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【26年7月アニメ放送開始】ヒロイン?聖女?いいえ、オールワークスメイドです(誇)!  作者: あてきち
第9章

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第4話 レクトの決意

 レクトはソファーに腰掛けたまま深々と頭を下げた。

 答えを聞いたクラウドは大きくため息をつく。


「そうか……随分、遠回りをさせられたな」


「……あの、閣下。メロディの、いえ、お嬢様のことはどうやってお知りになったのですか」


 メロディの正体に気付いている者は自分だけだとレクトは考えていた。クラウドはどこでこの事実を知ったのだろうか。


「……セレナが教えてくれたのだ」


「え? ……セレナ様が、ですか?」


 ポツリと呟いたクラウドの言葉にレクトは首を傾げるが、クラウドはすぐに首を横に振った。


「いや、何でもない。この前彼女が我が家に来た時に気が付いた。それだけだ」


「そんなことが……」


 とても信じられないと思ったが、レクトはすぐに考えを改めた。

 春の舞踏会でクラウドが初めてセシリアを目にした時、彼はレクトにこう告げていたのだ。


『不思議なことにな、セシリア嬢を初めて見た時……なぜかセレナを思い出したのだ』


 クラウドは初めてメロディと出会った時から、既に血の繋がりを感じていたのだ。彼が独力で事実に気が付いてもおかしな話とは言い切れなかった。


 ましてメロディのそばにはセレナにそっくりな少女、セレーナがいる。二人を見比べれば勘のいいクラウドならば、いつか真実に辿り着くことは必然だったのかもしれない。


「……ちなみに、セシリア嬢がメロディの変装であったことも知っている」


「そんなことまで!?」


 一つの事実に気が付けば芋づる式に答えを導き出してしまったらしい。我が主ながら何という洞察力だと、レクトは驚嘆した。


 まさか全て夢を通してセレナから教えてもらったとは、夢にも思わないレクトである。

 クラウドもまた愛する女性との大切な思い出であるため、詳細を語ろうとはしなかった。


「重ね重ねお嬢様のことを黙っており、申し訳ありませんでした。この罰はいかようにも」


「いや、いい。お前は私の娘の夢を守ってくれていたことは理解している。咎めはしない」


「……ありがとうございます」


 メロディの夢は『世界一素敵なメイド』になること。何とも抽象的な目標だが、それを実現するためにはメイドであり続ける必要がある。


 レギンバース伯爵家の娘として引き取られればそれが叶わぬことを、クラウドも理解していた。

 クラウドにとっても苦渋の決断なのだろう。その表情は晴れやかとは言いがたい。


「閣下、メロ……セレスティお嬢様を引き取ったうえで、ルトルバーグ家のメイドとして働くことはやはりできないのでしょうか」


「……難しいな」


 クラウドは眉根を寄せながら首を横に振った。


 レギンバース家とルトルバーグ家はどちらも同格の伯爵家だ。ましてやルトルバーグ伯爵は、クラウドにとっては宰相府における部下でもあり、一般的にはレギンバース伯爵家の方が格上という認識で間違いないだろう。


 メロディがルトルバーグ家でメイドをするということは、格下の家へ自分の娘を奉公に出すということであり、貴族社会の常識で考えればありえないことだ。


 それはまさに、娘であるセレスティを蔑ろにしていると言われても否定できない行為だった。ただでさえ婚外子という立場であるのに、そんなふうに扱われては貴族社会にセレスティの居場所はなくなってしまう。


 娘として引き取るなら、とても許容できることではなかった。だからこそ、クラウドは「今は引き取るつもりはない」とレクトに告げたのである。

 それはレクトも理解していたので、ずっとクラウドに告げられずにいたのだ。


「……今はあの子を見守ることができればそれでいい。夢を目指して頑張る娘を陰ながら応援できれば十分だ……もう、どこにいるのか分からず不安に思うこともないのだから」


「閣下……」


 優しく微笑むクラウドに、レクトは何と声をかけてよいのか分からなかった。寂しくないはずはないのに、彼は父親としての愛情を優先しているのだ。


 だからこそ、レクトは尋ねなければならなかった。


「……せめて閣下が父親であることをお嬢様に知らせてはどうでしょうか」


 娘として引き取ることができなくとも、メロディが実の父親を認識することは問題ないのではないだろうか。レクトはそう思った。

 しかし、しばらく無言でいたクラウドは名残惜しそうにゆっくりと首を横に振る。


「それはやめておこう」


「なぜでしょう。メロディだって喜んでくれるはずです」


「……そうかもしれない。だがきっと、負担になる。知らない振りを続けるのはつらいだろう」


 クラウドが自分の父親だと知れば、当然メロディはそれを意識するだろう。優秀なメイドである彼女は、夢を応援してくれる父親が自身を引き取らない理由もすぐに察する可能性が高い。


 そうなれば優しい彼女はきっと気に病むことになる。父親として娘を家族として迎え入れるのは当然のことであり、それを阻害している原因は『世界一素敵なメイド』になりたいという、メロディの夢なのだと。


「せっかく夢に向かって邁進している娘の足枷にはなりたくないのだ」


「そうですか……」


 少し過剰な気もするが、クラウドの懸念も分からなくはない。セシリアとしてクラウドと手紙のやり取りをすることに、メロディは少なからず罪悪感を抱いていた。まったくの取り越し苦労とは言い切れないことはレクトにも理解できた。


