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神主見習いと幼馴染の許嫁  作者: ブヒ太郎


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16/20

16話

美影高校、3年生の教室。 昼休みなのか、周囲がまだ少しざわついている中、巴は自分の席で朱音と向き合っていた。 弁当を広げる他の生徒たちをよそに、朱音は参考書を片手に、呆れた視線を親友に向けている。


「巴、あんた、そろそろ期末テストだけど勉強してんの?」


朱音は、どうせまた漫画でも読んでいるのだろう、という半ば諦めたような顔をして巴を見つめた。


しかし、巴からは驚くべき回答が帰ってきた。


「今回は勉強してるよ~」


「うっそ…」


朱音は、その予想外の言葉に素で驚き、目を見開く。


「テスト再来週だから、まだグダグダ漫画読んでるとか思ってたわ…」


そう言われた巴は、机に頬杖をつきながら、どこか遠い目をした。 その表情は、達成感ではなく、諦念に満ちている。


「ん-…あたしもあんまり勉強する予定はなかったんだけど、壮一郎…もとい未来の旦那がねぇ…」


巴は、実に陰鬱そうにそう答えた。 その返事には、壮一郎に「夏休みは補習だぞ」と脅されなければ、絶対にやらなかったであろう、強い意志の欠如が感じられる。


朱音は、その相変わらずの「旦那」呼びに、呆れながら答えた。


「だから…あんた、まだ壮一郎さんと付き合ってるわけでもないのに、旦那旦那って…壮一郎さんにも次期当主って世間体が…」


友人として、巴が恋焦がれる相手に迷惑をかけるな、そんなことをしていたら嫌われるぞ。 朱音は、そんな意味合いを込めていったつもりだったが…


「ふへ…ふへへ…」


巴の口から、実に怪しい、何かを堪えているような笑みが零れる。 長年の付き合いから、朱音はそのろくでもない笑みの意味を即座に察した。


「お、お前ら…まさか…」


巴は、ついに隠しきれない喜びを爆発させ、勝ち誇った顔をした。


「先日、ついにあたし達は両想いとなりました…ぐっへっへ」


唖然とする朱音。


「まさか…あの身持ちが堅い壮一郎さんが…巴なんかに、こんな早く篭絡されるなんて…」


朱音は、あの常識人に見えた壮一郎が、この本能で生きる巴に陥落したという事実に、心底意外な気持ちになったが…


「…まてよ…」


朱音は、そこで思考を止めた。


「何を?」


巴は、不思議そうな顔をした。


朱音はその問いを無視して、これまでの巴の惚気話を、脳内で高速再生した。 そもそも付き合う前から、一緒にお風呂には入るわ、一緒に部屋にさも当然のように泊まらせるわ、一緒に買い物行く際も手は繋ぐわで…。 朱音は、巴から自慢げに話された数々の暴挙(という名の猛アタック)を思い出す。


そこで辿り着いた答えを、彼女は大きなため息と共にごちた。


「…いや、ようやくか」


巴は、そのあまりにも感動のない答えに驚いた。


「な、なんだ!?そこはおめでとう!じゃないのか!?」


当然、祝われるだろうと思っていた巴にしてみれば、実に意外な反応だったが、


朱音は、冷めた目で親友を見つめた。


「3ケ月も毎日毎日毎日、通いつめてアプローチかければ、そりゃ当然の成り行きだろ…」


巴は、その答えに納得いかないという顔をしていた。


「当然だろって…あたしがどんだけ毎日毎日苦労したかと…」


「いや、どう見ても楽しそうだったろ…」


「ぐっ!?」


朱音が、巴のどの口が言うかという反論を、一撃で黙らせた。


「しっかし、あの勉強嫌いな巴が、壮一郎さんのためとはいえ、勉強するようになるとはねぇ…」


朱音は、しみじみと呟く。 一緒に勉強の為にカラオケに誘えば、巴は勉強そっちのけでマイクを握り締め、歌い続けるのが常だった。 その巴の変化が、朱音には一番の予想外だった。


