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1-4  ここは異世界か? ゲームの世界か?


 ソフィアに連れられて店の外へと出ると、通りを人々が慌ただしく行ったり来たりしていた。通りの左右にズラリと並んだ店は、どれもこれも閉店の準備をしている。

 空を見上げてみると、今にも雨が降り出しそうなほどの黒い雲が立ち込めていた。

 何でみんなが慌ただしく動いているのか分からない。嵐でも近づいてきているのか?

 そのとき、空に何かが飛行しているのが目に入った。


 最初、戦闘機かと思ったが違った。大きな翼にトカゲみたいな顔を持つ黄色い生物。まさにドラゴンだった。そしてその背中に分厚い鎧を身に纏った人物がまたがっている。

 うわぁ … ドラゴンだ、と感心していると、ソフィアがこう呟いてきた。



「あれは国の魔法騎士隊の1つ、魔族殲滅戦術隊よ。アレがここにいるってことは、この大陸に魔族が迷い込んできたってことね」



 魔法騎士隊・魔族 … またまたファンタジー的な用語が出てきたな。



「あの … 詳しい説明を … 」


「ユウキ、あなた何もしらないわけ? 魔族という言葉を知らないで、よく今まで生きて来られたわね」


「いやいや … 魔族ってアレだろ? なんか … 恐ろしい奴のことだろ?」


「 …… 本当に何もしらないのね」



 ソフィアは俺の腕を掴んだまま、ジロリと睨んでくる。



「まぁいいわ。寮で説明してあげる。だから今は早く寮へ戻りましょ」


「へいへい」



寮で説明してくれるっていうから、今はおとなしく彼女に付いていくとするか。







 魔法学院の敷地内に入るなり、ソフィアは安心したように息を吐いた。

 だがすぐに腕を引っ張られて、無理矢理彼女に連れて行かれる。


 立派な外観のお城内に入り、長い廊下を通り抜け、石作りの階段を昇り終えると、ようやくそこでソフィアが立ち止まった。



「ようこそ、ユウキ。ここは学院建物の南方に位置する、火系統魔法使いの生徒 『サラマンダー』 が寝泊まりをする寮よ」



 目の前には真っ赤な絨毯が敷かれた長い廊下がずっと奥まで伸びている。左右の壁には十間隔で炎のランプが飾られており、同じく立派なドアが奥まで並んでいる。



「おおっ、なんかすげー」


「さぁ、あたしに付いてきて。部屋を案内してあげるから」



 そのまま彼女の後に付いていき、扉のネームプレートに『ソフィア・マーキュリー』と書かれた部屋の前までやってきた。



「ここがあたしの部屋よ。部屋は個室になってるわ。ちなみにその隣の部屋が、あなたの部屋だから」


「へぇ、俺はソフィアの隣の部屋かぁ」


「じゃあ、とりあえず今はあたしの部屋に入って」



 木製の豪華な扉を抜けると、そこは広さ12帖くらいの部屋が広がっていた。思ったよりも広い部屋である。

 お姫様が使っていそうな白い天蓋てんがいベッド。ピンクの布が敷かれた大きなテーブル。白色でオシャレなハート形をしたドレッサー。見た目ふかふかしてそうなソファー。

 うん、完全にお姫様の部屋じゃないか!


 その他、部屋の片隅には魔法関係本が収められた大きな本棚とクローゼットが置いてある。部屋を照らしているのはランプの明りだけ。やっぱり電化製品や電気などは存在しないのか。



「いやぁ~、なんか豪華な部屋だな。ソフィアってやっぱお姫様なのか?」


「ち、違うわよ! バカ!」



 なぜか慌てたように、彼女は反論してきた。



「おい、そこまで怒る必要はないと思うんだけど … 」


「いいでしょ。それよりもあなた、聞きたいことがあったんじゃないの?」



 無理矢理、話題変えたな。まぁ、いいっか。



「それで街にいたとき、何でみんなあんなに焦ってたんだ? 魔法なんちゃら隊や魔族とか言ってたけど」



 俺の質問に対し、ソフィアは天蓋ベッドに寝転がりながら口を開いた。



「あなたは何もかも知らなさそうだから説明してあげるね。まず街の上空に現れたのは魔族殲滅戦術隊の騎士。対魔族戦に特化した騎士のことよ」


「つまり、あのドラゴンに乗ってた騎士は魔族と戦うってわけか」


「そうよ。ちなみに魔族っていうのは亜人もしくは闇魔法を使う人間のことを指す言葉だから。魔族は普段この大陸から離れた別の大陸を支配しているんだけど、時々この大陸に侵入してくる。それを魔族殲滅戦術隊が退治するってわけ」


