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幸運を探すカミサマと、不幸な少女の願い

初投稿です。

どうぞ最後までお付き合いください。

 深夜2時、決まった時間に聞こえる騒音で私は目を覚ます。育ち盛りの15歳には酷な仕打ちだ。

 いつもギスギスしていて、顔を合わせれば互いに不満をぶつけ合い、喧嘩を始める両親。下の階から私の部屋まで怒鳴り声、喚き声が聞こえてくる。


「うる……さい……なぁ……」

 布団を頭から被り、イヤフォンで耳をふさいで必死に騒音から逃げる努力をする。音楽でも流して気を紛らわそうとしても、時折聞こえる陶器の割れる音で現実に引き戻される。勘弁して欲しい。

 とにかく頭に浮かぶ負の感情を無にする。神様、私何か悪いことしましたか?


◇◆◇


「おはよー、ねぇ昨日出された数学のプリント、問7の答えわかった?」

「えっ、宿題とかあったっけ?」

 朝の教室、昼休みや放課後同様、この時間は周りが雑談していて騒がしい。窓から見える風景だけが、私を癒してくれる。賄賂を送ってでも確保した甲斐があったものだ。


「あの雲はどこに行くんだろ、私も連れて行って欲しい」

 頬杖をつき、ぼんやりと青い空を流れる雲を眺め続け、微かな声で呟く。とても有意義とは言えない時間を過ごしていると、ホームルーム開始の鐘の音と共に担任教師が教室に入ってくる。


「チャイムなったぞー。席につけー」

 見慣れた光景、テンプレ通りの日常。


「退屈……」

 そう呟いたところで、世界が変わるわけではない。現実は非常なのである。

 数え切れないほど長い溜息をつき、先生の話を無視して再び窓の外へ意識を向ける。ちょうどその時、数羽の鳥が電線から空へと飛び立った。

 私にも翼があれば、この物足りない生活も少しはマシになるのだろうか? 空は自由だ、何にも制限されることもない空間だ。


 「スクープにはなりそうだよね、鳥人間発見! とか?」

 おそらく昨日の騒音の所為の寝不足のためだろう、IQがずいぶん低い思考をしている。こんな時にとる行動はただ一つだ。筆記用具を筆箱に戻し、ベストポジションを探す。


「今度は誰にも邪魔されませんように」

 無駄な願掛けをし机に突っ伏すると、視界を暗闇が包む。耳から聞こえてくる退屈な授業も、やがて聴こえなくなる。

 私の意識は深い闇へと落ちていった。


◇◆◇


 寄り道もせず真っ直ぐ家に帰り、玄関で靴を脱ぐ。

「……ただいま」

 挨拶が返ってくることはまずありえない。この時間の両親はどちらも働きに出ているのだ。おかえり、なんて聞こえてきた場合は迷わず110通報である。それでも挨拶してしまうのは昔の習慣、というものだろう。


 とても静かだ。まるで、私以外誰も住んでいないかのような無音。それがとても心地よい。

 自分の部屋に入り、制服から寝巻に着替え、学校の課題を終わらせる。

 まるで毎日が同じ日のように決まりきった行動。私は機械で出来ているのかもしれない、なんて考えが頭をよぎる。 鳥人間のように現実味がないことだが、妙に納得してしまう自分が悲しい。機械ならば感情をデリートすることはできないのだろうか。


