11話
三者面談から数日経った、ある朝の事。 神代家の居間では、壮一郎と父の厳、そして…なぜか巴の三人が、当然のように食卓を共にしていた。 食卓には、完璧な焼き魚と卵焼き、湯気の立つ味噌汁が並んでいる。
なぜ巴が、毎朝当然のように壮一郎と厳の家の食卓に座り、甲斐甲斐しく朝食の準備までしているのかというと…。
話は、あの異例の三者面談の翌日の朝に遡る。
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壮一郎はいつも通りの時間に起き、厳の分と一緒に簡単な朝食を作ろうと、寝巻のまま洗顔などを済ませ、台所に行ったときだった。
トントン、という小気味よい包丁の音と、魚を焼く良い匂いが台所から漂ってくる。 壮一郎は、厳が珍しく早起きして、朝食を作っているのかと思った。 朝はトーストとコーヒーで済ませることが多い父が、朝から和食を作るなど、一体どういう風の吹き回しか。
そう思い、壮一郎は台所の引き戸を開けた。
「おはよう、珍しいな、とう…」
言いかけた言葉は、途中で止まった。 そこには、厳ではなく、神代家のエプロンをつけた巴が台所に立ち、慣れた手つきで朝食の準備をしていた。
「…おはよー、壮一郎~」
振り返った巴は、少し眠そうに目をこすりながら笑った。 それもそのはずだ。
壮一郎の家である神代神社と、巴の家である月城家は、お隣さんとは言え、長い参道の向こう側。 歩けば10分は掛かる距離だ。
一体全体、何時に起きて、あの暗い参道を歩いてこの家に着き、準備をしているのか。
「巴…お前………何時に起きて、うちに来たんだ…?」
壮一郎は、その熱意(というより執念)に若干引きつつも、純粋な心配を口にした。
「…ぐっへっへ…4時半起き…」
巴は、眠い目を輝かせて、なぜか誇らしげにピースサインをした。
「…お前な………昨日も俺んとこに20時まで居たろ…ちゃんと寝てんのか…?」
「…5時間くらい…?」
巴は、指折りで睡眠時間を数えた。
「お前、それ…高校生が毎日続けて大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫」
そう言って、巴は屈託なく笑う。 その笑顔は、壮一郎のために何かをすること自体が、彼女の活力になっていると物語っていた。
「とりあえず、今日だけにしろよ。毎日来られたら、こっちの気が休まらない」
壮一郎は、その無茶を本気で心配し、止めたが、 「えぇぇ~?」 と、巴は不満そうに口を尖らせ、聞き入れようとしなかったのだ。
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そして現在。 その攻防の結果、壮一郎の心配をよそに、巴が「お父さん(厳)も朝ごはんちゃんと食べないとダメでしょ!」と父親を味方につけたことで、今こうして三人で食卓を囲んでいるというわけだ。 案の定、巴はあの日から毎朝4時半に起きて、この神代家に「通って」きていた。
少し眠そうな巴と、そんな彼女の健康状態を(今更何を言っても無駄だと諦めつつも)心配そうに見やる壮一郎。
その二人の、まるで新婚夫婦とその父親のような奇妙な空気感を見て、厳はお茶を一口啜ると、不意に口を開いた。
「壮一郎…実は話があるんだ」
「ん?どうしたんだ?父さん」
壮一郎は、魚の骨を箸で取り除きながら、何気なく聞き返す。
厳は、少し悩んだ顔をして、しかし決然と言った。
「ちょっと最近、仕事が忙しくてな、父さん、別宅を使おうと思うんだ。そっちの方が取引先とも近いし」
「…はい?」
壮一郎は、その突拍子もない言葉に、思わず生返事をしてしまった。
「…そういうわけだから、この母屋は、お前が使いなさい」
厳は、淡々とそう告げる。
壮一郎は、さすがに混乱した。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。神代の当主は父さんだろ?なんで、父さんが別宅を使うのさ?そりゃぁ、あっちのほうが新しいだろうけど、この母屋には思い入れがあるだろう?別宅を使うなら、むしろ俺のほうが…」
厳は、その息子の反論を、静かに遮った。
「壮一郎。巴の家から一番近いのはここだ。それとも巴を連れて、別宅に行くか?…それはさすがに、卒業前の娘さんを連れまわすようで世間体がまずいだろう」
「ぐっ…」
壮一郎は、巴をダシに使われ、言葉に詰まる。
