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アフタースクール・マルカート  作者: 孤独の音楽家
プロローグ
1/5

終わりからの始まり

 ホール内に伝わる独特の緊張感。張りつめたそれは今にもはち切れんばかりであった。私たちは祈るように目を閉じ手を合わせる。

 次々と結果が発表されていく。歓喜に包まれる者もいれば、悲しみに打ちひしがれる者もいる。反応はさまざまだ。

 私はふと自身の演奏を振り返ってみた。緊張していてあまり詳しくは記憶していないが、自分なりには上手く演奏出来ていたはずだ。そう思いたい。

『──続いて、愛知県代表・星城高等学校──』

 と、私たちの高校の名前が聞こえる。結果を発表するのだ。私たちはさらに深く頭を下げ祈る。どうか金でありますように。

『ゴールド、金賞』

 その言葉を聞いたとき、私たちは安堵に包まれた。が、それも長くは続かなかった。金は金でも“ダメ金”では意味がないのだ。私たちは他校の結果を聞きながらその時を待った。


 * * *


『──続いて、全国大会に出場する三校を発表します』

 この言葉でホールはさらに張りつめた空気に包まれた。参加している数十校のうち全国大会に出場できるのは三枠のみだから当然だ。私たちは手を合わせて祈る。

『まず一校目は──プログラム三番、静岡県代表・清水東高等学校』

 と、最前列が歓喜に包まれる。私たちは拍手で祝福する。

『続きまして──』

 私たちは再び手を合わせる。次こそは、そう願いながら──。

『プログラム十二番、岐阜県代表・飛騨第一女子高等学校』

 今度は女子生徒の高らかな声がホールに響き渡る。私たちは再び拍手する。

 あと一校だ。泣いても笑っても次に名前が出なければ今年の吹奏楽部の夏が終わってしまう。

『それでは最後に──』

 私たちは三度手を合わせる。発表されるまでの僅かなあいだ、私の頭の中に部長である葛西先輩の言葉が蘇る。

 ──必ず全国に行って星城の音を響かせよう──

 私たちはその言葉を胸に四ヶ月やってきたのだ。涙を流しながら厳しい練習に励んできたのである。絶対に全国に行きたい。いや、全国に行くのだ。私の胸の鼓動は激しくなった。


『それでは最後に──プログラム十七番、三重県代表・伊勢志摩第三高等学校』

 歓声が響くなか、私たちはその結果に一瞬動きを止めることになった。が、次の瞬間には涙を浮かべ顔を沈める者が一人、二人と現れ、次第にそれは伝染的に他の者にも伝わり、最終的に私まで涙で顔を濡らすこととなった。そのため、全員が気持ちを落ち着かせる頃には私の顔は涙でくしゃくしゃになってしまっていた。

 演奏そのものは悪くはなかった。目立ったミスもなかった。いや、むしろ完璧であったと自負できる。が、審査員の審査は絶対だ。審査結果が覆ることはまずない。それに、どのような結果になったとしても私たちが異議申し立てるのは道理に合わない。私たちはこの結果を、審査員が下した結果を受け入れるしかないのである。


 * * *


 ホール前には多くの人がいた。全国出場を決めて嬉しさのあまり泣く者、私たちと同様にダメ金で悔し涙を流す者、さまざまだ。

「キミたちはよくやってくれました、胸を張っていいと思います」

 顧問の滝沢先生は私たちに労いの言葉をかけた。

「僕は五年間吹部の顧問をやってきましたが、ここまでの頑張りを見たことがありません。 春に目標として掲げた『全国大会出場』は惜しくも叶いませんでした。でも、キミたちはそれに匹敵するような見事な演奏をしました。 少なくとも私はそう思います──」

 と、滝沢先生はここで言葉を切った。私たちが「どうしたのか」と思っていると、再び言葉を続けた。

「──しかし、この結果に甘んじることなく来年に向けて努力を怠らないようにしてください」

『はいッ!』


 高らかに声を上げ、私たちの夏は終わりを告げた。




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