 無意義な想像をめぐらせながら、夕飯、入浴、就寝とテンプレ化された日常を終える。今日こそぐっすり寝られますように。


◇◆◇


 深夜2時、2つの罵声が私を苦しめる。この世に神は存在しない、いるなら一発殴らせてください。


「いや……やめてよぉ……」

 何も聴こえない、聴きたくない、聴かせないで! 両手で耳をふさぐ、ギリギリと嫌な音がする。私が歯を食いしばってる音だろう。


「もう、耐えられない……!」

 両親にバレないよう、音を立てずに玄関から外に飛び出す。ごめんなさい、私は今晩だけ不良少女になります。

 どこかへ行く訳でもなく、ただひたすら走った。私を苦しめるものから逃げるために、私を縛り付ける鎖から離れるために。


「はぁ……はぁ……っ!」

 やがて息が切れ、足を止める。辺りを見回すと、人気の無い土手。月は雲に覆われて、街灯の光だけが私を照らす。


「なにやってるんだろ、私……あはは」

 呼吸を整えながら、自分に呆れ、笑う。こんなことをして、意味があるわけがない。寒いし、風邪をひくだけだ。


「げっ、トリフォパイセン!? 今見つかったところなんで、もちょっと待ってください!」

 自分の足元から、可愛らしい声が聞こえた。無視すればいいものの、自分と同い年かそれ以下の少女が出すような声色に興味をひかれた私は、声の主を探す。


「……誰かいるの?」

「あれ、パイセンじゃない? どちら様ですか?」


 声のする方へ視線を向けると、小学生程度の身長の少女が、こちらをじっと見ていた。

 若緑色の短髪とみ空色に輝く瞳、女の私からしても文句の付けようがない美少女。ただ、上下白色のジャージに身を包んでいることにツッコミを入れたい。せっかくの可愛さが台無しである。


「って、あー! せっかく見つけた四つ葉のクローバー、どっか行っちゃったじゃないですか!」

「…………え?」

 少女はこちらに走り寄ると、涙目になりつつ私の胸ぐらをつかみ、前後に揺らしてくる。かわいい。


「セキニン! セキニンとってください! ……なんて言っても仕方ないし、とにかくまた見つけないと」

 ぶつぶつと何か文句をいいながら、少女は元居た場所に戻り地面とにらめっこを始める。この人は、何なんだろう? 警戒心よりも妙な好奇心が湧いてくる。


「あの、こんなところで何やってるの? もうすぐ2時半だよ、お家に帰らなくていいの? じゃないや、まず……お名前は?」

「そうまとめて質問しないでくださいよ、混乱してしまいます。最後のほうから答えていきますが、私の名前は草摘(くさつみ)(つくも)。家には帰らなくても平気です、そういう家庭ですので。そして見ての通り、幸運を探しています」

「幸運って……さっき見つけたって言ってた四つ葉のクローバー?」

「そうです、見つけていたのに誰かさんが声をかけてくれたせいで見失っちゃった四つ葉のクローバーですよ」

「ご、ごめんなさい」


 このままではなぜか申し訳ないので、私も白と共に幸運を探すことにした。それにしても、街灯の光しか当たらないこんな時間になぜクローバー探しなんてことをしているのだろうか。