 陰ながらにはなるが、クラウドがメロディに深い愛情を示してくれることに安堵する一方、父と娘が仲睦まじく寄り添えない現実をレクトは残念に思う。


 そこまで考えて、レクトはハッと気が付いた。


「……閣下、セレディアお嬢様はどうされるのです」


 クラウドとセレナの娘はメロディだ。目の前の主はその事実をとうとう知ってしまった。であれば、セレディアが実の娘でないことは明白だ。


 普通に考えれば詐称の罪に問われても仕方のない行為であり、場合によってはセレディアを連れ帰ったセブレにも影響が出るだろう。


 少し前のレクトであれば、メロディが立つはずの場所を奪ったセレディアを糾弾することに否やはなかったが、メロディから事の真相を聞いた今となっては判断に迷う。


 本来レギンバース家の人間ではないのだから伯爵家を出ることは当たり前のことなのだが、操られていた人間を人違いだからと放り出してしまうのも何か違う気がして、レクトには判断できなかった。


 レクトの質問にクラウドは虚を衝かれたような顔でしばしポカンとして、すぐに表情を改めた。


「何も変わらない。これまで通りだ」


「……と、言いますと?」


「セレディア・レギンバースはこの私、クラウド・レギンバースの娘である、ということだ」


「それは……」


「もう決めた。だから何も言うな」


「――っ、畏まりました」


 一瞬気圧されるレクト。クラウドの瞳から確固たる信念を感じ、レクトは口を閉ざした。主がそう判断したのならば、騎士である彼はそれに従うのみである。


(それに、これまでとは状況が違うしな)


 既にクラウドはメロディが実の娘であることを知っている。それを分かったうえでセレディアを娘として引き取るというのであれば、最終的にメロディの立場が脅かされる心配はないだろう。


 レクトは安堵の息を零した。


「それで、レクティアス。冬季休暇に入ったらセレディアと観劇に行こうと約束したのだが、何の演目を見たらよいだろうか」


「……私に分かるはずもございません。侍女長に聞いてみてはいかがでしょう」


 安心はしたけれど、いきなりそんな家族サービスの相談をされてもレクトに答えられるはずがなかった。


「そ、そうだな。そうしてみる……」


(不思議だ……閣下が父親をしている)


 これまでクラウドは、セレディアに対してとても淡泊な反応を見せることが多かった。しかし、今日の彼はどうだろうか。まるで思春期の娘との交流に苦労している父親のようではないか。


 気難しそうに表情を歪めているが、ほんのり頬に赤みが差し、照れているようにも見える。昨日までそんな素振りはなかったというのに。


 セレディアの事件の直後、屋敷に戻ったら唐突にそんな表情を見せるようになっていた。


(どういった心境の変化だろうか……)


「今後の冬の舞踏会では私がセレディアのパートナーを務めるつもりだ」


「閣下がですか?」


「ああ。本当は夏の舞踏会でそうしてやるべきだったんだがな」


 クラウドは自嘲するように微笑んだ。


「……セレディア様も喜ばれるのではないですか」


「そうだといいな……あの子とはまだダンスの一つもしたことがなかった」


 そう言うとクラウドはふっと寂しげな表情で、窓の向こうの空を見上げた。


(……あの子とはどちらのことを言っているのだろうか)


 レクトが知る限り、メロディとクラウドが舞踏会でダンスをしたことはないはずだ。


「レクティアス。冬の舞踏会でパートナーは……いや、何でもない。以上だ。すまないが、これからも私にかわって娘のことを気にかけてやってほしい」


「……畏まりました」


 レクトは立ち上がり、一礼すると執務室を後にした。

 一人で歩きながら、レクトは考える。


(きっと閣下は、俺の舞踏会のパートナーにメロディが来ることを期待したんだろうな)


 セシリアとしてだが、春の舞踏会も夏の舞踏会も彼女がレクトのパートナーだった。ルトルバーグ家で一介のメイドに過ぎないメロディとクラウドの接点は非常に少ない。

 セシリアとしてでも娘と交流を持ちたいという気持ちはレクトにも理解できた。


(しかし、セシリアは無理だろう)


 セシリア・マクマーデンという架空の少女は『魔力酔い』という、王都の魔力に馴染めず体調を崩したという理由で学園を休学し、今は王都から馬車で五日もかかるルトルバーグ領で療養中ということになっている。


 そんな人物をクラウドの願いとはいえ冬の舞踏会に引っ張り出すことは難しい。


(であれば、俺にできることは一つしかない……メロディを、冬の舞踏会に誘うんだ!)


 セレスティでもなく、セシリアでもなく、ただのメイドの少女メロディをレクトのパートナーとして冬の舞踏会に誘う。


 レクトはそう強く誓ったのである……そう誓って……五日が経過した。


 遅い!


最新小説9巻 4月1日発売予定です。

オーディオブック5巻 4月27日配信予定です。


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― 新着の感想 ―
メロディは父親のこと気にかけていないんですよね。あぁそうなんだで終わりそう。母親が残した手紙で容姿等の概要を知ったけど忘れているしね。
てっきり閣下の指示かと思ったら自発的に誘うことにしたんですね 果たしてメロディとして参加するのかセシリアとして参加するのかどちらになるのか楽しみです
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