1-2 俺の系統は・・・
ソフィアという金髪二次元美少女に連れて来られた場所は、中世のお城のような建物だった。例えるならば、ドイツのノイシュヴァンシュタイン城みたいにデカい立派な石造りの城である。
巨人が出入りするのかよ! と言いたくなりそうなほど馬鹿でかい正門を潜り抜け、城内部に足を踏み入れる。
赤い絨毯が敷いてある廊下を歩き、城の螺旋階段を上っている間、俺はソフィアからいろいろな話を聞いた。
まず、ここは大陸の南西部に位置するオスリビア王国という国にあるオスリビア魔法師養成学院という所らしい。
1回生から6回生までが在籍しており、主に魔法についての技術:知識を学ぶ学校だそうだ。
しかも全寮制で5つの系統ごとに寮・クラスが決まっているらしい。
水系統の魔法使いは 『ウンディーネ』
火系統の魔法使いは、『サラマンダー』
土系統の魔法使いは、『ノーム』
風系統の魔法使いは、『シルフ』
光系統の魔法使いは、『ルーチェ』
ちなみに今の俺は、魔法という存在を受け入れていた。
それもそのハズ、俺の視界には二次元の光景が広がっていたり、リザードマンが襲ってきたり、ソフィアに治癒魔法をかけられたりしたからだ。
どれもこれも非現実的なモノばかりで、もう受け入れざるしかないのだ。
そう、俺は二次元ファンタジー世界へとトリップした。
すべてはそう語っている。
「なぁ、ちなみにソフィアはどの系統の魔法使いなんだ?」
俺の質問にしばらく黙り込んだソフィアは、やがておもむろにこう返事した。
「全部」
「へっ!?」
「だから … 全部」
全部って … 水、火、地、風、光の全5系統?
いやいや、それはありえない。普通は1系統しか使えないでしょ。
「つまりソフィアが言いたいことは、5系統の魔法をすべて使えるということなのか?」
「そういうこと」
なんと!! チートすぎるっ!
いや、もしかしたら・・・
「あのさぁ … この世界の魔法使いって、全系統が使えるのが普通なのか?」
「違うわよ。普通は1系統までしか使えない。稀に2系統使える魔法使いもいるけど … 5系統すべての魔法を使えるのはあたしだけ。だってあたしは特別な存在だから」
「うわぁ、完全にチートじゃん!」
「チート? それ何?」
俺はもしかしたら、物凄い少女と出会ってしまったのかもしれん。
うーん、二次元のファンタジー世界に迷い込んだからには、やはり主人公にもチート的能力があるのが当たり前だよな。ってことは、俺にもチート的潜在能力があるのかな?
「ちなみに俺は、何系統に所属するか分かる?」
ソフィアは首を横に振る。
「あたしには分かんないわ。あなた、杖は持ってないの?」
「杖 … 魔法の杖のことか? それなら持ってるわけないだろ」
「嘘? あんた何歳だっけ?」
「17」
「17だったら、魔法使いか剣士、どちらかの見習い段階のハズなんだけど … 。杖を持ってないということは、あなたは剣士なの?」
何だよ。その魔法使いか剣士かの2択は!! それ以外はないのかよ。
どうやらこの世界の17歳の人間は、魔法使いか剣士のどちらかの見習い段階についているらしい。
「俺、杖も剣も持ってないから … 」
「じゃぁ、魔法使いでも剣士でもないってこと? じゃぁ、何なのよ!!」
「高校生だよ!!」
「コウコウセイ? そんなの初めて聞いたわ。じゃぁ、コウコウセイは何する人
なの?」
「勉強する人だよ」
しかし、ソフィアは納得してくれない。
「勉強って言っても何を勉強するの? 魔術?剣術?暗殺術?武術?航海術?」
「うっ … 国語・数学・物理・化学・歴史とかかな。つまり簡単に言うと、計算したり、文章を読み取ったり」
「文字を習ったり、計算したりするのって、普通、11歳までじゃないの? あなた17歳なのにまだ計算習ってるの?」
なるほど今思えば、この世界の人間なら数学とか国語とかの教科を勉強する必要がないのだろう。せいぜい足算・引算・掛算・割算さえできれば、何も不自由しないしな。
そもそも科学が発達していないのだから、因数分解や三角関数などの難しい数式とか物理式とか必要ない。
その代わりに、この世界では魔法が主流になっているから、魔法について学ぶというわけか。
でも、待てよ? さっき、ソフィアは魔法使いか剣士かって言ったけど
「なぁ、ソフィア、さっき魔法使いか剣士って言ったけど、剣士のように魔法を学ばない人もいるってことだよな?」
「そうよ。魔法使いか剣士か、どちらかというと魔法使いになる方がお金がかかる。だからお金がない者は剣士の道へと進むってこと」
でも俺、魔法使いにさせられるんだよね?
お金なんて持ってません。財布にはせいぜい1000円くらいしか … いや、この世界の通貨が円とは限らないぞ!
