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記憶



「ルーが悪夢を食えば楽になるよ」

「本当ですか?」

「ああ。保証する。しかし、条件がある」

「何ですか?」


 早く恭を助けてほしい。


「悪夢の中にはあんたとの思い出も含まれている。つまり、ルーが悪夢を食えば、この男はあんたの事を忘れる」

「え……」


 男は何を言っているのだろう。


「冗談でしょう?」

「冗談なんか言わねえよ」


 男がむっとして言った。


「恭が僕の事を忘れてしまう?」


 真治にはそれがどういう事かうまく理解できなかった。


「どうする? このままじゃこの男は苦しむだけだぜ」


 男がニヤニヤと笑っている。真治は恭の顔に手を当てた。ひやりとしていた。


「お、お願いします」


 真治の声は震えていた。


「恭……」


 真治はベッドのそばに膝をついて座った。


「ルー、全てを食え」


 ププッとコブタが鳴いてベッドから飛び降りた。

 ププッププッと鳴くコブタの声はまるで自分を笑っているように聞こえた。

 その時、コブタの姿が大きく変わった。小さかったコブタの体の色が濃い灰色に変わり、みるみるうちに大きくなったかと思うと、どっかりと恰幅よく太りだした。


 唖然として見る。


 もうコブタじゃないその動物は、ププッと鳴きなが、大きく空気を吸った。ゴーっとまるで地鳴りのような音がし始める。恭の体から黒い煙のようなものが伸びていき、それが次々と吸収されていく。


「あ……」


 真治は思わず手を伸ばした。黒い煙をつかもうとすると、


「触るなっ」


 男が叫んだ。


 びくっとして真治は手を引っ込めた。


 煙はとても熱くて真治は悲鳴を上げた。びっくりして手を庇うと、男が息をついて真治の手を握った。


「見せてみろ」


「あ、はい」


 手は真っ赤に焼け爛れていた。男が眉をひそめた。

 舌打ちをすると真治の手を優しく撫でてくれた。それで少しは痛みが引いて真治は驚いて顔を上げた。


「痛むか?」

「あ、少しだけ」

「そうか……」


 男は目を伏せるとポケットから塗り薬を取り出した。それを塗り終えると、次にはどこからか包帯を取り出した。


「魔法のポケットだ…」


 もっとよく見ようとすると、


「動くなっ」


 と、男に怒鳴られてしゅんとした。


 彼は上手に包帯を巻くと、必ず病院に行けと言った。


「え?」



 真治は彼の顔を見ようと顔を上げた時、目を覚ました。






 真治は天井を見上げていた。


「あっ」


 がばっと起き上がると、ちくりと右手がうずいた。


 それを見ながら呆然としていると、がらりと障子を開けて母親が入ってきた。


「え?」


 真治は母親を見た。母親は目を丸くして、


「真治っ」


 と言うなり抱きついた。


「母さん……」


 真治は目をぱちくりさせた。いつの間にか、実家に帰って来ていた。

 何がどうなったのかさっぱり分からず、母親が何度も説明してくれた。しかし、真治はどうしてもその理由に納得がいかなかった。


「だから、あんたは信じないかもしれないけど、一ヶ月近く眠っていたのよ」

「それは信じたよ」


 真治はいらいらしながら言った。


「それで千晟ちあきさんがあんたをわざわざ家まで運んでくれたのよ」


 ちあきと言う言葉を聞いて眉をひそめた。


「誰だよ、ちあきって」

「恭さんの……お友達よ」


 母親は一瞬、間を開けて言った。


「お友達?」


 真治は一瞬首を傾げた。恭にそんな友達がいたなんて知らなかった。


「母さん、恭はどこにいるの?」


 訊ねると、母親が耳を塞いだ。


「何してるの」

「聞きたくないからよ」

「母さんっ」


 真治は怒った。


「僕が恭と恋人だった事は納得していたよね」


 そう言うと、母親は無言で首を振った。


「現実から目をそらさないって、前に言ったじゃないか」


 母親はキッと顔を上げた。


「本当は言いたくなかったけど、あんたがそれほど現実を見たいっていうなら言うわよ」

「何だよ」


 母親は大きく息を吸った。


「あんた、捨てられたのよ」

「はあっ?」


 真治は母親を睨んだ。


「母さん、僕はこれでも病み上がりなんだよ。一ヶ月も寝ていたんだよ。そんな息子によくもひどい事が

言えるね」

「あんたが言わせたんでしょ」


 母親がため息いた。


「じゃあ、どうしてあんたはここで寝ていると思うの? 恭さんは一度もここに現れなかったわよ。毎日お見舞いに来てくれたのは、千晟さんなんだから」

「だから誰だよ。ちあきって」


 真治はひどく傷ついていた。確かに恭はそばにいない。

 どうして自分だけ実家にいるのか分からなかったが、母親が息子を苦しめるためにわざわざ嘘をつくようにも思えなかった。


「もう、わけが分からない……」


 頭を抱えていると、玄関からチャイムが鳴った。


「あら、千晟さんだわ」


 母親がいそいそと部屋を出て行く。

 真治はびくっとした。


 一体何者だろう。





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