巴は、その会話の意味を半分も理解せず、呑気に味噌汁を飲みながら答えた。
「あたしは、壮一郎がいるならどこでもいいよ~?」
壮一郎は、その火に油を注ぐ呑気な巴を見て、こめかみを押さえた。
「お前…若い男女が二人で同じ屋根の下に暮らすって意味を、世間様がどう捉えるのかを考えろ…」
巴は、その言葉の意味をようやく理解し、少し考え、 「…っ!?」 と、自分が置かれようとしている状況の重大さ(あるいは、望んでいた状況)に気付いたのか、少し顔を赤らめた。
厳は、そんな二人を見て、満足そうに頷いた。
「だから、私が別宅に行くのだ。それにな…その…私がいると、色々と都合が悪いんじゃないか?…壮一郎」
厳は、ニヤリと意味深な笑みを息子に向けた。
「俺かっ!?俺に振んのか!?」
壮一郎は、父親からのあまりにもあからさまな、夜の事情への配慮に、思わず焦って叫んだ。
そんな壮一郎を見て、厳は「あとは若い者で」とでも言いたげに、食卓から立ち上がった。
「…じゃぁ、そういう事だ。あとは任せたぞ。巴」
厳は、壮一郎ではなく、巴に向かってそう言い残した。 巴は、その重大な任務を託された言葉に、ビシっと箸を持ったまま敬礼を決めてみせた。
「わかりました!お父様!安心してください!ご子息はあたしがしっかり男にしてみせますぜ、ぐっへっへっへ」
そう言い、巴は今までで一番、何かを企むような悪い顔をして見せた。
「…巴…お前ド直球すぎるよ…」
そう言い、壮一郎は、もはや自分の味方はどこにもいないと悟り、ますます頭を抱えるのだった。
*
朝食の片づけを終え、神社の駐車場まで厳を見送る壮一郎と巴。
厳は、まるでこの日を待っていたかのように、母屋の管理を壮一郎と巴に最初から任せるつもりだったのか、デカデカとした長期滞在用のトランクケースを、厳専用のセダンに悠々と押し込めた。
「ホントに行くのかよ、父さん…」
その大袈裟な荷物を見て、壮一郎はまだ現実を受け入れきれない様子でそう言う。
「ハハハ、何を言うんだ、壮一郎。子供じゃあるまいし。それに車で20分程度の距離の別宅を使うんだ。会おうと思えば、すぐに会えるし、仕事の連絡は今まで通りスマホとパソコンがあれば十分だろう」
厳は、そんな息子の未練がましい言葉を、豪快な笑い声で一蹴する。
壮一郎は、父のその呑気な返答に、少し半眼になって本音を漏らした。物理的な距離の話ではない。
「いや、そういう事じゃなくて…父さんがいなくなったら、巴の天下に…」
壮一郎が危惧した通り、その横にいた巴は、壮一郎の顔を嬉々として見上げ、ニヤリと勝利の笑みを浮かべた。
「…巴も共犯?」
壮一郎はその表情を見て、まさか父と示し合わせていたのかと、巴を睨む。
「…いや、流石にそれは無い」
しかし、巴は、そこに関しては珍しく真顔で即座に返した。
壮一郎は、その真剣な否定に少し安心した顔で、しかしすぐに意地の悪い笑みを浮かべた。
「まぁ、そうだよな…流石に父さん相手に「お父さん、今から子供作るんで席外してくれませんか?」とか言わんわな…」
壮一郎は、巴が今朝「男にしてみせる」と言ったことを、わざと掘り返すように口に出した。
そう言われた巴は、父親の前でその話題を振られ、流石に恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして慌てふためく。
「わ、わぁぁぁ、やめてやめて!壮一郎!!普段からあたしがそんな事言ってるみたいじゃないか!?」
「…さっき言ってなかったか…?」
壮一郎は、涼しい顔で事実を突きつける。
巴は、助けを求めるように厳の方を向き、違うんです、これは勝手に壮一郎が言ってるだけです、と訴えたそうな顔をしたが…
「巴…くん…ま、頑張り給えっ」
厳は、その全てのやり取りを悟ったように、実に爽やかな、しかし息子の味方をする気ゼロの笑顔で、巴にそう告げるのだった。
父親からのまさかの激励を受け、巴はその場で膝から崩れ落ち、 「…わぁぁぁぁ、この親子やだぁぁぁぁぁああ」 と叫ぶのだった。
厳は、そんな茶番を繰り広げる二人、特に呆れるように巴を見ている壮一郎に向き直ると、 「ま…壮一郎、あとは任せたよ」 そう言い、壮一郎の肩に「しっかりやれ」とでも言うように手をポンと叩いたあと、運転席に乗り込み、別宅方面へと軽やかに車で去っていったのだ。
厳の乗った車が角を曲がり、完全に見えなくなり、神社の駐車場には静けさが戻ってきた。 壮一郎は、その車の去っていった方向をしばらく眺めていたが、やがて横で未だに膝から崩れ落ちている巴に声をかけた。
