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神主見習いと幼馴染の許嫁  作者: ブヒ太郎


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18/20

18話

期末テストがようやく終わった金曜日の午後。


美影高校の3年生の教室は、試験からの解放感に満ち溢れた生徒たちの、賑やかな声で溢れていた。


「お…終わった…」


巴は、自分の席で机に突っ伏したまま、魂が抜けたような声を漏らした。最後の科目の答案用紙を提出してから、ずっとこの調子だった。


「よぉ、巴、手応えどうだったよ?」


朱音が、自分の席から身を乗り出して、親友の顔を覗き込んだ。


その問いかけに、巴はゆっくりと顔を上げた。


「……」


返ってきたのは、沈黙。そして、何とも言えない微妙な表情。


朱音は、その顔を見ただけで全てを察した。


「お、おう…その顔が物語ってるな…」


朱音は、同情するように肩を竦めた。まぁ、予想通りではあった。壮一郎がどれだけ付きっきりで勉強を教えても、巴は巴だった。


そんな二人の会話に、教室の後ろから明るい声が割り込んできた。


「朱音~、カラオケ行こうよ~」


「テスト終わったし、ぱーっと遊ぼう~」


朱音の友人、茶髪のショートカットが明るい雰囲気の美咲みさきと、おっとりした雰囲気だが意外と毒舌な瑞希みずきが、嬉しそうに駆け寄ってきた。テストが終わった開放感で、皆浮足立っていた。


朱音は、その誘いに頷きながら、隣で未だにぐったりしている巴に声をかけた。


「うん、行こうか。巴はどうするよ?」


美咲が、巴の机に手をついて覗き込んだ。


「たまには付き合えよー、巴~」


しかし、その問いに答えたのは、意外にも瑞希だった。彼女は、巴の反応を先読みしたかのように、わざとらしく両手を広げて宣言した。


「無理、あたしには壮一郎が待ってるからっ!」


その完璧すぎる巴のモノマネに、美咲が即座に反応した。二人は顔を見合わせ、次の瞬間。


「巴っ!」


「壮一郎っ!」


大げさに抱き合い、まるで悲恋のヒロインとヒーローのように、涙ぐましい演技を始めた。教室の何人かが、その様子を見て笑っていた。


その光景を見た巴は、机から顔を上げ、実に冷静な、真顔で言い放った。


「いや、よくわかってんじゃん」


朱音は、その全く自覚のない巴の反応に、深く、長いため息をついた。


「…今の巴からそれ言われると笑えねぇわマジで…」


美咲が、その朱音の言葉に反応し、興味津々といった様子で身を乗り出した。


「え?どゆことどゆこと?」


瑞希も、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら、追及してきた。


「亀みたいな展開の遅さになんか進展でもあったか~?」


その「亀みたい」という言葉に、朱音は力なく笑った。


「…はは…亀ね…」


(いや、もうとっくに亀じゃないんだよなぁ…)


