! 傷になる!」

「……いいえ、ほんのすこし、失礼します……」


そういうと、女性は。


「へっ」


俺の胸に手を当て。


「大いなる自然の王よ。我らが願いを聞き入れたまえ。《飛翔(フライ)》」


かすれるような声で、言った。


「……ッ……」


脳に暗闇が立ち込める。

これは……俺も限界だったということか?

そして、俺は意識を落とした。

改善点があれば感想ランなどによろしくお願いします。


1/22 修正しました

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