「…まぁ、壮一郎が横で勉強ついててくれるからねぇ…サボるにサボれん…」


と、巴は再び憂鬱そうな顔をする。


朱音は、その答えを聞いて、 「壮一郎さんも大変だなぁ…夕食前くらいまで、みっちり勉強見てもらってんのか?」 と、何気なく聞く朱音だったが、


巴は、きょとんとした顔で答えた。


「…いや?風呂入って、一緒に寝る前まで?」


朱音の肩から、カクン、と力が抜けた。


「…おい、それ、いつまで居座ってるんだ…壮一郎さんのお父さんや、巴のお母さんは何も言わんのか…」


年頃の娘が、いくら付き合っているとはいえ、そんな毎日夜遅くまで男の家にいたら、多少は心配するのではないだろうか。 いや、と朱音は考え直す。 壮一郎さんの場合、万が一何かしたらしたで、あの人はきちんと責任を取ってくれそうだ。だから、逆に両親にとっては好都合なのかもしれない。


そんな朱音の心配を他所に、巴はあっけらかんと最大の爆弾を投下した。


「いや、もう一緒に暮らしてるし。厳さんもお母さんも了承済みだよ」


その答えを聞いた朱音は、思わず心の声が口から漏れていた。


「責任取ってくれるから好都合ってか…」



美影高校の校門を出て、学校帰り。 巴と朱音は、珍しく二人きりで並んで帰宅していた。 蒸し暑い午後のアスファルトを、影が二つ並んで伸びる。


「朱音があたしと二人で帰るのって、そういや珍しい気が…」


巴が、隣を歩く親友の顔を不思議そうに見つめる。


実際、ここ3ケ月、朱音は巴以外の友人2名と一緒になって帰ることが多かった。


だが、その原因は言うまでもなく巴にある。


「…いや、お前が学校終わった瞬間、「壮一郎のとこ戻るから~」って、一人で荷物まとめて突っ走るからだろうが…」


「旦那があたしを待っているっ!」


「旦那じゃねぇだろ」


巴の(もはや口癖となった)惚気に、朱音は即座に、そして冷たく突っ込んだ。


「しかし、今日はあの二人は居ないんだね、珍しい」


巴は、いつも朱音と一緒にいる、あの二人組の姿がないことを思い出す。


「バイトだよ。バ・イ・ト」


と、朱音はそっけなく答えた。


「バイトかぁ…あたしもバイトしてみようかなぁ…」


巴は、その単語に何かを閃いたように呟いた。


そんな巴の唐突な発言に、今度は朱音が心底驚いた様子で立ち止まった。


「…はぁ?あんたがバイト?一回もしたことないのに?しかも、この受験前の時期から?」


そう言われた巴は、少し照れくさそうに頬を掻きながら、その理由を説明した。


「いやぁ…こないだの誕生日プレゼントで、高そうなネックレスを壮一郎から貰っちゃったからさ。あたしもなんか、壮一郎の誕生日になんかあげたいなぁ…と」


朱音は、その(あまりにも巴らしからぬ)健気な理由を聞き、呆れながらも感心したように、 「殊勝だねぇ………そだ、それなら、壮一郎さんとこの神社で巫女のバイトとか雇ってるか聞いてみたら?」 と、最適な提案をした。