朱音は、心の中でそう呟きながら、観念したように口を開いた。


「…実はね…」


そうして、朱音は巴が壮一郎と正式に恋仲になったことを、美咲と瑞希に話し始めた。


「えぇぇぇ!?マジで!?」


「うっそ、ついに!?」


二人の驚きの声が教室に響き、周囲の何人かがこちらを振り向いた。その視線を感じながら、巴は少し照れくさそうに、しかし満足げに、自分の机に突っ伏すのだった。


美咲が、その驚きから立ち直ると、改めて巴をじっと見つめた。


「しっかし、まぁ、あの神社の神代さんと巴がねぇ…」


瑞希も、どこか感慨深げに頷いた。


「好きだ好きだっていうのは知ってたけど…」


その二人の言葉に、巴が少し警戒するように顔を上げた。


「なんだ?何か文句でもあっか?」


瑞希は、その反応を面白がるように、わざと挑発的に言った。


「なんか肩っ苦しい人選んだよねぇ…」


美咲も、それに乗っかるように続けた。


「真面目過ぎてつまらなさそう…」


巴は、その言葉に少し考え込むように視線を泳gせた。


「真面目…肩っ苦しい…うーん…確かに身持ちは堅いよなぁ…」


その呟きに、美咲が即座に反応した。目を輝かせて、巴の机に両手をついて身を乗り出した。


「え?身持ちが堅いって何々!?」


瑞希も、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら、興味津々といった様子で続けた。


「お、なんだなんだ?なんか面白い話か?」


巴は、その二人の反応に、少し得意げな顔をして口を開きかけた。


「面白いっつうか…」


しかし、その言葉を遮るように、朱音が慌てて割り込んだ。


「いや、巴…それここで話すような内容じゃ…」


だが、巴は朱音の制止など意に介さず、堂々と胸を張った。


「はぁ~?未来の旦那だぞ、あたしの壮一郎は。あたしが壮一郎に何しようが嫁たるあたしの正当な権利だ」


その、あまりにも堂々とした宣言に、美咲と瑞希は顔を見合わせた。そして、瑞希が畳みかけるように聞いた。


「…で、何したっていうんだよ」


巴は、少し照れくさそうに頬を染めながらも、自慢げに語り始めた。


中間テストのあたり、つまり2か月ほど前から、ちょこちょこ壮一郎と一緒にお風呂に入っていること。今はもう一緒に住んでいること。そして、たまに壮一郎と同じ布団で寝ていること。


その告白に、美咲と瑞希は完全に沈黙した。教室の空気が、一瞬止まったように感じられた。


朱音は、もはや止める気力も失せたように、深く頭を抱えた。


「…ぉぃ、巴」


その呆れ果てた声が、賑やかだった教室の一角に、静かに響いたのだった。


美咲が、その沈黙を破るように、わざとらしく声のトーンを変えた。


「…ってことは今はもうズブズブの爛れた関係…?」


瑞希も、それに乗っかかるように、妖艶な雰囲気を醸し出そうとしながら言った。


「…巴…今日もいいだろ…?」


美咲が、急に乙女のような声を作って続けた。


「きゃっ…壮一郎、そんなっ…」


瑞希が、低い声で壮一郎役を演じた。


「今日も可愛いよ、巴」


美咲が、さらに演技をエスカレートさせた。


「壮一郎っ…あっ、あっ、ああっーーー」


二人がまた盛大にふざけ出す様子を見て、朱音が呆れたように制止した。


「おぃ、お前らも…」


しかし、巴はその茶番を、実に冷めた目で見ていた。教室の喧騒が遠くに聞こえるような、どこか諦めたような表情で。


「そういう関係に成れてたら、あたし的には大満足なんだが…」


その、あまりにも真顔で現実的な一言に、美咲と瑞希の演技がピタリと止まった。


「「・・・」」


朱音が、フォローするように小さく呟いた。


「…まぁ、壮一郎さんは真面目だから…」


巴は、その言葉に少し不満そうに唇を尖らせた。


「真面目なのはいいけど、こう夜は少しは獣になって欲しいというか、なんというか…跡継ぎだって要るだろうに、壮一郎」


その、あまりにも生々しく、そして現実的すぎる発言に、美咲と瑞希は再び顔を見合わせた。そして、何かを察したように、静かに立ち上がった。


美咲が、朱音の肩を叩いた。


「…行こうか朱音」


瑞希も、同意するように頷いた。


「…だな」


朱音も、その二人の意図を察したように答えた。


「…そうね」


巴は、その三人の様子を見て、自分も席を立った。


「あたしは悪いけど、壮一郎が待ってるから…」


しかし、その言葉に、美咲が即座に大声で叫んだ。


「誰が誘うか!!」


巴は、その予想外の反応に、きょとんとした顔をした。


「えぇ?」


瑞希も、負けじと声を張り上げた。


「お前を連れてったら、ひたすら惚気話聞かされるだろうがっ!」


巴は、その言葉に首を傾げた。


「惚気かぁ?」


朱音が、もはや諦めたように深くため息をついた。


「…いや、どっからどう見ても惚気だろ…さぁ、行くぞ二人とも」


その朱音の言葉に、巴が裏切られたとばかりに叫んだ。


「朱音もかっ!!この裏切り者どもが!!!」


しかし、三人は声を揃えて反論した。


「「「どっちがじゃ!!」」」


その言葉を残し、朱音、美咲、瑞希は、賑やかに笑いながら教室を出て行った。


巴は、一人教室に取り残され、呆然とその背中を見送った。夕日が差し込む教室で、ポツンと立ち尽くす巴の姿が、妙に寂しげに見えた。


「…むぅ…」


巴は、小さく唸ると、自分の荷物をまとめ始めた。その顔には、すでに次の目的地である、壮一郎が待つ神社への期待が浮かんでいた。



神社の境内。時刻は16時前。


壮一郎は、いつものように竹箒を手に、境内の掃き掃除をしていた。石畳に落ちた木の葉を集めながら、サッ、サッ、と規則正しい音を立てて箒を動かしていた。梅雨も明け、初夏の日差しが心地よい午後だった。


