仕事部屋
会社を休んだ恭は、真治が目を覚ますまで絶対にそばを離れないと決めた。
まずは、食事の用意に取りかかった。もしかしたら、腹が減れば目が覚めるかもしれない。いい匂いのする食事を作り、鼻先に持っていったが効果がなかった。
今は、机の上に冷え切った食事が置いたままだ。
真治のお気に入りの絵本を読んでみる。
そういえば、今描きかけの絵本があると言っていたのを思い出した。
真治の仕事部屋をのぞいてみた。出入りは自由にしてあった。机の上には原稿用紙があった。枚数の多さから見て、これは童話であるらしい。
真治が童話を書くなんて珍しいな、と恭は思った。
絵本を描くのは知っていたが、長い文章を書いているのは知らなかった。
少しそれを読んでみる。読んでいるうちに恭は顔色を変えた。
童話なんてものじゃない。これは恭と真治の同棲生活まで描いたエッセイであった。
「真治っ」
恭は原稿用紙を持って寝室に戻った。こんなのを公表されてはたまらない。
部屋を開けて中に飛び込んでハッとした。
真治は眠っているのだ。
「何でだよ……」
何で目を覚まさないんだよ。寝てたんじゃ、会話ができないじゃないか。
恭はがっくりと足をついて、そして、ひざを抱えて顔をうずめた。
「真治……」
恭の目から涙が溢れた。真治、何度も愛しい人の名前を呼んだ。
しかし、真治の目は開く事はなかった。