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【26年7月アニメ放送開始】ヒロイン?聖女?いいえ、オールワークスメイドです(誇)!  作者: あてきち
第9章

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第3話 バレちゃった

 十二月二十五日の午後。ルトルバーグ邸をレクトが訪ねてきた。

 先日のセレディアとの戦い以来、五日ぶりの訪問である。


「昨日、ケーキを焼いたんです。よかったらどうぞ」


「ああ、ありがとう」


 応接室に案内すると、メロディは昨日作ったケーキの余りをレクトに出した。昨日は十二月二十四日、クリスマスイブだったので作ってみたのだ。

 もちろんルシアナ達からは好評だった。魔法の収納庫に保管してあるので、作りたての美味しさが保たれている。


「……美味い」


「お気に召したようでよかったです」


 レクトの素直な感想に、メロディもつい笑顔になる。


「……それで、本日はどういったご用件でいらしたのかしら、フロード騎士爵様?」


 レクトの対面のソファーに腰掛けていたルシアナがレクトに尋ねた。彼女は淑女らしく笑顔を浮かべ、その口調も丁寧だがとても圧を感じる。

 レクトはメロディに用事があったのだが、例のごとくルシアナが同席していた。


 ケーキを呑み込み、紅茶で口内を洗い流すと、レクトは表情を引き締めた。メロディもルシアナの隣に腰掛け、彼の言葉を待つ。


「今日、メロディを尋ねたのは……」


「「尋ねたのは?」」


「……」


 口をハクハクさせるものの、レクトはなかなか用件を切り出さない、いや、切り出せない。何かを言いたそうにするが、結局言い出せないのかそっと二人から視線を逸らした。


 素直にレクトの言葉を待つメロディ。対照的にルシアナは胡乱げな瞳を彼に向けていた。

 ルシアナは彼の訪問理由におおよその察しがついていた。


(どうせメロディを誘いに来たんでしょう、冬の舞踏会に)


 とても既視感のある光景に、ルシアナはムッと眉根を寄せてレクトの言葉を待つ。


 レクトの内心は焦りに満ちていた。


(ああ、もう、俺の根性なしめ! ……早くメロディを誘うんだ、冬の舞踏会のパートナーになってほしいと……閣下のために。五日前にそう決めたじゃないか!)




◆◆◆




 時は遡って十二月二十日。


 セレディアとの戦いが終わり、玄関先で気絶していたレクトはルトルバーグ邸の客間で目を覚ました。その後でやってきたメロディに事の経緯を教えられ、何もできなかった自分を不甲斐なく思いつつも、メロディが無事だったことを彼は喜んだ。


 しかし、事件の中心はレギンバース伯爵家だ。クラウドに仕える身としては、いつまでもここでゆっくりとしていられない。

 体調に問題はなかったので、レクトはレギンバース伯爵邸へ向かうことにした。


「材木商の件も含めて、今日はありがとうございました、レクトさん」


「いや、それを手配なさったのは閣下だし、セレディア様を止められなかった自分が恥ずかしい。もっと精進しようと思う。それじゃあ失礼する」


「大丈夫だと思いますけど、お気を付けて」


 そう言葉を交わして、レクトはルトルバーグ邸を後にした。

 馬車を準備している時間はないので、レクトは貴族区画を走って伯爵邸へ向かった。街並みに不穏な気配はなく、普段の光景が広がっている。


(本当にメロディが言った通り、まるで何事もなかったようだ)


 レクトは安堵して小さく息を吐くと、改めて伯爵邸に向けて走り出した。





 レギンバース邸に到着すると、やはりそこもいつも通りであった。慌ただしい雰囲気もなく、使用人達は普段と変わらず仕事に励んでいる。


(こちらも問題なしか。よかった)


 レクトは安堵の息を零す。どうやら本当にメロディの言う通り、誰も事件のことを覚えていないらしい。


 そんなことを考えている時だった。


「おや、フロード様。こちらにいらっしゃったのですね」


 執事のサイラス・レーバイがレクトの前にやってきた。


「フロード様、屋敷に戻ったら執務室へ来るようにと、旦那様がお申し付けです」


「閣下が? 承知しました」


 執事から伝言を受け取ったレクトは、内心で首を傾げながら執務室へ向かった。


(何の用事だろう。材木商の件だろうか)


 この時、レクトは完全に油断していた。王都の街並みも、レギンバース伯爵家の中も、あまりにも普段通りだったので。


 レクトは執務室の前に来ると扉をノックした。


「レクティアスです。ルトルバーグ家より帰還しました」


「入りなさい」


 扉を開けて入室すると、クラウドは執務机で書類仕事をしている最中だった。


「もう少しで終わるから、ソファーにでも座って少し待っていてくれ」


「承知しました」


 クラウドに促され、執務室に置かれている対面式のソファーにレクトは腰掛けた。ちらりと視線を向ければ、彼は普段と変わらぬ様子で書類仕事をこなしているようだ。


 やはり、彼もまた何も覚えていないようだと、レクトは内心で安堵する。


 ついさっき、ルトルバーグ邸に現われたセレディアの言い分では、クラウドやセブレは彼女に何かされていたと思われる。具体的なことは分からないが、よくないことだろうと想像はつく。


 メロディによれば、それはセレディア本人ではなく、彼女を操っていた黒い魔力の魔物のせいらしいが、実の娘だと思っていた少女に酷い目に遭わされた記憶などなくていいに決まっている。