「壮一郎~~~」


その声と同時に、背後から勢いよく何かが飛びついてきた。壮一郎は、もはや慣れた様子で、箒を持ったまま体勢を崩すことなく、その衝撃を受け止めた。


「おかえり、巴」


振り返ることなく、壮一郎は空いている方の手で、自分に抱きついてきた巴の頭を優しく撫でた。


「テストどうだった?」


その問いかけに、巴の身体が一瞬硬直した。


「…うっ…」


壮一郎は、その反応だけで全てを察したように、小さく笑った。


「はは…まぁ、今まで勉強してなかったんだから、仕方ないか」


その優しい言葉が、逆に巴の心に突き刺さったようだった。巴は壮一郎の背中に顔を埋めたまま、悲鳴のような声を上げた。


「ぐぁぁぁぁあああ、赤点取ったら、壮一郎との時間も減るし、約束の良い事がぁぁぁぁ」


壮一郎は、そのいつも通りの反応に、呆れたような、しかし愛おしそうな笑みを浮かべた。


「…はいはい…まぁ、結果が出てからのお楽しみだな…」


巴は、その言葉に力なく「はぁ…」とため息をついた。


壮一郎は、そんな巴を元気づけるように、箒を脇に立てかけると、彼女の方を向き直った。


「とりあえず、巴。買い物行くから、私服に着替えてきな」


その突然の提案に、巴が顔を上げた。


「え?買い物?どこへ?」


壮一郎は、何でもないことのように答えた。


「お前の水着を買いに」


その言葉を聞いた瞬間、巴の顔がぱあっと輝いた。先ほどまでの落ち込みなど、どこへやら。


「…え?やった行く行くっ!」


巴は、壮一郎から離れると、嬉しそうに小さく飛び跳ねた。その様子を見た壮一郎は、満足そうに頷くと、社務所へと向かった。



それから数分後。


二人は私服に着替え、神社の駐車場に停めてある壮一郎の車に乗り込んだ。巴は助手席で、まるで遠足前の子供のように、ワクワクした表情で前を見ていた。


「楽しみだね、壮一郎」


「そうだな」


壮一郎は、そう答えながらエンジンをかけた。車は静かに動き出し、神社の参道を抜けて町の道へと出た。


車窓から流れる見慣れた田園風景。青々とした稲穂が風に揺れていた。巴は、その景色をぼんやりと眺めながら、隣で運転する壮一郎の横顔を時折盗み見ていた。


そうして約30分。


車は、隣町にある大型のショッピングモールの駐車場に滑り込んだ。休日とあって、駐車場はそれなりに混んでいた。壮一郎は手慣れた様子で空いているスペースを見つけ、車を停めた。