「へぇ~、だからみんなあんなに焦ってたのか」


「ちなみに闇魔法は禁断の魔法ってことになってるから、使っちゃいけないの。もし使ってしまったら魔戦隊に捕まって拷問されて、処刑されちゃうわ」



 魔族・魔族殲滅戦術隊のことは、大体わかった。この世界では、魔族は邪悪な種族ってことになってるんだな。


 天蓋ベッドで寝転んで気持ちよさそうに大の字になっているソフィアの顔を、俺はさりげなく覗き込んでみた。

 金髪色白で整った綺麗な顔をしている。その中でどこか子供っぽく笑みを浮かべている様子は大変可愛らしい。


 俺に見られていることに気が付いたのが、ソフィアは顔を真っ赤に染めながら、勢いよく起き上がった。



「何、人の顔をジロジロ見てるの!?」


「あっ … いや、悪い」



 うん、あまりにも綺麗だから、見とれてました … なーんて言えない。咄嗟に言い訳を探す。



「えーと、その瞳、珍しいなぁ~、って思ってさぁ。あはは … カラーコンタクトでもしてるの?」


「カラーコンタクトって何よ」


「いや … そこはスルーしといて」


「色の接触のこと? あたしの目で色の接触って … 意味わかんないわよ!」



 うわぁ … ツッコむのめんどくせー!



「だから、さっきのことは忘れて」


「何が何だか分かんないけど、あたしのこの目は生まれつきよ。何か文句でもあるの?」


「いえ … ありません」



 ちょっと怒っている様子だったので、もうこの辺にしておこう。

 ソフィアは少し不機嫌ながらも、身に着けている黒いマントを脱いだ。



「それにしても、あなた変わってるよね」


「どこが?」


「まぁ、ここ座りなさいよ」



 俺は言われたとおり、ソフィアの隣に腰掛けた。

 そしてソフィアは好奇心旺盛な動物のように、俺の顔をジーと見つめてくる。



「な、何?」


「ユウキって何か珍しい生き物みたい。黒髪だし、全然聞いたことのない街出身だし、魔法・剣が使えないし、基本的な用語すら知らないし」



 ですよねー。だって俺、三次元の世界から来たんですから。今の俺の体は、二次元になってるけど。

 ていうか、ここは二次元世界なんだけど、前後左右上下の空間感覚は普通にあるから、既に二次元じゃなくなってるよな? と言いたい所ですが。



「ユウキの出身、どこって言ったっけ?」


「東京」


「そのトーキョーっていう街、どこにあるの? オスリビア王国内じゃないよね。だとすると … フィリスリア王国? それともアニェーティス連合王国?」


「全部違うな。日本という国だよ」



 するとソフィアはポカンと首を傾げる。



「そんな国聞いたことないわ。あたし、大抵の国の名前は覚えているんだけど … もしかしてあなたダーク・エリア出身じゃないでしょうね!?」


「ダーク・エリア? なんだその名前?」


「魔族が住んでいるところよ! この大陸のすぐ近くにある闇の大地!」


「違うよ。日本はそんなに暗黒の国なんかじゃない。ていうか俺は魔族でもない!」



 やっぱり、ここは異世界なんだなー、って実感する。

 ああ、そう言えば俺、せっかく買った『PF Vita2』と『Magic Trip』をプレイせずに終わってしまったな。あーあー、あんなに楽しみにしてたのに 。


 いや、待てよ? 


 俺は思い出した。

 確か俺は当時の服装をしていたから、その時に持っていた物もあるんじゃないのか?


