名は体を現す
一人目の男は細川と名乗った。やせた体型をしている。
二人目の男は目黒と名乗った。上も下も黒のスーツを着ている。
三人目の男は田中と名乗った。家が田んぼの中にでも建っているのだろうかと考えていると、下の名前は優助であるという付け足しが入る。何でも福祉介護の仕事についているらしく、周囲からは優しくて親しみやすいと評判であるという。
今回は以上の三名かと思い本題に入ろうとすると、田中さんの隣から声が聞こえてきた。
「先生待ってください。まだ私の紹介が済んでいません」
さて、声は聞こえるが姿が見えず。他の三人の男達も一様に顔をしかめながら辺りを見回している。
すると再び声が聞こえてきた。
「私の姿が見えませんか? まぁ無理もありません。私の名前は木之下透ですから」
そう言われて皆、なんとなく理解できた。名前が透だから、透き通って姿が見えないというわけだ。
それはともかく、これで今回の参加者は以上の四人であるようで。先生と呼ばれた男が話をはじめようとするとまたしても声が聞こえてきた。
「うわっ、私の財布が!」
見ると上下黒スーツの目黒さんが天井を見上げてあたふたしている。視線の先には宙に浮いてひらひらと動いている財布が確認できる。その財布がすいっと下に移動したかと思うと、一瞬にしてその場から消えてしまった。
思わずあっけにとられていると、再び声が聞こえてきた。透明の男、木之下透の声だ。
「びっくりしたでしょう。今のは私がやったんですよ。この男が金持ちであることは知っていた。だから姿が見えないのを良いことに財布を奪ってやったのさ。これで俺も大金持ちだ!」
目的を話し終えた木之下透は笑いながら移動している。姿は見えないが、声がどんどん離れていくから移動しているのだということが分かる。そして音もなく入り口のドアが開いたとき、痩せ型の細川さんが口を開いた。
「やめろ木之下さん。こんなことをしたって、いずれ捕まってしまうぞ」
続いて財布を盗まれた目黒さんが話しかける。
「そうだ木之下さん。今から財布を返してくれれば、私はこの件に関してだけは口外しない。だから財布を返すんだ」
福祉介護の仕事をしている田中さんも続く。
「木之下さん。あなたにも家族がいるでしょう。こんな馬鹿なことをしてはいけない」
皆が口々に説得の言葉をかけるが、木之下透は捨て台詞で答えた。
「キレイ事ばかり言うなよ。俺はこの体質を利用して、どんどん金儲けしてやる」
入り口のドアが閉ざされた一室では、三人がどうしようもなくおろおろとしていた。その喧騒を制して、先生と呼ばれた男がこう言った。
「大丈夫です。彼はすぐに捕まりますし、奪われた財布もすぐに戻ってくるでしょう」
先生と呼ばれた男に対して三人は口々に質問を投げかける。その喧騒を制して、先生と呼ばれた男がこう続けた。
「彼はしゃべり過ぎたのです。少子化社会が進み、わが国の家屋数は激減した。結果、同じ苗字を持つ家庭が存在しなくなったことを彼は知らなかったんでしょうね。
彼の実家はこの国唯一にして最後の樹木、グランドツリーの下にあるはずです。警察がそこから足取りを辿るでしょう」
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