巴は、その言葉を聞き、 「おぉ!それだ!!」 と、全ての悩みが解決したかのように目を輝かせるのだった。



巴は朱音を連れ立って、壮一郎が仕事をしている社務所に意気揚々と訪れた。 いつものように静かな境内を抜け、事務所の戸を開ける。


巫女のバイトをしたい。 目を輝かせてそう申し出た巴だったが、壮一郎の返事は実に事務的だった。


「もう締め切ってある。夏祭りの分は先月で終わった。次は年越しの時の募集だ」


壮一郎は、パソコンの画面から目を離さず、淡々とそう述べた。


それを聞いた巴は、その場で崩れ落ちた。


「うわぁぁぁぁああああ、遅かったかぁぁぁぁああ」


と、本気で悔しそうに頭を両手で抱え込んで叫んでいる。 それを後ろで、朱音は「まぁ、そうだろうね」と呆れるように眺めていた。


壮一郎は、ようやく顔を上げ、頭を抱え込んだままの巴を見つめた。


「そもそも、バイトしてでも欲しいモノってなんだ?」


壮一郎が巴にそう聞いたが、その隣から朱音が割り込んだ。


「おっ、壮一郎さん、巴が欲しいっていうなら、買ってあげようっていうんですか?」


朱音は、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて壮一郎をからかう。


「…まぁ、物によるかな…」


壮一郎は、その挑発を軽く受け流すように答える。


しかし、巴はゆっくりと顔を上げ、 「欲しいっていうか、あげたいんだよ、壮一郎に…」 と、珍しく照れながら言った。


「…何を?」


壮一郎は、少し驚いて巴に聞いた。 巴は恥ずかしそうに、 「誕生日の時に、プレゼントを…」 と、指をモジモジさせながら答えるのだった。


その健気な理由を知った壮一郎は、思わず表情を緩め、巴の頭を優しく撫でた。


「別に気にしなくていいぞ…」


と、優しく声をかける。


「壮一郎…」


巴は、その手つきにうっとりと壮一郎を見つめる。 そんな二人の(甘い)空気を見て、朱音はわざとらしく咳払いをした。


「そ、そういう雰囲気は二人だけの時にやってください…」


壮一郎は、はっとして手を離し、 「…あ、すまない」 と素直に謝るのだったが、 巴は待ってましたとばかりに壮一郎に抱きつき、 「ぐっへっへっ!!羨ましかろう羨ましかろう!!」 と、朱音に向かってこれ見よがしに自慢げに言うのだった。


壮一郎は、そんな巴を(もう慣れた様子で)抱き返しながら、朱音に向き直った。


「あ、そうだ。桃瀬さん、良かったら、お茶でも飲んでくかい?ついでにこいつに勉強教えてやってくれないか?」


と、実に自然な流れで頼み込むのだった。


朱音は、その誘いにふと考えた。 家まであがって、これから延々と二人のイチャつきを目の前で見せられるというのは、なかなかの苦行だ。 朱音がそう考えていると、巴が壮一郎の腕の中から、唸るような眼つきでこちらを睨んでいるのが見えた。 その眼には明らかに、「あたしたちの時間を邪魔するなよ」という殺気がこもっていた。


朱音は、その巴の反応を見て、意地悪な笑みを思いつくと、にんまりと笑った。


「わかりましたっ!そうしますっ!」


と、満面の笑みで答えるのだった。


壮一郎は、その快諾に、 「よし、じゃぁ居間で待ってて。すぐにお茶とお茶菓子出すよ」 と、愛想の良い笑顔で返す。


一方、巴は、 「・・・・・・・・・・・・・・」 と、まさかの返答に驚愕の顔で朱音を見ていたが、朱音にはそれが心地よかったのだった。



居間にて、テーブルで向かい合うような形で座る、巴と朱音。 テーブルには、教科書が開かれている。


「ほら、巴。今回のテスト範囲ここからここまでだから。って、あんたのノートほとんど真っ白じゃないの…」


と、朱音が早速、巴のノートを見て頭を抱えながら言っている。


巴は「…ぐぬぬぬ…」と唸っていた。


少し遅れて戻ってきた壮一郎は、台所でお茶とお茶菓子を用意して居間に入ってきた。


「はい、どうぞ」


と、冷えた麦茶とお茶菓子を二人の前に出す。


朱音は礼を言いつつ、壮一郎に愚痴をこぼした。


「しかし、壮一郎さん…よく巴に勉強教えられますね…こいつ、ほとんど授業聞いてないですよ…」


「まぁまぁ…今に始まったことじゃないんだろう。きっと」


と、壮一郎は苦笑いをしながら返す。 巴は、二人に責められ、悔しそうな顔をしながら黙っていた。


壮一郎は、そんな二人を見ると、 「そしたら、俺は部屋で仕事の続きしてるから、なんかあったら呼んでね。女子二人で色々話す事あるだろ?」 と、気を遣って席を外そうとする。


朱音はそれに対して、 「別に気を遣わなくていいですよー。いつも学校で話してますし」 と答えたが、巴は、 「えぇぇ、壮一郎はココに居てよぉぉぉ」 と、いつも通り駄々を捏ねるのだった。


