1-4章 お茶請け話はサンタマール家の秘密でいかがでしょう?
5話目を更新します。少し短いですが、ここで区切るのがいいかなと思いました。
どんどん、恋愛と離れていく気がするのは気のせいでしょうか・・・
でも、この辺りが一段落すれば、主人公アズサを中心に動かせていくと思います。
アズサにはドタバタでちょっと恋愛的な感じで行ってほしいと考えています。
それが書けるように頑張ります。
ブックマークがなんと2件になっていました!
最初にブックマークしてくださった方、また2件目の方、このような拙い小説にブックマークをして下さりありがとうございます。
小説を書く力が湧いてきます。
そして私はこう続けた。
「ですが、少々お待ちください。お話していただく前にお茶を淹れ直してまいります」
「「・・・」」
私はポカンとした顔をしたお嬢様とオードリューさんの前を通ってキッチンに向かった。
・・・ピーーーー!!
ヤカンのお湯が湧いた。
コポコポコポコポ
カチャカチャ
トレイにお茶を淹れたカップを3つ、そしてお茶請けのクッキーをセットする。
トレイを持ち、まだポカンとしているお嬢様とオードリューさんの前を通り過ぎた。
いつもの丸テーブルにカップとクッキーをセットし、トレイを脇に置くと私は二人に向かって振り返った。
「どうされたのですか、お二人共?お茶の用意ができましたがお座りにならないのですか?」
「「貴女の行動に唖然としていたのよ(していたんですよ)」」
「え?」
私の驚いた様子に二人は溜息を吐いて言葉を続けた。
「いざ話そうという時に、『お茶を淹れ直す』と言われたら唖然とするものですよ」
「そうね、ちょっと拍子抜けしちゃったわ」
二人の言葉に自分がした行動を振り返った私は納得した。
「そう・・・ですね、申し訳ありませんでした。ですが、長いこと放置したお茶をお嬢様に飲ませるわけにはいきませんでしたので」
「どんな時でもお嬢様厨は崩れませんね」
「ふふっ、アズサったら」
二人は私を見ておかしそうに笑う、私もそれに釣られて笑った。
(きっと表情には出ていないのでしょうけどね)
「ふふっ、それじゃあアズサが淹れてくれたお茶を飲みながらお話するわね」
お嬢様が微笑んでいつもの席に座った。
「お茶とお茶菓子付きで話す内容ではないと思いますけれどね」
オードリューさんはふうっと溜息を吐きながらお嬢様の左隣りに座り、
「私はお茶の後でも構いませんが・・・」
「いいのよ、貴女の淹れてくれたお茶を飲みながら話したいの」
「お嬢様がそう仰るのでしたら」
私がお嬢様の右隣りに座った。
長いお茶会の始まりだった。
お嬢様は私が淹れたアッサムティーを口にすると、私に向かって微笑んだ。
「ふう、やっぱりアズサの淹れてくれた紅茶はいつでもほっとするわ」
「恐れ入ります」
お嬢様が一口飲んだのを確認し、私とオードリューさんはお茶に口をつけた。
他の者が作った物はに関しては、毒見を兼ねて私が先に口を付けるだけれど、私とオードリューさんが作った物に関してはそれにあたらない。
そのため、この時はお嬢様が最初に口をつけることが私達に日常だった。
「それでね、アズサ。トッキシン草の秘密のことなのだけれど」
「はい」
お嬢様は持っていたカップをテーブルに戻し、両手を組むと膝の上に置いて私の方に顔を向けた。
「単刀直入に言うわ。あの草は普通に生えている分にはただの胃痛に効く薬草なの、ただ・・・」
「・・・」
お嬢様は顔を伏せ、体を震わせる。
そっとお嬢様の手を見ると今にも手の甲から血が出るのではないかというほど、指に力を入れていた。
私はお嬢様の様子にすぐにでもトッキシン草の話を止めたかったが、お嬢様から感じられる覚悟を踏みにじるわけにはいかないと自身の唇を噛んで抑える。
数秒の沈黙の後、お嬢様は一度大きく深呼吸すると再び話し始めた。
「あの草はね、ある手法を用いた状態で口にすると、数時間後に心臓発作を引き起こすの」
「!」
傍目からはわからないだろうけれど、私は自身の眉がピクリと動くのがわかった。
(お嬢様の様子から良いことだとは微塵も思っていなかったですが、こういう秘密とは・・・これではお嬢様も口をつぐんでしまうわけです)
しかし、お嬢様の話は私の納得の斜め上を
「しかも無味無臭で、食事にでも入れたら何の違和感もなく喉を通ってしまうわ。その上殆ど体内からも検出されないから、死体を解剖しても毒死ではなく心臓発作による突然死で済まされてしまうの」
「なっ、それでは完全犯罪し放題ではないですか・・・」
「そうよ」
驚く私にお嬢様は今にも泣き出しそうな笑みを向けた。
「・・・そして、我がサンタマール家初代当主はその完全犯罪を繰り返したことによって暗殺一家だったサンタマール家を貴族にしたの」
・・・お嬢様の言葉が理解できなかった。
「それは一体どういうことですか、お嬢様」
私の問いにお嬢様はすぐには答えなかった。先ほどと同じ泣きそうな笑みを向けるとカップに残っていたお茶を口に含んだ。
「やっぱりお茶の時間に話して正解だったわ。すぐに喉が渇いてしまうもの」
「・・・」
お嬢様は自身を落ち着けるように息を吐くとカップをテーブルに戻し、目線を私に戻した。
「ジャグロア=シェドゥール様は知っているでしょう?」
「ジャグロアってあの?」
その名前はこの国の歴史を知る者、オカルト、ミステリー好きなら誰もが知っている名前だ。
第32代目国王 ジャグロア=シェドゥール
下々の生活まで気をかけ政治を行ってくださった名君としても有名だが、それ以上に有名なのが彼の二つ名だ。
『呪王 ジャグロア』
元々彼には兄王子が5人、弟王子6人と兄弟が多く、母親の地位がそこまで高くないため王位継承順位は低かった。しかし、国王の座に座ったのは彼だった。
なぜ、彼が国王になれたのか・・・彼以外の王子が皆病死したのだ。最初は彼が殺したのではと疑われていたが、死んだ王子達からも彼らが食べた物にも毒が発見されなかったため、病死で間違いなしとされたのだ。
だが、それに納得しない者、おかしいと思う者も当然おり、その者達も独自に調べたが何も出てはこなかったという・・・故に誰かがこう口走った。
「これはジャグロア王子が呪いをかけたに違いない」
この話が貴族のみで留まらず、庶民の間にも広まり、彼は国中からこう呼ばれるようになった、『呪王 ジャグロア』と。
「彼の兄王子様、弟王子様方が病死はね、正確には心臓発作による死亡と検視されたの」
「心臓発作って、まさか」
ゴクリ
私はその音で自身の喉が唾を飲み込んでいることに気がついた。
お嬢様はあの泣き出しそうな笑みのまま、続けた。
「そう、王子様方は病死ではないの。ましてやジャグロア王の呪いでもないわ。サンタマール家初代当主がまだ暗殺家だった頃にある方からの依頼で遂行した・・・毒殺よ」