居酒屋
電話を切った恭は会社を出て、指定された居酒屋へ足を運んだ。
予約した座敷には数人が集まっていた。みんな疲れていてこれならすぐに帰れそうだと安堵した。しかし、疲れがたまっている分、みんなストレスもたまっていたのだろう。羽目をはずした宴会のようになってしまい、隣に座っている女の子もしなだれかかってきた。
酔ったふりをして柔らかい体を押し付けられて恭は正直参った。
甘い香水をつけているのかいい匂いがする。
髪を結い上げた女の子の首筋は白かった。
「おい、大丈夫か?」
酔った女の子に呆れて言うと、入ったばかりの新入社員はくすくす笑った。
「大丈夫です。大塚さんの隣に座れてわたし、すごく舞い上がっているんですよ」
とうれしい事を言う。
「ほら、大塚さんもっと飲んでくださいよ」
ビールビンを傾かせてなみなみと注いだ。恭はそれを飲み干した。
自分たちは疲れている。ひどく疲れているんだ。そんな気がしていた。
「もっといきますか?」
「ああ」
恭はトロンとした目で女の子を見た。
ぱっとしない顔だが、きれいにしようと努力している子だった。
きっといい子なんだろうなと思う。
また真治の事を思い出した。真治はお酒が一切飲めない。いつも烏龍茶を飲んでいて、誰よりも早く家に帰りたがった。
初めてアルバイトたちと飲みに行った歓迎会の日、帰ろうとした真治を追いかけた。
家まで送るよと言うと、どうしてですか? と聞かれた。そして、お酒の匂いをさせている恭を見て、あなたの方が危ないと思いますよと言って笑った。
恭はドキドキしながら真治を家まで送り届けた。遅いから泊まっていって下さい、といきなり言われたが、あわてて断った。
真治のそばにいると酔った勢いで何をするか分からない。とにかく嫌われたくなかったので、何とかして家に帰り着いた事を思い出した。
真治の事を考えていると、女の子が顔を寄せてきて耳元で囁いた。
「大塚さんって彼女いるんですか?」
「え?」
恭は、答えに詰まった。
ちょうど疲れがピークに達していて、いると答えたのかいないよと言ったのかもはっきりしなかった。
ふらふらした足取りで、もう帰るよと言ったが、他のみんなには聞こえていないようだった。それくらいみんな酔っていた。