0-2 パートナー
「ちょっと … ど、どういうことなんですか!?」
オスリビア王国西部に位置する国立魔法師養成学院の学院長室内に、少女の甲高い声が響き渡った。
驚きで目を見開いている少女をじっと眺めている学院長は、白い髪と髭を揺らしながらこう口にする。
「どういうことだと言われてものぅ、仕方がないんじゃよ」
「で、でも、何であたしが … パートナーを見つけてきて、一人前の魔法使いにしなければいけないんですか!?」
少女の問いかけに、学院長は 「うむ」 と呟く。
「卒業試験だからじゃよ」
「そ、卒業試験っ!?」
それを聞いた少女は口を半開きにする。
「普通の卒業試験は6回生の最後の時期にやるものじゃ。内容は実技試験と筆記試験の2つ。しかし、お主は学院生徒内でずば抜けて頭も良く、魔法の実技も見事なモノじゃ。今すぐにでも卒業試験をクリアできるじゃろう」
「だが・・・」と口にし、学院長は続けてこう言った。
「お主はまだ5回生じゃ。卒業年齢に達しておらん。かと言って、卒業する実力を既に身に着けているにも拘らず、このままあと2年過ごすのも退屈だろうと思ってのぅ。だからお主はパートナーを見つけてきて、そのパートナーを立派な魔法使いにさせるのじゃ。これがお主の卒業試験と定める!」
「そ、そんな … じゃぁ、そのパートナーを魔法使いにできなければ … 」
「お主は卒業できぬということになるのぅ」
少女は、学院長が言ったことに呆れた。
自分は既に卒業できるレベルに達しているのに、パートナーを見つけてきて立派な魔法使いにしろというのだ。
しかも立派な魔法使いにできなかったら自分は卒業できない。
学院長が言ってることは、少し矛盾しているようにも思える。
「あ、あのぅ … 学院長、そんなの無理です! 普通の生徒は6年かけて魔法使いになります。ですが … たったの2年間では魔法使いになれるわけがありません。それにもかかわらず、この2年間でパートナーを立派な魔法使いにしろとおっしゃるつもりですか?」
少女の反論に、学院長は白い髭をボリボリとかく。
「まぁ … お主が既に立派な魔法使いで完璧じゃから問題ないじゃろう。お主なら出来る!」
「そ、そんな … 」
無茶苦茶な話に、少女はただ渋々受け入れるしかなかった。
◇
少女は魔法学院を後にし、学院の敷地外にある森へと向かっていた。
この森は『獣の森』と呼ばれており、その名の通り凶暴な獣が住み着いている森である。学院生徒どころか周辺に住む市民も近寄らないという森へ、その少女は平気で入って行った。
なぜなら彼女は強力な魔法を使用できるからである。
中級レベルの獣が現れたくらいでも、彼女は簡単にも撃退できる魔法技術を既に身に着けている。
「何であたしが魔法の素人を一人前の魔法使いにさせなきゃいけないの?」
少女は薄らと不気味なほど暗い森の中を、そう愚痴を漏らしながら歩く。
「本当にめちゃくちゃだわ。もう!」
腰まで伸びた長い金色の髪を揺らしながら彼女は森の中を進んでいたが、やがて諦めたように溜息を吐いた。
「はぁ … 早くパートナー見つけなくちゃ。学院の生徒じゃダメらしいし。あぁー!! もう嫌!!」
少女は腹いせに小道に落ちていた石を蹴とばした。
その直後だった。
ウォォォオオオオオオオオオッ!! という低い獣の咆哮が、薄暗い森の中に響き渡った。
「えっ!?」
少女は咄嗟に杖を取り出し、いつでも魔法を使えるように構えの姿勢を取る。
森には不気味な風が吹いており、どこから獣が現れても不思議ではない雰囲気が漂っている。
少女は神経を研ぎ澄まして辺りの様子を伺っていたものの、獣が現れることはなかった。
「さっきの咆哮、この森に生息している獣の声よね。でもおかしいわ。獣はいつも人間を見るたびに咆哮して襲ってくるハズ。ということは、この森に誰か迷い込んだってこと!?」
少女は声が聞こえた方に向かって走った。
仮に誰かが森に迷い込んでしまって獣に襲われたのだとしたら、一刻も早く助け出さなくてはならない。
深々と生い茂っている草木をかき分けながら、道なき道をひたすら進む。
そして草木を抜け、小さな泉がある広い空間に出た時、少女は目にしてしまった。
トカゲ型の獣の姿と …… その獣に襲われている1人の少年を。