壮一郎は、仕方ないな、と苦笑して、 「わかったよ、じゃぁ、俺は巴の勉強見てるから、桃瀬さんは自分の勉強に集中していいからね」 と、声をかけるのだった。



18時すぎ。 壮一郎が、ずっと集中していたパソコンから顔を上げ、壁掛け時計を見て言った。


「そろそろ、夕飯の支度するかな」


と立ち上がった。


巴は、すぐさま「そんなのあたしがするよっ!」と言ったが、 壮一郎は「まぁ、お前はそのまま勉強してろ」と声をかける。


朱音も同じく壁掛け時計を見て、伸びをした。 「こんな時間か…お腹減ったし帰ろうかなぁ」 と呟いたのだった。


壮一郎は、その朱音の言葉に、何げなく声をかけた。


「桃瀬さん、良かったら今日夕飯食べてく?食べてくなら家まで車で送ってくよ?」


朱音は、その申し出に少し悩み、 「そ、そんなの悪いですよ…」 と、一度は遠慮するように答えた。


壮一郎はそれを聞き、 「…そうかい?まぁ、親御さんも心配しちゃうか」 と、あっさり引き下がろうとした。


その姿を見て、ニヤリと(ようやく邪魔者が去る、と)笑う巴の姿が、朱音の目の端に入った。 朱音は、その巴の態度に、意地悪をしたくなった。


「…そんなにお誘いしていただけるなら…ご馳走になってもいいですか?」


と、朱音は、先ほどとは打って変わって、上目遣いで壮一郎に聞いた。


壮一郎は、その返事に人の良い笑顔で、 「勿論。今日は生姜焼きにしようと思ってたんだ、楽しみにしててね」 と笑い、台所に去っていった。


朱音は、それを見送ると、すぐさま親に電話をかけ、夕飯は神代家で食べ、送ってもらう事を伝えたのだった。


巴は、その一部始終を、恨めしそうに見ていた。


「あ・か・ねぇぇぇ」


と、地を這うような声を出すが、朱音は涼しい顔で、 「残念、二人の時間は私が帰ったあとに、楽しむ事ね」 と、まるで勝利宣言のように言った。


巴は、その言葉に、 「…はぁ…そうします…朱音を家に送ったあとは、まーーた勉強して一緒に風呂入って、一緒に寝るか…ふへへ」 と、朱音への当てつけのように、これからの予定を呟き、怪しい笑いをこぼす。


朱音は、その(聞き捨てならない)言葉を聞き、ぎょっとした。


「…まさか毎日一緒にお風呂入って、一緒の部屋で寝てんの?」


巴は、 「そうだけど?」 と、さも当然のように答えた。


朱音は、恐る恐る聞いてみた。


「…それで、なんか起きたりしないの?」


巴は、その質問に、心底残念そうな顔をして、 「あたしからは仕掛けるが、壮一郎から仕掛けてくれないから…先が進まなくて…」 と、悔しそうに答えた。


「…へぇ…あんたが仕掛けても、壮一郎さんはいつも通り躱す感じ?…でも、壮一郎さんも男だよね?」


朱音は、不思議そうに聞いた。 壮一郎も一応、健康な男ではある。巴に本気で仕掛けられて、はいそうですか、と毎回流すものだろうか。


そんな朱音の疑問に、巴は残念そうに答えた。


「いや…あたしから仕掛たら、それなりに返しはあるんだけど…あたし、攻められるの慣れてなくてね…」


それを聞いた朱音は、 「…いや、ヘタレか…」 と、心底呆れるように言うのだった。



壮一郎の作った生姜焼きを食べ終え、3人での久々の夕食後。 朱音は、壮一郎の車に乗せられて、家まで送られていた。助手席には巴が座っている。


「今日は夕食までごちそうになって、送っていただけるなんて、ありがとうございます。壮一郎さん」


と、朱音は後部座席から礼儀正しくお礼を言う。


壮一郎は、バックミラー越しに朱音を見て、 「俺も久々に桃瀬さんと話せて楽しかったよ」 と、気さくに答えた。


「じゃぁ、巴も帰ったら勉強頑張ってね」


と、朱音は、元凶である巴にも声をかける。


「んがぁぁぁぁああああ…ハイ…頑張ります」


と、巴は諦めた様子で助手席から答えた。


それを面白そうに見ていた朱音は、車から降りると、巴の肩を叩き、耳打ちした。


「巴くん…時に人間は獣になることも大事だと、私は思う」


それを聞いた巴は、朱音が言わんとすることを察し、 「…朱音っ!」 と言って、車から降りて、朱音を力強く抱きしめた。


壮一郎は、その(何やら不穏な)二人を、運転席から苦笑しつつ見ながら、 「…いや、聞こえてるからね…」 と、ツッコミを入れた。


巴は、その声に顔を赤くしながら、慌てて朱音を離した。


対して朱音は、壮一郎に向かって自慢げに、 「では…健闘を祈るっ!」 と言って、意気揚々と自宅に入っていくのだった。


「…桃瀬さんもテンション高いなぁ…ほら、帰るぞ巴」


と、助手席に戻った巴の肩を叩く壮一郎。


巴は、親友からの激励を受け、覚悟を決めたように言った。


「…壮一郎…あたしは今日は獣に…」


「ならんでいい」


と、壮一郎は即座にツッコミを入れるのだった。

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