プリン
「さて、坊ちゃん。ここにプリンがあります」
「あぁ、あるね」
目の前のテーブルの上にはカッププリンが1つ。
その側には銀のスプーンが置いてある。
「坊ちゃん、これはどうしたのですか?」
「僕がコンビニで買ってきたものだよ」
「まぁ、1人で買い物ができるようになったんですのね。この沙刀祢、坊ちゃんの成長ぶりに涙が止まりません」
「何をそんなに感激してるのかわからないけど、僕はもう14だし1人で買い物くらい出来るよ」
「時の流れは早いものです、ハイハイ歩きをしていた坊ちゃんがこんなにも立派に」
「沙刀祢、君がこの屋敷に来たのは2年前じゃないか。ハイハイ歩きなんか見せた覚えはないよ」
「そうでしたっけ、まぁそんなことはどうでもいいです――つまり、坊ちゃんは立派なお人になられたと言いたいのですよ」
「……沙刀祢」
「なんです坊ちゃん?」
「何を企んでいるんだい?」
「なななななななにも企んでいませんが? 変な坊ちゃんですね」
「『な』を七回も重ねながらも表情を崩さないのは流石だと思うけど、動揺してるの丸わかりだよ」
「沙刀祢は全く動揺なんかしていませんよ、なぜ坊ちゃんはそう思われるんです?」
「日頃僕を褒めるどころか雇用主とさえ思ってもないような言動の沙刀祢が、突然僕の事を褒めだしたら不審に思うに決まっているでしょ」
「……はぁ、沙刀祢は坊ちゃんに疑われて心が病んでしまいました。お暇をいただきます」
一礼し――サッとカッププリンを掻っ攫って――ドアへと向かう沙刀祢。
「沙刀祢、止まりなさい。雇用主の物を盗るだなんて一体どういうつもりなのかな?」
「何をおっしゃってるのか沙刀祢にはちっともわかりません」
「その胸に隠したプリンを出せと言っているんだよ。まな板の沙刀祢じゃ右胸だけ飛び出ててあからさまにおかしいじゃないか。谷間に隠すこともできないんだから、もうちょっと隠し場所考えなって」
「まな板とは失礼な坊ちゃんです。Aカップの沙刀祢はとても傷つきました」
「Aカップとか……せめて美刀弥と同じD位はないと。まぁ、とりあえずプリンを返しなさい」
「イヤです」
「……よく拒否できるね。返さないって言うなら胸弄ってでも力ずくで取り返すよ」
「セクハラですか。ハァ、坊ちゃんのこと見直して損をしました」
「セクハラって、そんなこと言うなら沙刀祢はプリン泥棒だよ」
「食べてしまえば証拠はありませんし」
「そんなこと言うなら僕だってないだろ」
『―――胸弄ってでも力ずくで―――』
「わかった沙刀祢、プリンはあげるからそのボイスレコーダーをこっちによこしなさい」
「おやおや、先ほどまで強気だったのにメイドである沙刀祢に屈していいのですか?」
「あぁ、そんなセクハラ発言が流れたら他のメイドたちに嫌われちゃうからね」
「――ほぅ、私よりも他のメイドが大事だと?」
「だって沙刀祢は胸が小さいし」
「――さて、全館放送をしに行きましょうかね。今日の放送係は刀乃祈だったかしら」
「だぁーゴメンゴメン! 沙刀祢大好き! なんでも言うこと聞くから許して!」
「大好き? なんでも?」
「あぁ、いや、僕に出来ることなら何でもって意味だよ。もちろん」
「わかりました、では沙刀祢のお願いを聞いてくれたらボイスレコーダーとプリンはお渡ししましょう」
「ホント?」
「当然です、沙刀祢は坊ちゃんに対して嘘などつきません」
「その言葉自体が嘘のような気がするよ……まぁ、いいよ。なんでも言って」
「では坊ちゃん、プリンは半分こにしましょう」
「うーん、まぁいいよ。沙刀祢、プリンはそんなに好きだったの?」
「大好きですよ。坊ちゃんの好物ですから」
「……え?」
「坊ちゃんには沙刀祢がアーンで食べさせてあげますね」
「やだよ! 子供じゃないんだから!」
「スプーンは1つしかありませんし……これも沙刀祢のお願いの内です、坊ちゃん」
「…………アーン」
チュッ
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