少し慌てた様子の俺を見て、ソフィアは小さく笑った。
その笑顔がまた美しい。
「心配しなくてもいいわよ。あなたはあたしのパートナーになるんだから、学費は全部あたしが払ってあげる」
「いや … でも何か悪いな、それ … 」
「ううん平気。でもその代わり、なんとしてでも2年間で立派な魔法使いになってよね!」
とりあえずお金の問題はなさそうだ。
条件として立派な魔法使いになれってことだけど、この俺に魔法使いの才能ってあるのか?
そして気が付いたら螺旋階段を昇り終えており、最上階へとたどり着いていた。
目の前には高さ3mくらいの立派な木製扉が姿を現している。
「さぁ、着いたわ。あの扉の先は学院長室。学院長があなたの系統を決めてくれるわ」
「な、なるほど … いよいよ俺の系統が決まるのか … 」
果たして、俺は何系統になるのだろう?
すべてはあの扉の先で待っている。
◇
「「失礼します!」」
俺とソフィアは一緒に学院長室内に足を踏み入れた。
広さは普通の校長室とほぼ変わらないが、室内の壁周囲には本棚がズラリと並んでいた。まさに本に囲まれた部屋である。
すると俺らが部屋に入ってきたことに気が付いたのか、書斎に肘をついてウトウトと頭を揺らしていた学院長と思わしき白髪の老人が顔を上げた。
「おおっ、ミス・マーキュリーか! どうしたのじゃ?」
「学院長にご報告したいことがあります」
そこで学院長の視線が俺の方へと向いた。
「おおっ、もしや … その少年をパートナーとして見つけてきたのじゃな?」
「はい、そうです」
白い髪と髭が印象的な学院長は、俺の顔をじっと見つめてくる。
「それにしても … お主、この辺では見かけぬ顔じゃな。これまた珍しい髪色をしておる。お主、名はなんと申す?」
「俺の名前は、小樽勇希です」
「オタル・ユウキか。うむうむ」
学院長はそう頷き、ソフィアへと言葉を投げかける。
「ミス:マーキュリー。その少年をパートナーとして選んで本当にいいんじゃな?」
「はい。そうです」
「これから2年間、パートナーとは深い絆を結び、様々な試練を乗り越えて行かなければならない。相性的に出来ればパートナーは同性がいいと思うのじゃが … 異性のパートナーでも本当に構わないんじゃな?」
学院長の最終確認に対して一瞬だけ迷ったそぶりを見せたソフィアであったが、静かに首を縦に振り頷いた。
「ミスター:オタル、お主はこれから2年間 ミス:マーキュリーの指導の下、立派な魔法使いになるべく実技や知識を身に付けなければいけない。本来は6年かけて魔法の基礎や応用について学ぶべきなのじゃが、その3分の1の期間で学ばなければならないのじゃ。他の生徒よりも3倍努力しなければならなくなるが、それでもミス:マーキュリーのパートナーとして、魔法を学ぶ覚悟は出来ているかのう?」
ソフィアが「どうするの?」言いたげな目で俺の顔を見つめてくる。
魔法を学ぶ覚悟 … かぁ。
俺はまだこの二次元世界にやってきたばかりで何が何だか分からない状況だ。当然、元の世界に帰る方法も不明である。
だが、リザートマンみたいなモンスターに襲われたところを助けてくれた恩もあるし、しばらくの間はこのソフィアという少女と行動を共にしても良いかもしれない。あと余談なんだが … 前々から魔法を使ってみたいと思っていたしな。
「学院長、俺は構いません。ソフィアのパートナーとして、しっかりと魔法について学んでいきたいと思っています」
「うむ、よろしい。では早速、お主の系統を決めるとしよう。君、ちょいと前へ来たまえ」
そう言われ、俺は前へと歩み出た。
「ではこれより、お主の系統を定めるとする」
学院長は杖を取り出すや否や、それをひと振りした。
するとどうだろうか。本棚の一角に置かれていた拳サイズほどの水晶が浮き上がり、俺の目の前へと移動してきた。
一体、何が起こるんだろう、とドキドキ期待していると、突如その水晶が粉々に割れ、真っ赤な火の玉が出現した。
「ほぉ~、お主は火系統の魔法使いみたいじゃな。よって今日からお主は火系統の『サラマンダー』じゃ」
おおっ、俺は火系統か! 何か燃えてくるな!
「ユウキ、おめでとう」
「いや … ありがとう」
「ミスター:オタル、今日からお主はこのオスリビア魔法師養成学院の生徒の一員じゃ。この学院での生活は2年間という僅かな期間であるが、盛大に学院生活を楽しんでくれたまえ」
二次元ファンタジー世界で魔法使いになる(させられる)俺。まさに夢みたいだ!
ソフィアも可愛い美少女だし、彼女からいろいろと指導を受けることになるんだな。何か楽しみになってきた。
よし、2年間で立派な魔法使いになって、ソフィアから褒められるように頑張ってやるぞ!