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おちたー

レイニーディ(テルテル坊主)

作者: ササデササ

 これは『テルテル坊主』を思いついた、アイツのせいで、俺が苦労しているお話。

 

 梅雨が始まり、一部地域を除いて、日本の至る所で憂鬱な天の涙に覆われる。

 人口五百二十一人らしい、小さなこの田舎町も、やたらと雨に見舞われる。

 そんな時期になると。

「明日には雨を止めろよな!」と、俺に話しかけてくる奴がいる。

 雨が降ると、必ず誰かが、駅のホームで俺に話しかけてくるんだ。

 俺にお願いして、どうするんだよ。

 違うだろ?

 そういうお願いは神様にでもすれば良いのに、と思うんだ。

 俺に特別な力があるはずも無い。

 そんな事は改めて宣言する必要も無い、絶対的普遍的事実なのだ。

 まぁそれは、お願いする人たちもわかっているのだろう。

 多くの彼らは、真剣みの足りないニヤニヤ顔で、俺に話しかけてくる。

  



 だけど、今日は違った。

 それはある週の金曜日。やっぱり雨の日。天気予報によれば、明日も明後日も雨の日。

 そんな日に推定小学三年生の兄と推定小学一年生の妹の兄妹が話しかけてきた。

 兄が「明日は晴れにしてくれよ!」と言うと。

 妹は「駄目だよお兄ちゃん。お願いするなら『明日は晴れにしてください』だよ。丁寧にお願いしないと!」だって。

 いやいやお嬢ちゃん。そうじゃないんだよ。俺には君たちの願いを叶えられないんだ。

 だけど兄は、

「そうだね。テルテル坊主さん! お願いします!」

 と言って、不器用に深く腰を折る。

 俺の話なんか、聞く気ね~のな。

 もちろん、妹も俺を無視して。

「明日はおばあちゃんの誕生日なんです。そのお祝いに、みんなで遊園地に行くんです。だから……。明日晴れにしてください!」

 と言って、これまたぎこちなくお辞儀をする。

 兄妹は「もう安心だね」なんて会話をしながら、母親と共に改札の奥に消えていった。

 母親までもが「そうだね。もう大丈夫よ! 明日は晴れるわね」とか言いやがる。あんたは否定しなさいよ。

 全く持って下らない。

 遊園地なんか晴れた日に行けば良いさ。おばあちゃんの誕生日祝いが多少ずれたって大きな問題ではないはずだ。

 だけど、小さな子にとっての『一日』と言うのは大きいものだよな……。

 無気力に過ごす俺にとっての『一日』と大きく認識が違うのは理解している。

 あ~あ。面倒くせ~な!

久しぶりに神様にお参りしようかね……。


 そんな訳で、俺は神社に来たんだ。

 空よ。天よ。お前は、相も変わらず泣きっ放しだね。

 奇遇だね~。俺も泣きそうなんだよ……。面倒臭い!

 そもそもだ。

 俺は、ここが何の神社かわからない。この神社にいる神様が何者かなのかわからない。

 興味も無い。

 困った時だけ神頼み。それが俺なんだ。

 俺は神社の鈴を力いっぱい鳴らすのだけど、お参りしたいだけで、別にアイツに会いたい訳じゃない、と言う事だけは強く主張しておこう。

 そして、

「明日は晴れますように」

 俺は神様にお願いをした。

 その時……。

 後ろから声が聞こえた。

「お主の願いは聞き入れたぞ!」

 振り返ると女がいた。

 この町に一つしか無い高校の制服を着こなし、やっぱりこの町に一つしかない神社の娘で、そして、この町で一人しかいないと信じたい程に変な女。

 テルミが微笑んでいた。

 彼女は小走りして俺に近づき、俺の坊主頭を撫でてくる。

「ヨシテル君一人じゃテル坊主さ。だから私もお願いしてあげる。テルミの『テル』を貸して上げるよ。これでテルテル坊主でしょ?」

 俺の名前はヨシテルで、小さい頃から野球少年なため坊主だったから、付けられたあだ名。

 ヨシテル坊主でテルテル坊主。と言うか、テル坊主。

 八年前に、俺達が出合った瞬間にテルミがつけたあだ名は、いつの間にか、小さなこの町で有名になり、梅雨の時期になるとイタズラに話しかけてくる奴らが沢山いる。

 迷惑な話だよな。

 俺はこんな町が大嫌いだ。

 ついでに言うと、俺にこんな不幸を与える神様の存在なんか信じちゃいない。

 だけどさ。

 頼むよ。神様。

「明日だけは晴れにして下さい!」

 俺は、テルミと一緒にもう一度、神様に願いを届ける。

 テルミは。

「お主の願いは聞き入れたぞ!」と笑った。

「なんで、テルミが言うんだよ?」

「だって、私はね、ヨシテル君がお願いした相手。つまりは神様なのだよ!」

 とか胸を張るのだけど、性別を疑いたくなる平らな胸だった。

「お前は変な女だよ」

「ヨシテル君もね! あんなに鈴を強く鳴らす人だって変だよ~!」

 五月蝿いな。意味は無い。気まぐれだ。

 きっと、俺が神様を嫌いだからだろう……。

 俺たちのこんなやり取りは、確か九回目だと思う。

 迷惑な町人のお願いを、俺が叶えたくなってしまったのが多分九回目だった。

 そのどれもが、晴れている。

 だから、きっと、明日も大丈夫。

 八年前から制服姿の変な女を見ながら、明日の天気は晴れだと思った。

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