ソファ
遅くに帰ってきた恭は酔っていて、ソファに座り込むとそのまま寝てしまいそうな勢いだった。
お風呂に入れる状態じゃないので、真治はひとまわり大きな彼の体を背負いながらベッドに運んだ。
「恭、目覚ましいつもと同じでいいの?」
目覚まし時計をセットして、パジャマを着せる頃には恭はすでに眠っていた。ため息を吐いて、真治は
隣に潜り込んだ。
恭の体はお酒の匂いがしていた。煙草の匂いや女性の香水などさまざまで、そばにいるのが辛くてベッドを抜け出した。
毛布を一枚抜き出すとソファに持って行って、そこで毛布に包まって眠った。
朝、何度も呼ばれて目を覚ました。
呆れたような悲しそうな顔をした恭が目の前にいた。
「あ、おはよう」
「風邪引くぞ。大丈夫か?」
真治はあくびをしながら、大丈夫みたい、と言った。
「なら、いいけど」
恭は少し元気がなかった。
「どうしたの?」
「え? あ、本当にごめんな。真治」
「うん」
真治は毛布を持って寝室へ入って行った。すぐに戻ると恭は背広を羽織っていた。
「今日も遅くなるの?」
「ああ……」
「分かった。あまり無理しないでね」
恭は何か言いたそうな顔をしていた。
「じゃ」
と、出かけようとして足を止めた。くるりと振り向くと、真治の頬にキスをした。
「行って来る」
真治はうれしくてはにかんだ笑みを返した。
「行ってらっしゃい」
手を振ると、恭も軽く手を振って出て行った。
ドアがパタンと閉まったのを聞くと、真治は急に眠くなって目をこすった。
ソファで寝たから体が疲れたのかもしれない。
真治はよろよろと壁に手をつきながら、寝室に向かう途中で足から崩れ落ちた。そして、あっという間に眠りについた。
今朝起きた時、恭は記憶があいまいで一瞬焦った。
気がつけばベッドで寝ていたが、そばに真治がいない。
真治を探すためリビングへ行くと、ソファから足が出ているのでギョッとした。見ると、真治が毛布に包まっているので驚いた。
名前を呼んで起こすと、真治が目をこすりながら起きた。
「おはよう」
当たり前のように言ってほほ笑む。それを見て恭は胸がずきんとうずいた。
どうしてソファで寝ていたのか、理由も聞けなかった。
夕べ、何時頃家に帰ったのかも分からない。
恭は逃げるようにシャワーを浴びた。少し頭が醒めてくる。
昨日、女の子に何と答えたのか覚えていない。
誰よりも早く帰ったつもりだったが、本当にそうだろうか。自信がなくなってくる。
体を洗って、シャツに腕を通した。
リビングではぼんやりと真治がテレビを見ていた。恭は、食欲もなくコーヒーだけ飲んだ。
真治の顔を見るのが居たたまれなくて、早く家を出たかった。
後ろから、あまり無理しないでね、と言う優しい声がする。
その反面、恭の胸はずきずきしていた。言い訳のように、黙ってキスをすると、彼は本当にうれしそうに笑った。
恥ずかしそうな笑顔にほっとした。
行ってらっしゃい、と手を振る姿を思い出して恭はため息をついた。
真治は何も悪くない。
彼は自分の職業を努力して勝ち得たのだ。自分だって、そうだ。
大学を卒業して新卒で入った会社だ。土日祝日だって休みだし、普段なら定時で帰る事もできる。
今、とくに忙しいのはリストラとアルバイトの数を減らされたからだ。
おかげで残業が増えたが、これからずっとというわけではない。
今だけの辛抱だ。それに対して真治に当たるのはやめよう。
恭は軽く頭を振って歩き出した。
会社に着くと、出勤ボードに明日、休みが入っている。
恭は目を見開いた。
休み。久々の休みに目を疑ったくらいだ。
しかし、同僚にも休みが一つ二つとつけられているのを見て、恭は心が弾んだ。
明日は朝寝坊をして、午後から真治を食事にでも誘おう。
それを思うだけでワクワクした。