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5月18日の日記

ノリは作者が書いてるもう一つの恋愛小説と同じです。

『5月18日 晴れ


今日はちょっとしたどころではない出来事があった。

神殿のアホ共の暴走自体はさほど珍しくはないけど今回のは少しばかり規模が違った。

まったく、最近は落ち着いていたというのになんなのあいつら自重しろよ。』


《護衛騎士の日記より抜粋》






その騒動の始まりはその日の分の書類仕事を終わらせて、陛下の護衛に戻ろうとしたときのことだった。

時刻は昼の少し前。もうすぐ昼飯だし仕事の前に軽く食事でもとろうかなー、とか考えながらてれんこてれんこ歩いていたら部下であるリーズがものすごい勢いでこちらに向かって走ってきたのだ。

何事だよ。つか廊下は走るなっていつも言ってるでしょ。


「ユウキ様、大変です!」


「どしたの? 陛下の命を狙う暗殺者でも出た?」


「あ、いえ、そうではないのですが・・・その少々説明が難しく・・・」


「? とりあえず報告して」


「は、はい。 それがですね・・・」


若干混乱しているようで説明が支離滅裂気味の部下の話をわかりやすく纏めるとこうなった。


―――神殿の連中が『豊穣の巫女』とやらを呼ぶための儀式をしたら光と共にどこからともなく少女が現れた。


・・・はい?

ごめんなさい意味がわかりません。

何で神殿のやつら魔法すら存在しないこの世界で『豊穣の巫女』とかいうファンタジーなものを召喚なんていうファンタジーな方法で呼び出そうとしたの?

そしてなんで呼び出されているの?世界観守れよこのやろう。

だが文句を言っていても事態は何一つ解決しない。めんどくさいとこになりそうだと思いながらも部下を伴い現場に急行することにした。


おっと、自己紹介をしておこう。

俺の名前は浅野結城ことユウキ・アサノ。いろいろあった結果トリッパー暦6年にしてこの国の王様の護衛を勤めている元日本人である。

ごめんなさい俺も人のこと言えなかった。同じ穴のムジナでした。



リーズとその辺歩いてた(警邏中だった)衛兵を三人ほど引き連れ神殿に到着したときには事態はすでに進展していた。


「この娘は余が預かる。 不満があるのならここで申してみよ」


騒ぎの中心であろう聖堂の中に入ると脱力している黒髪の少女を抱えながら陛下は神官たちに向かってそう宣言していた。

陛下の目の前には神殿の長たる大神官がいたが陛下の迫力にすっかり飲み込まれており文句が言いたくても言えない様子だった。

ていうかなんでいるんですか陛下。まだ執務室抜け出したんですか?出歩くときは護衛付けろって何回言わせるつもりですか?

