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温泉の色んな客

作者: WAIai
掲載日:2026/08/02

温泉の受付にいると、色んなお客さんがいらっしゃる。

「ーこんにちは。いらっしゃいませ」

私が挨拶すると、入って来た30代くらいの女性が、少し恥ずかしそうに言ってくる。

「入館料、全部、十円玉でお支払いしてもいいかしら?」

「はい」

私は戸惑いもなく、普通に答える。

お金はお金。

ちゃんと払ってくれるなら、何でもOKだった。

「えっと、これなんだけど」

どさりと出され、私は1枚ずつ並べていく。

女性は気が気ではないのか、少しおどおどして見える。

「…59、60。600円ちょうどありますね」

私がリラックスさせようとにこやかに言うと、女性はやっと安堵の息を吐き出し、頭を下げてくる、

「じゃあ、お風呂の入ります」

「ごゆっくりどうぞ。それと貴重品がございましたら、ロッカーをお使いください」

受付の横にあるロッカーを手で示すと、女性はうなずき、廊下を歩いて行く。

私はレジに十円玉をしまうと、ふと笑う。

ー今のお客さん、なかなか面白がったな。

全部十円玉で払ってくれる客なんて、初めてだった。

私は着ている作務衣の腰紐を直し、次のお客さんの相手をする。

「おう、来たぞ」

常連さんがやって来て、私は「いらっしゃいませ」と挨拶する。

「これ、お前にやる」

「何でしょうか?」

差し出されたのは、ボンタン飴で、懐かしいものだった。

お客さんの年は70代くらい。

私はどうしようと思い、聞く。

「もらっていいんですか?」

「嫌なのかよ?」

睨まれたが、別に嫌いなタイプではないので、普通に対応する。

「いいえ、いただきます」

ボンタン飴を大事そうに手にすると、後で食べようと、作務衣の前にしたエプロンのポケットに入れる。

「ありがとうございます」

「おう。味わって食え」

ガハハと笑うと、お客さんはお風呂に向かっていく。

しばらくして番頭さんがやって来て、

「お風呂のチェックしてきて」

「はい、分かりました」

私は長靴を手にすると、女性の風呂に向かう。

秋になり、涼しくなったからか、お客さんはまばらだった。

トンボが飛んでおり、秋の風景を一段と染めていく。

「失礼いたします」

私は一声かけると、長靴を風呂場で履き、椅子と桶のチェックをする。椅子を鏡の前に直し、桶を椅子に斜めがけする。

それから内湯と外湯に行くと、トイレの中も確認する。

ティッシュペーパーがあるか、便座は汚れていないか、チェックするのだった。

それから洗面台を見、髪の毛が落ちていないか、汚れていないか、確認してから、受付へ戻る。

「チェックに行って来ました」

「はい。次は俺が行ってくる」

交代に行くことになり、私はバックヤードに長靴を戻す。

受付の下の引き出しに隠した水筒を出し、一口飲むと、ほっと息を吐き出す。

受付にいるだけが、仕事ではないのだ。

「こんにちは」

またお客さんがいらっしゃって、私は挨拶する。

やはり常連さんで、お花が好きな男性だった。年は50代だろうか。

「これ、持ってきたから見て」

カタログを渡され、私は静かに受け取る。

どうやらお花の種のカタログらしく、「へえ…」と興味深そうに見る。

「後でゆっくり見せていただきますね」

「はい。じゃあ僕はお風呂に」

「ゆっくりしてくださいね」

カタログを水筒の側に隠すと、番頭さんがやって来た。

「電話か何かあった?」

「いいえ、何も。ただ常連さんがこれを」

もらったボンタン飴を出し、番頭さんに見せる。

番頭さんは50代くらいで、「懐かしい」と呟く。

「今、1ついただきましょうか。暇ですし」

「いいの?」

「いいんですよ。すぐに溶けますから」

ボンタン飴の封を切ると、オブラートに包まれた四角の柔らかな飴が出てくる。

私は1つ摘むと、番頭さんに差し出し、口に含む。

「あー、このなめらかさ!! オブラートも美味しいんですよね」

「そうだね。うん、美味しい」

そう言うと、番頭さんは事務室に入っていく。

私はボンタン飴をポケットに入れると、お客さんに、にこやかに言う。

「いらっしゃいませ。2名様ですか?」

温泉は今日も色んなお客さんで、賑わっていた。



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