 まして、それを実行したのは本人ではないのだから。

 レクトがそんなことを考えている間に、クラウドの仕事は終わったらしい。クラウドはレクトの対面に腰掛けた。


「待たせたな」


「いえ。それで、どのような御用でしょうか。ルトルバーグ邸の材木の件でしたら」


「メロディ・ウェーブ」


 ピタリと、レクトの唇が動きを止めた。クラウドの声は常よりもとても低かった。


「え、あ、えっと……」


「懇意にしているそうだな」


「……は、はい、友人ですので」


「友人、ね」


 自分の太ももに両肘をつき、かがんだ顔の前で両手を組むクラウド。目元にそっと影が差し、鋭い眼光がレクトを射貫いた。


(な、なぜ閣下は俺を睨み付けているんだ!? それに……どうして今メロディの名前を)


 道ばたで倒れたセレーナを介抱した件でメロディと面識を得ていることを、立ち会ったレクトはもちろん知っているが、とりたてて彼女を気にするような素振りはなかったはずである。


 セレーナならまだ理解はできる。彼女はまさにクラウドの思い人、セレナの生き写しのような少女だから。今回、ルトルバーグ邸に雪囲い用の材木商を紹介した件も、それが一因のはずだ。


 だというのに、クラウドが口にした人物の名前はメロディだった……なぜ?


「……本当に、友人なんだろうな」


「……はい、友人です」


 言っていてなんだか少し悲しいレクトである。本人としてはもう少し関係を深められたら嬉しいのだが、今のところ友人の枠を超えることはできていない。


 メロディ自身が恋愛事に鈍感ということもあるが、何よりレクト自身が積極的にアプローチできていないことも大きいからだ。


 思わずレクトからため息が零れた。


「……そうか」


 そう言うと、クラウドの言葉が切れた。執務室にしばし沈黙が訪れる。相変わらずクラウドはジッとこちらを見つめるだけで、レクトは何が何だか分からない。


 しかし、静寂は突如打ち破られる。


「……セレスティ・マクマーデン」


「えっ」


「……私の娘の名前だな」


「え、ええ……今はセレディア様となっていますが」


 そう言いながらレクトはキュッと眉根を寄せた。メロディの説明では、セレディアはティンダロスと呼ばれる黒い魔力の魔物に操られていたらしい。おそらくセブレに出会った時からそうだったのだろう。


 他者を操る力を持っているのだから、メロディの故郷の人々を騙すことも簡単だ。そうやって黒い魔力の魔物は、メロディの与り知らぬところで彼女の居場所を奪っていたのである。


 幸い、その魔物の目論みはメロディによって打ち砕かれて今に至るわけだが……。


(そいつは今もセレディア様の中に封印されているとか。メロディは大丈夫だと言っていたが、本当に安全なのだろうか……)


 レクトの意識が少しズレてしまった。そこに、クラウドが鋭い一撃を送る。


「セレディアではない。あれは私とセレナの娘……メロディの本当の名前だ」


「――っ!」


 驚きで言葉も出なかった。


(……今、閣下は何と)


 クラウドがさらに鋭くなった眼光をレクトへ向けた。


「……ルトルバーグ家のメイド、メロディ・ウェーブこそが私とセレナの娘、セレスティ・マクマーデン。お前はそれを知っていたな、レクティアス」


「――っ、そ、それは……」


 言葉に詰まる。肯定も否定も出来ない。レクトの唇が小さく開き、また閉じるを繰り返した。

 言い訳は通用しない。理由は分からないがクラウドの表情は確信を得たものに見えた。


 しかし、それに答えることはできない。クラウドに嘘をつくのは嫌だが、同時にメロディの夢を壊すような真似もしたくなかったからだ。


 セレディアの件で分かるように、メロディが自分の娘であるとはっきりすれば、クラウドは彼女を引き取ろうとするだろう。父親なのだから当然のことだ。非難されるいわれはない。


 しかし、伯爵家の娘として引き取られてしまえば、メロディがメイドとして生きる道は潰えることになるだろう。少なくともルトルバーグ家でメイドをすることはできない。


 仕える主に誠実でありたい気持ちと、愛する少女を傷つけたくない二つの気持ちがせめぎ合い、レクトはクラウドの問いに何も答えられなかった。


 ジッとレクトを見つめるクラウド。

 しかし、彼はやがてその視線をそっと逸らした。


「……お前が心配しているようなことはしない。今すぐ彼女を引き取るつもりはないからな」


「え? ……閣下?」


「そうしてしまえば、私は娘の夢を壊してしまうのだろう?」


 クラウドは眉尻を下げて少し寂しそうに微笑んだ。

 姿勢を正し、改めてレクトに尋ねる。


「レクティアス。お前は彼女が、ルトルバーグ家のメイドのメロディが、私とセレナの娘、セレスティ・マクマーデンであることを知っていたな」


 真摯な瞳がレクトを射抜く。


「……はい、閣下。ルトルバーグ家のメイド、メロディ・ウェーブこそが閣下の娘、セレスティお嬢様です。私はそれを知りながらずっと、閣下に隠しておりました。申し訳ありません」


最新小説9巻 4月1日発売予定です。

オーディオブック5巻 4月27日配信予定です。

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― 新着の感想 ―
レギンバース伯爵、どのようないきさつで真相を知ったのでしょう?
いやクラウドさんもっと怒れよ、と。 ぶっちゃけレクトのやったことって主従関係的に最低だよ?
どうも、秋告ウサギです。 レクトあと少し、あと少しの勇気!!ガンバレ!!クラウドお父さんも父娘としての対面は叶うか、メロディを取り巻く人々が続々と足を進めているのに胸アツ。まずは二人の男に幸あれ、応援…
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