第1話 きゅうん。
初めまして。
TSものは久しぶりに書くので、どれぐらい続くかわかりませんが、頑張ります。
「はっ……」
……。
「はっ……」
…………。
「へくちっ……」
んん……可愛い。
じゃなくて。
「誰か助けて……」
あぁ唐突だろう、だれもが混乱を隠せないだろう。
知らん知らん、同情するなら宿をくれ。
何? 状況がわからないから同情の余地もない?
……ごめんなさい。
じゃあ、とりあえず過去回想から。
〜〜〜〜
きゅぅん……
「…………」
あなたはどう思うだろうか。
夜、雪の日、緑3割灰色7割のギリギリ都市と言えない郊外、大学からの帰還中。
目の前に道路に瀕死の狐が倒れている。
大方轢かれたのだろう、ホモ・サピエンス文明の犠牲者だ。
善良な市民ならば助けるだろう。
悪辣な市民ならば……んん、俺は善良な市民なのであまり思いつかない。
というわけで助けようか、と思い手を伸ばしたわけだが……
「……あー、なんか寄生虫かなんか持ってるんだっけ……」
エキノ……なんだかとかいう、やばいやつ。
それ以上の知識は俺の頭脳図書館には記録されていなかったが、とにかく野生のキツネに触ることは危ない、そうとだけ覚えていた。
きゅぅん……
すまぬ無力なキツネよ、許してくれ。
我が身可愛さと今後の医療費から、俺は見捨るほうが素晴らしい選択肢だと考えた。
きゅぅん……
「…………」
ねぇやめて、そんなにつぶらな瞳で見つめないで。
キツネってあれじゃん、昔話じゃウサギと並んでツートップの悪役じゃん。
ニヒニヒ笑って小粋なダジャレを言って気温を氷点下にしたりするじゃん。
お願いだからそんなにこっちを……
きゅぅん……
中略。
「これは慈善活動……動物愛護的視点の活動……」
なんとか自分のやっていることに意味を見出そうと、受験期の学生もかくやというほどに自分を騙しこむ。
間違ってないことをしているはずなのになんだか辛くなってきた。
思考回路はショート寸前だ。
ハンカチを最終防衛ラインとし、首の後ろをつまむ。
なんとも、事情を知らないものにはよろしくない光景だが、多分これが適切だろう。
幸いここは視界の7割は人工物で埋まる場所だ、動物病院など把握はしていないがすぐに見つかるであろう。
「では保護しておきますので、ありがとうございます、西村友晴さま」
くぁー……
案の定はやく見つかった。
通常の動物病院では野生の動物はなかなか受け取れないんだよ、とドクターらしい小太りの紳士が笑っていた。
その大柄な身体と比例して素晴らしい人徳をお持ちらしい。
そうそう、俺の名前は西村友晴……うん、まぁ誰にいうべくでもないただの自己紹介だ、忘れてくれ。
キツネが病院に入った瞬間にあくびでもかまさなければ今回の救助活動は満点を差し上げても構わないだろう、やったな西村友晴。
そう、満点を上げても良かった。
そして、人間は忘れがちだが……小学校では、最も大事なことを多く習う。
そのうちの一つ。
帰るまでが、遠足です。
「ゔ……がっ、かっ……!?」
腹が熱い。
煮え繰り返るようだ。
いろんなものが逆流する、嘔吐だけにとどまらず、赤いものまで見えた。
足に力が入らなくなり、集められていた雪の中に身体を打ちつける、冷たさが心地よい。
だが、その苦しみが消えてくれることはなく。
意識を、手放した。
「ーーーはっ……」
まるで8時間は寝たようなちょうどいい気だるさだ。
あと5分と言わず5世紀は眠りこけたいと身体が申し上げる。
その意見、しかと受け取った。
であれば叶えねばなるまい。
おやすみなさー……
「寒っ!?」
飛び起きること矢の如し。
いやその跳ねようは弓と形容することが正解だったか……
いや待て、個人的心境の表現に四苦八苦している暇はない、そんなことに使っている脳の容量を状況理解に少しでも回すのだ。
「……こんなに雪が降るなんて」
一面のスノーホワイト。
どこからかマフラーとメガネをつけたペが歩いてきそうだ。
とは言え、建物すら見えない。
あたりは雪、雪、雪。
いや……なにこれ。
「……うわっ」
立ち上がろうとして、前にバランスが崩れた。
まだ頭が混乱していたのだろうか……
いや、まて。
今の高い声誰の声だ。
……もちろん、あたりには誰もいない。
「…………」
念のため、念のためだ。
「……あ」
あー……
あー、あー……理解した。
理解できないということを理解した。
「……ん」
んー……
いや連続で同じネタを使うとは俺の語彙力も……
じゃなくて。
なんだか、お尻に違和感が。
「…………」
否定したい気持ちを胸いっぱいに広げて。
お尻に手を。
もさっ。
「…………」
もさもさっ……
生えてる。
いや毛深いとかのレベル超えてる。明らかに……認めざるを得ないだろう。
尻尾。
「……マジでか」
そして、この若干ハスキーな声も。
「俺、のか……」
そして、この、眼下に見える。
否定したい気持ちで膨らんだのであろうか、であれば即時修正を求めたい。
つん。
「……やわらかっ」
古来より、このセリフが出た場合、それは夢ではないことの証明となる。
古事記にもそう書かれている。
「……胸……だよ、な……」
それはチェストではなくバスト。
肌色女体山脈。
学生たる俺の目には絶対的な毒として働くであろう、それ。
女性の、胸であった。
「ていうか、なんで裸!?」
寒いわけだ。
「あぁもうわけわからん…….」
頭を抱える、物理的に。
すると。
もふっ。
「…………」
悩みのタネがマシンガンのように飛んでくる。
尻尾と同じようで、なんだか違う感触。
「……耳、か」
もふもふとした、耳。
それには、なんだか触り馴染みがあった。
「……ひょっとして、あのときの」
キツネの耳。
ほんのちょっと興味本位で触ってみた、ちいさな耳。
だんだんと思い出してきた、俺はあのときの謎の腹痛に襲われて……
「……は、は、へくちっ!」
だめだ、考えている暇はない。
とにかく、雪と風をしのげる場所を探さなければ、死ぬ。
これ死ぬ。
ここで回想は終了する。
〜〜〜〜
であるが。
「…………なんも、ない……」
このままだとさっきの回想を今度は走馬灯モードで鑑賞することになりそうであった。
第1話をお読みくださりありがとうございます。
現在より、1時間刻みで第七話まで投稿されますので、よろしくお願いします。