「着いたぞ」


エンジンを切りながら壮一郎がそう言うと、巴は既にシートベルトを外し、ドアに手をかけていた。その様子を見た壮一郎は、小さく笑いながら自分も車を降りた。


ショッピングモールの入り口が、夏の日差しを反射して眩しく光っていた。



モール内の水着ショップ。色とりどりの水着が並ぶ店内は、夏を前にした買い物客で賑わっていた。


巴は、ラックに並ぶ水着を次々と手に取り、壮一郎に見せていた。


「壮一郎、こんなのどうかな?」


「いいんじゃないか?」


「これは?」


「良いと思う」


「なら、これは?」


「似合うと思うよ」


巴は、そのあまりにも素っ気ない返事に、ふと既視感を覚えた。


「…なんかこの会話の流れ、どっかで…」


壮一郎も、その言葉に小さく笑った。


「はは…お前の服買いに来た時みたいだな」


巴は、その言葉に少し頬を膨らませた。


「ぐぬぬ…何を選んでも良いと思うしか言わない壮一郎…」


壮一郎は、肩をすくめた。


「それはお前もだろ」


巴は、その図星の指摘に、一瞬言葉に詰まったが、すぐに開き直ったように言った。


「えー…まぁ、そうなんだけどさぁ…壮一郎はあたしにどんなの着て欲しい?」


壮一郎は、その問いに苦笑した。


「この流れも前にあったなぁ…」


巴は、その逃げようとする壮一郎を許さず、両手で彼の腕を掴んで引き寄せた。


「良いから良いからっ!ほら選んでよ!」


壮一郎は、その熱意に負けたように、観念したように答えた。


「仕方ねぇなぁ…」


巴は、その言葉に内心ほくそ笑んだ。


(とは、言っても無難なのしか選ばないだろうしなぁ…ここはいっちょ派手なものでも選んで壮一郎を驚かせるか)


クヒヒ、と何かを企むような笑みを浮かべた巴。しかし、その思惑は次の瞬間、見事に裏切られることになる。


壮一郎は、ラックの奥から一つの水着を取り出すと、何食わぬ顔で巴に見せた。


「巴、これなんかどうだ?」


巴は、期待に満ちた表情で、その水着を見た。


「おっ、どんなの選んでくれた…の?」


しかし、次の瞬間、巴の顔から血の気が引いた。壮一郎が選んだのは、明らかに布面積の少ない、かなり際どいデザインの水着だったのだ。


「そ、壮一郎さん…ちょっとこれは…」


巴が慌てて抗議しようとすると、壮一郎は首を傾げた。


「ダメか?なら、これは…?」


そう言って、壮一郎は今度はさらに布面積が少ない、もっと際どい水着を手に取った。


「これ、色々見えすぎじゃっ!?」


巴の悲鳴に、壮一郎は涼しい顔で答えた。


「ん-…なら、これとか?」


今度も、同様に際どいデザインの水着だった。


「ぐ…ぐぬぬっ…」


巴は、もはや言葉も出ない様子で唸っていた。壮一郎は、その反応を楽しむように、巴の顔を覗き込んだ。


「どれがいい?巴」


壮一郎の手には、どれも際どいデザインが目立つ水着が並んでいた。


「ど、どれと言われましても…」


巴が困惑していると、壮一郎がさらに追い打ちをかけた。


「なんだ?俺が選んだのじゃ嫌か?」


その言葉に、巴の顔がさらに赤くなった。


「~~~っ!!」


(あたしが断れないのを知っていて、選びやがったな、このドSが…)


巴は、そう思いながらも、その中でも一番無難なものを選ぼうと手を伸ばした。


しかし、壮一郎はその手を軽く制し、一番際どい水着を巴の目の前に持ってきた。


「俺はこれ着た巴が見たいな」


その、あまりにも真っ直ぐな言葉に、巴はついに観念した。


「…ぐぁぁぁあああっ!!わかったよ!わかった!それにするよ!!責任取れよ壮一郎っ!!」


顔を真っ赤にしながら、半ばやけくそ気味に答えた巴。


壮一郎は、その反応に満足したように、穏やかに笑った。


「ふふっ…プール楽しみだな、巴」


巴は、その余裕綽々の笑顔に、悔しそうに唸った。


「…くっそぉ…最近壮一郎の攻め手が増してる気がする…」


壮一郎は、その言葉を聞いて、さらに追い打ちをかけるように言った。


「はは、未来の嫁さんなんだろ?俺に嫁ぐなら、これくらい序の口序の口」


その言葉に、巴は嬉しいような恥ずかしいような、実に複雑な表情を浮かべた。


「~~~っ!!」


壮一郎は、そんな巴の頭を優しく撫でると、レジへと向かった。


巴は、その背中を恨めしそうに見つめながらも、心の中では少しだけ嬉しそうに微笑んでいた。



水着を買い終えた二人は、ショッピングモールを出て、駐車場へと向かった。


夕暮れの空が、オレンジ色に染まり始めていた。


車に乗り込んだ巴は、助手席で買ったばかりの水着が入った袋を膝の上に置きながら、小さく呟いた。


「…本当に着るんだからね、壮一郎」


壮一郎は、エンジンをかけながら、楽しそうに答えた。


「ああ、楽しみにしてるよ」


その言葉に、巴は顔を赤らめながらも、嬉しそうに微笑んだ。


車は静かに動き出し、二人を乗せて、神社への帰路についた。

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