だけどその辺の追求は置いといてあくまでここは国王に忠実な兵士を演じる。


「陛下」


「来たかユウキ。 この娘どう思う?」


陛下が抱えているぼんやりとしている少女―――おそらく異世界トリップ直後のショックで脳が現状を理解し切れていないのだろう―――の顔を覗き込む。

まず目に入るのは黒い髪に黒い瞳、服装はおそらくだが高校の制服、そしてこの世界の人間に比べて幼く見える顔。

これらの情報から判断するに―――


「そのようです。 おそらくは自分と同じで・・・」


「・・・そうか」


少女から視線を陛下に移すと


「どうなされますか?」


「保護する」


即答。

相変わらずのお人よしだ。だが俺もこの人のお人よしのおかげで生きながらえているのだから文句などあろうはずがない。


「仰せのままに。 ですがその前に念のために本人から直接聞いておきましょう」


まだ少女は混乱中らしいがこちらとしては一刻も早く確証が欲しいので軽く頬を叩いて正気に戻すことにする。

ぺちぺちと頬を叩く。案外もち肌だな・・・。


「おーいしっかりしろー大丈夫かー?」


「・・・え、あ、あれ? あたし・・・」


少女の目の焦点が合ってきた。これなら話しかけても大丈夫かな。


「お目覚め? お嬢さん」


「あ、うん。 あの、ここはどこなの?」


「ここ? ここはアルフール王国だよ」


「アルフール王国? なにその国? 聞いたことない」


ふむ、この反応は確定か。


「よし、まずは落ち着いて深呼吸だ。 落ち着いた? 落ち着いたな。

 なら日本、アメリカ、中国、ロシア。 これらの国に聞き覚えはあるよね?」


「お兄さん日本を知ってるの!?」


んー、俺を日本人と気づかないあたりまだ混乱中かな?まあ無理もないけど。


「君は日本人だろう? 安心しろ俺もだよ」


「あれ? でもここは日本じゃなくて・・・でもお兄さんは日本人で・・・?」


「落ち着いて。 まだ混乱してるみたいだから無理しちゃ駄目だよ。

 休める場所用意するから話は休んでからにしよう」


「う、うん。 そうする・・・」


「リーズ」


「はっ!」


俺の最も信頼する部下は名前を呼んだ瞬間に俺のすぐ側まで来た。いつものことだけど反応早いな。

というか妙に距離が近い。もうちょい離れてても問題ないぞ。


「今すぐに部屋の手配を。 それと一応世話係にはタリアを選んでおけ」


「了解しました」


タリアさんなら異世界人のことも知ってるし安心して任せられる。なんせ俺がこっち来た時にいろいろお世話してくれた人なのだ。

さて、じゃあさっさとお嬢さんを休ませてあげるか。けっこー精神的にクルんだよね異世界トリップって。


「では陛下、そろそろその娘を降ろしてください」


「え? って、ええ!? あ、あたしずっと抱えられてて!?」


あ、やっぱり気づいてなかったんだ。

自失呆然となっていたとはいえ高校生の女の子がダンディな感じの男に抱えられているのだ。すごい恥ずかしそう。

日本人は抱きかかえられる機会なんてそうそう無いからしかたないね。


「よい。 このまま余が運ぼう」


「ええっ!? いやいいですいいです降ろしてくださいぃぃぃ!」


なに言ってるんですかあなた。それじゃ臣下に示しがつかないでしょうに。


「はぁ・・・、リーズ」


「はっ! 陛下、その子は私が運びますので」


いや目覚めたんだから歩けるだろ。羞恥で死ぬぞこの子。

結局少女はリーズに抱えられて運ばれていった。顔真っ赤だったなあ・・・。


「では余も戻らせてもらう。 ユウキ、後処理を終えたら余の部屋まで来い」


「仰せのままに」


そういうと陛下も聖堂から出ていった。

やたらそわそわしてたな陛下。気づいたのは俺ぐらいだろうけど。

あの子の様子が気になるんだろうか。


「ユウキ殿! 横暴ですぞこれは!」


ああ、後処理しなきゃなんないんだった。

てかこいつ陛下がいなくなった途端わめき始めやがった。俺なら何とかなるとでも思ってんのかねえ?


「我ら神殿が召喚した巫女を奪うなどそのようなこと神が「大神官殿」っ!」


ちょっと殺気込めて声かけただけで黙りやがったよこいつ。ヘタレめ。


「今大神官殿は『我らが召喚した』とおっしゃいましたか?」


「そのとおりですとも! 故にあの娘は神殿が保護するのが道理というものですぞ!」


得意気に語るのはいいけどさあ・・・お前大事なこと忘れてるよな。


「権利を主張するのは構わんがそれは『人さらいは如何なる理由があろうとも有罪。拐ったのが同じ国の民なら最低でも禁固刑、他国民ならば死罪となる』というこの国の法を知った上での言葉だろうな」


ちなみにこれは奴隷の売買を防ぐための法律である。

前者の罪が軽いのはこの国で奴隷売買は禁止されているため非常にし辛く万が一犯罪を犯した場合でも足がつきやすいのであえて緩くすることで奴隷商人達を摘発する目的があったりする。


「っっ!」


ようやく気づいたか。ったく、どうせ神殿の権威を上げるためにやったんだろうがそれで国の法を犯すとはほんと救えない。

基本宗教にかかわる人間は上の立場にいる奴ほど国の法を軽視する傾向にあるがそれは信仰心のためか、それとも野心のためか。

まあ俺としてはどっちでもいいんだけどね。


「し、しかし我らはこの国のために・・・」


「お前は言葉すら理解できないのか? 『如何なる理由があろうとも有罪』だ」


「ですが! あの娘が他国の人間だと決まったわけでは!」


「あいにくだがあの娘は俺と同郷だ。 残念だがな」


あの少女と同じ黒髪を見せ付けると今度こそ大神官は真っ青になった。この国どころかこの辺の国に黒髪の人間は俺しかいないのだ。誤魔化しようがない。

まったく、余計な野心抱かなきゃ長生き出来ただろうによ。


「衛兵!」


「はっ!」


「連れていけ!」


「は、離せ! 私は大神官だぞ!」


大神官が喚くがその言葉に応えるものは仲間であるはずの神官たちにもおらず大神官はそのまま連れていかれていった。

最後に残った神官たちにも軽い罰を言い渡し後処理は終わった。あとは警羅隊に任せておけば大丈夫だろう。

しかしなぁ・・・。

まさか自分以外にトリッパーが来るとは・・・しかも若い女の子だ。

先輩としてしっかりケアをしてやらないといけないだろう。


「まったくもうめんどくさいなぁ・・・」


つまり仕事が増えるということだ。泣きたい。

これから先の未来を想像して憂鬱な気分になりながら聖堂を後にするのだった。



最近思いつくのこんな小説ばっかり・・・。

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