 俺は今、この魔法学院の制服を着ている。

 バッグ入れていた脱いだ私服のジーンズとパーカーのポケットを探ってみると、やはりそれは見つかった。

 スマートフォンと、新品のPF Vita2 だ。


 それらを見て、ソフィアは食いついてきた。



「何、それ? 初めて見るモノだわ」



 試しに電源を入れてみると、スマホとゲーム機の画面が光った。



「おおっ、映った映った。バッテリーは満タン状態だし、とりあえず問題はな … 」



 いや、大問題が1つだけあった。

 それはゲームソフト『Magic Trip』がどこにも見当たらないのだ!

 ゲームソフト本体とケースはどこにも見当たらないが、ゲームソフトの説明書だけはあった。ソフトが無ければ、ゲーム出来ないじゃん!



「ねぇ、それって何かの光系統の魔法道具なの?」


「そんなわけあるか。液晶パネルが光っているのは、この内で電流が流れて … 」


「???」



 ん? さっきの説明書? ちょっと待てよ。


 俺はゲームソフト説明書に、もう1度目を通してみた。

 これは主人公が魔法が存在する世界へ異世界トリップをして、魔法使いを目指しながらダンジョン攻略・女の子攻略をしていく、RPGとギャルゲー要素を足し合わせたゲームだ。


 このゲームソフトの状況と、今の俺の状況、かなり似てないか?


 試しに説明書を読み進めていく。

 主要キャラが少しだけ紹介されているページに差し掛かった時、俺は思わず声を上げていた。



「なっ … ヒロインの名前が … ソフィア・マーキュリーだとっ!? んな、バカな!! 同じ名前じゃないか!!」


「えっ? あたしの名前がどうかしたの?」



 いや … 偶然か? 

 苗字と名前が一致するって、奇跡的な確率だぞ?

 あとチラホラ可愛いキャラが紹介されていたが、今のところお目にかかったことがない。


 よし、次は舞台だ!

 えーと、ゲームに登場する魔法学院の名前は … オスリビア魔法師養成学院!?

なん … だとっ!? 

 じゃぁ、俺が今いるこの二次元世界は、ゲームの中ってことになるのか!?


 VRゲームが発売されてないのに、俺ゲームの中へトリップしちゃったってことか? 

 でも武器装備・体力・レベルとかのアイコンが表示されてないんですけど。じゃぁ、モンスターとかにやられちゃったら、死ぬの俺?


 設定・世界観・登場人物が、『Magic Trip』 というゲームソフトと完全一致している謎。ここは本当にゲームの世界なんだろうか?

 

 でも目の前にいるソフィアがゲームのプログラムによって作られた存在だとは到底思えない。



「ユウキ~? 大丈夫?」


「お、おう! 大丈夫だ、問題ない!」


「そう」



 ソフィアは俺が手にしているPF Vita2を、興味津々な目で見つめている。



「ユウキの出身国であるニホンって、結局どこにあるの? 黒髪でそんな変わったモノを手にしている人が住む国なんて、聞いたことないんだもん」



 どうする、俺?

