第3話
部屋の入り口に立っていたのは、どこか気の強そうな女子生徒だった。彼女は怪訝そうに僕を見ている。
「軽音部はもうおわったと思ってたけど…一人で何してるの?」
僕は床に座り込んだままだったことを思い出して、慌てて立ち上がった。何と言えばいいのか分からず黙ってしまう。
この人には僕の隣の先輩が見えていないようで、涼しい顔で部室へ入ってくる。
彼女は棚の前で止まり、少し振り返って僕をみた。
「ねぇ、マイクってどこにあるか知ってる?文化祭のステージで使うの。」
「えっ?」
思わず気の抜けた声が出る。咄嗟のことで言葉が詰まる。
ふと黙っていた先輩が口を開いた。
「マイクは、多分ここにはないと思うぞ。」
僕は横目で先輩を見る。先輩は腕を組んで、何かを思い出すように棚をにらんでいた。
「今日の昼、確か音響スタッフとかいうのがマイクを持っていったんだ。」
僕はじっと床のタイルを見つめる。
先輩の言うことを言う信じるからどうか考えた。少し迷ってから、僕は棚の前にいる彼女に伝えた。
「えっと…ここにはないみたいです。お昼に音響スタッフの人が持って行ったらしくて…。」
「音響スタッフ?あー…教えてくれてありがとう。」
彼女は納得したように頷き、再び教室の入り口へもどる。
先輩がこっちを見ているのがわかる。少し間を置いてためらいがちに僕に話しかけた。
「なぁ、お前も一緒に行ってくれよ。俺音響スタッフが持って行くとこ見てたんだけど、正直扱いが雑でさ…。ちょっと不安なんだよ、頼む!」
先輩の方を見ると、彼は胸の前で両手を合わせている。
僕はどうすればいいか分からず、困ってしまった。ついさっき会ったばかりの…人間ならまだしも、幽霊の頼みごとを聞くなんて。だけどきっと彼は、今ここへ来た彼女のように、みんなには見えないし会話もできないんだろう。
それに、本当かどうか分からないことを彼女へ伝えてしまった後ろめたさもあった。
「…僕も、一緒に行きます。」
彼女はきょとんとした顔でこっちを見た。
「え?いいけど…。」
僕がついていく理由が分からず困惑しているようだ。少し気まずい空気をなんとかしたくて、早足で部室を出る。音はないが、先輩がゆっくりとうしろをついてくる気配がした。
彼女は僕を見て何か考えている様子だったが、結局理由は聞かなかった。
僕らはうす暗い廊下を歩いて、体育館へ向かった。




