悪夢
真治は夢を見ていた。大好きな恭の夢だ。
目を開けると、眠っている恭がいた。
「恭、おはよう」
真治はそっと呟く。彼の頬にキスをした。恭が目を覚ます。
「真治、おはよう」
「もう少し、このまま寝ていようよ」
恭の腕の中にすっぽりと入り込むと、恭が頷いた。
「お前、少し痩せたんじゃないのか?」
真治の背中を抱き寄せながら恭が言った。
「そんな事ないよ。でも、もっと身長が伸びたらいいな」
「今のままで充分だよ」
「恭が高すぎるんだよ」
恭の身長は一八〇センチを超えている。真治はうらやましそうに言った。
「真治の背が高くても低くても俺はどちらも好きになったと思うよ」
「そうかな」
「ああ」
へへへと真治は照れくさくて笑った。
「せっかくの休みだし、もう少しこうしてようか」
「うん」
真治はぎゅっと恭の背中に腕をまわした。
恭が目を閉じる。真治が彼の瞼にキスをすると、恭が顔を歪めた。
「恭?」
真治はびくっとして体を起こした。
「どうしたの? 気分でも悪い?」
恭が体を曲げて苦しみ始めた。
「恭っ」
真治は叫んだ。恭は苦痛そうにうめいた。
「頭が、痛い……」
「頭? 何か、薬でも持ってこようか」
「うん……」
恭が頷いた。真治はベッドから出て唖然とした。
「なっ……」
目の前には真っ白の空間が四方に広がっていた。
明らかに自分の寝室ではない。
どこかの空間にぽつんとベッドが置いてあって、恭と真治はそこにいた。
「何これ……」
真治は一瞬、目的を忘れた。しかし、はっとして走り出す。
見渡す限りの真っ白の空間に、小さな黒い点が見えた。
真治はそれに向かって走った。
近づくと、恭より少し若い男とそばにコブタみたいな動物がいた。
「すみませんっ」
真治は彼に話しかけた。
「あの、この辺に病院はありませんか?」
「病院?」
男はプッと吹き出した。
「病院なんかねえよ」
くすくすと男が笑うと、コブタみたいな動物が男のまわりをたったか走り出した。
真治は一瞬、その動物に見入ってしまった。
とても小さくてかわいらしかった。
「どこだ?」
「え?」
真治はきょとんとした。
「病人がいるんだろ?」
「どうして分かるの?」
「あんたが病院を探しているって言ったじゃねえか」
「あ、はい」
真治は背中を向けた。
「あ、あの、こっちです」
彼を促して走り出した。すぐにベッドが見えてきた。
ベッドの上に恭が横たわっている。つらそうで額には汗が滲んでいた。
「恭、大丈夫?」
真治は彼をのぞき込んだ。恭は意識を失いかけていた。
「どうしよう……」
真治が涙ぐむと、男が恭の顔を覗き込んでニヤニヤしながら言った。
「これ、あんたの恋人?」
「あ、はい」
「ふうん」
男は意味ありげな視線を真治に向けた。
「助けてやるよ」
「え?」
真治は顔を上げた。
「本当ですか?」
「ああ」
「お願いしますっ」
「いいよ」
男はにこっと笑った。
「ルー」
プッとコブタが鳴いて、走り回るのをやめた。そして、ぴょんとベッドの上に飛び乗って鼻で恭の体を嗅いだ。
「あっ」
真治はびっくりすると男は手を伸ばして真治を制した。
「こいつがうなされているのは悪夢を見ているせいだ」
「悪夢ですか?」
「そうだよ」
男がにっこりと笑った。