 実は俺、3次元という世界から来まして … 魔法ではなく科学が発達している世界からやってきました、て言っても理解されないだろうな。


 そもそも住んでいる次元が違う。

 今住んでいる世界の次元よりも高次元のものは認識できない、ってどっかで聞いたことあるな。

 俺ら三次元の人間は、二次元がどんなところなのかは認識できるが、四次元がどんなところなのかは想像すらできないからな。

 この二次元世界の住民であるソフィアは、二次元よりも高次元に当たる三次元というものを認識できないだろうし。



「まぁ … そうだな。ソフィア、世界というものは広いんだよ。広いゆえに、未知なることがたくさんあるんだ」


「うーん、ユウキが言ってることは、ある意味正しいと思うけど … 」


「この大陸とは別の大陸があるんだ。そこに日本という国がある」



 一応、こういう嘘をつくことにした。



「でも、あたし達が住んでる大陸以外というと、魔族が暮らす大陸しか思いつかないんだけど」


「ふっふっふ、それはソフィアの認識不足だ」


「そう言われると、何かムカつく」



 ソフィアは膨れっ面を浮かべ、俺を睨む。うん、可愛い。


 その後、しばらく俺はいろいろとPF Vita2 をいじっていると、俺の視界の端に、金髪の長い毛先が飛び込んできた。

 顔をそちらの方へと向けると、俺のすぐ顔面スレスレにソフィアの可愛いらしい顔があった。

 彼女は「へぇ~!」と感心しながら、俺が手にしているゲーム機画面を覗いている。


 するとソフィアも俺が見ていることに気が付いたのか、顔を上げた。待て … こんな近い距離で、お前までこっちを見ると …


 そして俺とソフィアの顔と顔との間は、ほぼ0に等しかった。

 彼女がこちらへ向いた瞬間、俺と彼女の鼻と鼻が軽く接触。マシュマロのような柔らかい弾力が鼻から伝わり、俺の体全体を駆け抜けた。



「うわっ!?」


「ひゃっ!?」



 俺は慌てて後ろへ下がろうとした。

 しかし、驚きのあまり足を何かにぶつけてしまった。

 後ろへ倒れるか、前へと倒れるか、の瀬戸際で必死に踏ん張っていたのだが、耐えるのは無理だった。どうせ倒れるなら、頭部からではなく前に倒れた方がいい!!


 結果的に、俺はソフィアを押し倒すようにベッドの上へと倒れてしまった。



「ちょっとっー!! 何すんのよ … って … えっ!?」


「ん? この感触は?」



 気が付けば、俺の手は柔らかい何かに触れていた。この弾力性、ベッドのフカフカ感とは違う。もしや …


 見れば、俺の手は見事にソフィアの胸を鷲掴みにしていた。しかも両手で。


 何コレっ? 深夜アニメでよくありがちな展開はっ!? こんな偶然が起こってしまってよいのか?

 まぁ … ここは二次元世界 or ゲームの世界なんだし、ありうるか。

 今気が付いたんだけど、ソフィアって意外に胸大きいんだなぁ。



「あぅっ … ちょっとっ! はなしなさいよ!!」


「えーと、じゃぁ、話します。俺の好きな食べ物は … 」


「話しなさいじゃなくて、手を離しなさい!!」



 うん、この状況でボケる俺、見事だと思う。

 とそんなとき、部屋の扉がノックされて、扉を開けて1人の少女が入ってきた。



「ソフィアさん、この前お借りした本をお返しに参 … 」



 その少女は、俺らを見た瞬間に固まった。


 ベッドの上で、俺はソフィアの胸を鷲掴みにしてしまっている。

 本当にマジな事故だったのだが、その少女は何か勘違いをしたようだった。



 「お、お取込み中でしたのね … 。ごめんなさい!」



 顔を真っ赤にして、慌てて部屋から出て行ってしまった。

 無理もない。女の子の部屋に男がいて、ましてや馬乗りになって女の子の胸を掴んでいる俺を見れば、誰でも交尾中だと思いますよね。



「だ・か・ら!! いい加減に離しなさいってばぁぁああああああああ!!」


「うわっ!?」



 とうとうキレたソフィアに、俺は押しのけられてしまった。

 彼女はテーブルの上に置いてあった杖を掴むなり、俺へと向けてくる。



「ちょっと、どういうつもりなの? あたしをいきなり襲うなんて、いい度胸ね!」


「えーと、あれは事故なんです」


「事故? あたしが離しなさいって言ったのに、ふざけてたくせに?」


「アレは悪いと思ってる。だから勘弁してください。無敵のソフィア様」



 ソフィアはムッとした表情で、こちらを睨みつけてくる。怒った表情も可愛いな。



「もういいわ。あなた本当に変わってるわね。部屋に戻って!」


「えーと、そのー、他にも聞きたいことが … 」


「いいから自分の部屋に戻りなさい! さもないと … 」


「あーあー、分かりました分かりました。戻りますよ」



 ソフィアが今にも魔法をぶっ放しそうだったので、俺は部屋から出た。

 直後、勢いよく扉が閉まり、ロックする音が聞こえてくる。

  

 完全に怒ってる … 。



「やっぱ、あそこでボケるんじゃなかった … 」



 今さら後悔しても、もうどうにもならないよな。

 とにかく今日はいろいろあったし、疲れたから寝るか。


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