告白
家に戻った恭は、真治に言われた言葉がショックだった。
彼に突き放された事も衝撃で、家に帰る前に何度も立ち止まってしまった。
足を引きずるようにして家に入ったが、部屋の中で立ち尽くす。
項垂れたまま、自分が言ってしまった失言に臍を噛んだ。
やりきれなくていらいらしていると、後ろから声がして恭ははっとした。
千晟が立っていた。冷めた表情で見ていた。
「俺はこの家を出て行く」
「え?」
「それから真治にはもう二度と会いに行くな。真治は俺のものだから」
「何を……」
言っているんだ、とのどの奥まで出かかって、声がかすれた。
「じゃあな」
千晟は家を出て行った。
気がつくと、家には自分以外誰一人いなかったように思えた。
もともと千晟の私物はない。洋服ぐらいだが、それもわずかだ。
誰もいない部屋に恭は一人だった。
恭は声が出なかった。
どこかで何かが狂ってしまった。
そう思うしか納得できなかった。
今から行くという連絡が入り、遅くに千晟が会いに来た。
今日は泊まると来るなりそう言うので、無下に断る事ができなかった。
来た時から、彼は何となくそわそわしていた。
「どうしたの?」
真治が聞くと、何でもないと千晟が言った。
「もしかして、恭に何か聞いた?」
真治は不安になって聞いた。
後で考えたらとてもひどい事を言って彼を追い出したのだと思った。でも、今さら謝る事はできないと真治は少し意地になっている。
千晟はとぼけた顔をして何も答えなかった。
風呂から出た千晟は、すぐに眠りたいと言い出した。
真治もすぐに風呂に入って出てくると、千晟はすでに横になっていた。
真治は隣に敷かれた布団に座った。
「疲れてるの?」
「真治」
「何?」
「俺、お前が好きなんだ」
いきなり千晟が言った。
「え? 何?」
真治はわけが分からなくて体を起こした。
「今、何て言ったの?」
千晟はくすくすと笑った。
「ずっとお前の事が好きだったんだ」
「嘘……」
千晟はうれしそうに笑うと、ふとんから手を伸ばして真治を引き寄せた。
あっという間の事で抵抗できずふとんの中に引きずり込まれる。
「やめろっ」
「真治……」
急に千晟が真顔になった。真治はドキッとした。
「な、何?」
「俺は……」
千晟の声が小さくなる。
「え……」
聞き取れなくて聞き返すと、
「お前の事がずっと前から好きで、たまらなくて、それで……」
千晟がふっと黙り込んだ。そして、真治を抱きしめた。
不意を突かれた瞬間、真治の唇が塞がれた。
真治の目から涙が出た。
「真治……」
千晟が口を離すと、真治の涙を優しくふき取った。
「ごめんな。嫌がる事をして……」
「そんな……」
真治はどうしていいか分からなかった。
いきなりでびっくりした。でも、千晟が冗談を言っているのではない事は分かった。
「どうしてこんな事を……」
「お前が欲しいんだ」
千晟の声がかすれた。
「真治じゃなきゃ、嫌だ」
「そんなの……、変だよ……」
真治は目を伏せた。
「僕じゃなきゃだめだなんて、おかしい。千晟は恭に愛されているのに」
「違う……」
恭は首を振った。
「俺が好きなのはお前だ。何度も言っているだろ。ずっとお前が好きだって」
「何度もって……」
初めて知ったよと真治は思う。
千晟は真治を捕まえたまま離そうとはしなかった。
「恭と別れた」
「え?」
「もう限界だ。あいつのそばにいたくない」
「そんなの、ひどいよ……。ひどすぎるよ」
真治はいやいやする子どものように千晟の腕の中でもがいた。
「離せよ。千晟、頼むから離せっ」
「嫌だっ」
「千晟っ」
真治が顔を上げると悲しそうな顔をした千晟がいた。
「千晟……」
「どうして泣くの?」
「真治、目を閉じて」
「え……?」
「何もしないから、頼む」
「うん……」
千晟は涙を指で拭うと真治の瞼にそっとキスをした。
真治が意識を失ったように、ことんと眠りについた。
と同時に千晟の姿がふっと消えた。