 質問を呑み込み、スマホの光を当てながら数分探していると、そこには一つだけ葉の多いクローバーがあった。


「あ、見つけた!」

 私はクローバーを摘み、白に見せる。


「ちょっと待ってください! それは摘んじゃダメです! ……って、時すでに遅しでしたか」

 白はあーあー、と頭を抱えその場に蹲る。


「え、え、何かだめだった?」

「四つ葉のクローバーはですね、最初に摘んだ人が幸運になる規則なんですよ」

「そう、なんだ?」


 よくわからない自分ルールがあるらしい、子供の発想力は偉大である。感心するとともに、何だかすごく悪いことをしてしまったような気がした。


「あの……これ、白ちゃんが最初に摘んだってことにしてあげるけど――」

「それはダメなんです、あくまで最初に摘んだのは貴方なんですから」

「でも、こんな時間までずっと探してたんだよね? それも一人で」

「いやいや、クローバー自体が欲しかったわけじゃないんですよ」


 白は腕を組み、眉間にしわを寄せ数十秒沈黙する。その後、何かを諦めたようにため息をつき、自分の頬を叩いた。少し涙目になっているところがまた可愛い。


「先に摘んだのは紛れもなく貴方です、規則は規則! さぁ、願いを聞きましょう」

「…………はい?」

 突拍子もない言葉に間抜けな声が漏れる。急に変なことを言い出すものだ、子供はやはり凄い。いろんな意味で。


「ほら早く、できる限りのことは叶えられますよ」

「あの、意味が分からないんだけど」

 白は疑問符を頭に浮かべ、呆然と私を見ている。私はその倍以上の疑問符を浮かべているのだが。


 しばらく見つめ合った後、白が「ああ、そっか」と言い、どこから出したのか杖と月桂冠――葉のついた月桂樹の枝を輪にして冠としたもの――を取り出す。


「これでどうでしょう」

「…………」

 どうでしょうもなにも、意味がまったくわからない。白は何を訴えているんだろうか。

 頭に月桂冠を被り、杖を片手に持った白が月の光に照らされる。おまけに服装は真っ白なジャージだ、下手な漫才よりも面白いのは認めよう。


「これでもわかんないんですか? カミサマですよ、カミサマ」

「神様……?」

 白は満足げに頷く。微笑ましくて思わず笑ってしまった。


「あ、それは信じてない顔ですね。少し怒りましたよ私は」

 ふくれっ面になった白が私に向かって杖を振る。すると、ゆっくりと私の身体が重力を無視し、空中に浮き始めた。

「きゃっ! な、なにこれ!?」

 手足をバタバタと振り回すとその動きに応じ、私の体は一回転したり、上空へ昇ったりする。


「よいしょっと、コレで信じてもらえましたか?」

 白が私の目線に合わせるように宙へ浮かび上がってくる。催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。

「ほ、本当なんだ……すごい! 本当に神様なんだ!」

「だから言ったじゃないですか。まあ、普段は雲の上にいるからめったに会うことはないですけどね」

 満足げに微笑む白を見つめながら、私はなんとかバランスを取って、空中で体勢を整える。

 実をいうと私はとてつもなく興奮している。目の前に、願いを叶えてくれる神様がいるのだ。どうしよう、聞きたいことが多すぎて頭の中がぐるぐるしている。


「あの! 天界ってどんなところなんですか?」

「テーマパーク的なものを想像してるのなら残念ですがそういうものはありませんよ。一般的には下界を見ながらまったり暮らしています」

「いいじゃないですか! のんびり出来るのはとても素晴らしいことです」

 私はなんて幸運なんだろうか。この退屈な世界から離れ、幸せな世界への切符を掴んだのだ。


「そ、それじゃあ、さっき願いを叶えてくれるっていいましたよね?」

 私はさっき、白が言ったことを思い出す。

「神様に二言はありません。といっても、私の出来る範囲でですけどね」


「なら私、天界に行きたいです!」

 力いっぱい宣言した。これで頻繁に開催される両親の喧嘩とも、無意味な日常とも、テンプレ化された習慣ともお別れだ。初めて生きててよかったと思った瞬間である。


「……ごめんなさい、それは規則で禁止されているんです」

 厳しい現実が突き刺さり、期待が崩れていく音が聞こえた。

 どうやら、私は天界を完全に自由な場所だと勘違いしていたようだ。そんな束縛があるなら、ここと変わらないじないか。

 だったら、願いなんてものはもう――。


「私としても、天界に興味を持って行きたいって言ってくれたのはとても嬉しかったんですけどね」

「もう、いらない!」

「…………はい?」

「願いなんて、幸運なんていらない! こんな無意味な世界はもういらない!」

 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 ここまで夢を見させておいて、また現実に戻るなんて絶対に嫌だ! それならもういっそ!


「この世界を壊して! 全部無茶苦茶に、壊して……」

 目から涙がこぼれ落ちる。私は何のために生まれてきたのだろう? どうしてこんなに不幸なんだろう?


「……………………わかりました」


 白の言葉を理解できず、私は聞き返そうとした。だがその思いは届かず、次の瞬間、視界が闇に覆われた。

読みやすさ重視での改行を行っています、何かあればどんな形ででも結構ですので連絡ください。

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