「ほら、巴もそろそろ学校に行く時間だろ?」
そう聞かれた巴は、現実に引き戻されたように「はぁ…」と深いため息をつき、 「…そうでした…」 と、名残惜しそうに、渋々立ち上がった。
壮一郎は、制服の埃を払う巴を見て、ふと思い出す。
「…そいや、お前、今日誕生日だよな?」
巴に声をかける。
「そだよ」
巴は、その言葉にぱっと顔を輝かせた。
「ってことは、桃瀬さん達と誕生日パーティー開くんだろ?」
壮一郎は、ごく自然なこととしてそう尋ねた。 高校生最後の誕生日だ。当然、朱音をはじめとした友人たちと盛大に祝うのだろう。 そうであれば、今日は巴も早く帰るはずだ。壮一郎は、父もいなくなった今日、久々に静かな夜が過ごせるものとばかり思っていた。
しかし、巴はきょとんとした顔で、当たり前のように言った。
「え?いや、普通に壮一郎のとこに戻ってくるけど?」
壮一郎は、その予想外の返答に思わず聞き返す。
「なんでだよ…高校生最後の思い出だぞ?」
そう言うが、巴は「何を言ってるんだ」とでも言いたげに、 「高校生最後の思い出だから、壮一郎と過ごすんだよ?」 と、本当に当たり前のように言い切った。
壮一郎は、その真っ直ぐすぎる言葉に、少し戸惑いながらも諭すように言った。
「いや、ホントにそれでいいのか?俺とは来年も一緒にいるんだろう?桃瀬さん達は来年、ここにいるか、わからんぞ」
巴は、その壮一郎の朱音を気遣う言葉を聞き、一瞬何か言いたそうな顔をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻り、 「流石に、今日はあたしもこれ以上は言いたくないから教えないっ」 そう言いながら、壮一郎の胸に「えいっ」と抱きついた。
「…お前…」
壮一郎は、その巴の何かを誤魔化すような行動に、久々に真意を測りかねる事ができず、困惑しながらも、その背中に手を回し、優しく頭を撫でた。
「ぐっへっへ…じゃあ、行ってくるね」
壮一郎の体温を十分に補充して満足したのか、巴はすぐに壮一郎から離れると、機嫌よく学校に向かうのだった。 その小さな背中を、壮一郎は見えなくなるまで、ずっと見送っていた。
*
昼前、壮一郎は一人、車で隣町のアクセサリー店に私服で来ていた。 12時前で、平日の店内は閑散としていた。
壮一郎は店内のショーケースに並ぶネックレスをじっと見ていた。 一応、神社の仕事の連絡はメールでのやり取りが主だから、こうして短時間抜け出すことはできなくもない。 それでも早く戻らなければ、という軽い罪悪感に苛まれながら、壮一郎は巴に似合いそうなネックレスを探していた。
やがて、小ぶりだが上品な、小さな宝石がついたネックレスが目に止まった。
「あの、すいません。これください」
ラッピングを待つ間もどこか落ち着かず、購入を済ませると、壮一郎はすぐさまアクセサリー店を出た。
(やれやれ、巴のやつ…)
壮一郎は車のハンドルを握りながら、今朝の出来事を思い返していた。 4月から今日までの約3ケ月。 巴が壮一郎に会いに来なかった日は、雨の日も風の日も、ただの一度もない。 それどころか、誕生日という年に一度しかない、高校生最後のイベントでさえ、友人たちとではなく、自分と一緒に居るのを望む。
壮一郎は、その重すぎるほどの好意を改めて噛み締め、小さく息を吐いた。 彼はそのまま足早に、駐車場の近くにあるケーキ屋へ向かい、巴の好きな苺のホールケーキも購入して神社への帰路についた。
*
16時過ぎ。
壮一郎は社務所で、昼間に中断していた事務仕事の続きを片付けていた。 ふと壁掛けの時計を見た壮一郎は、カチカチと進む秒針の音を聞きながら眉をひそめる。
(遅いな、巴のやつ…)
普段なら、もうとっくに学校から戻ってきている時間だ。 壮一郎は、その一瞬考えた内容の中の「戻ってきてる」というごく自然な単語に、自分で反応した。
(はぁ…なんだか、俺も巴が横にいるのが当たり前だと思ってる自分がいるな…)
巴のあの猛烈な好意とアピールによって、自分もすっかり感化されてきている。 壮一郎は、そんな自分に苦笑しながら、休憩がてら棚からインスタントコーヒーを出して淹れ始めた。
出来たコーヒーを一口飲んでいると、なにやら社務所の外、参道の方で騒がしい声が聞こえる。
(参拝客にしては、随分と騒がしいな…)
そう思い、壮一郎は社務所の玄関から外に出る。 そこに居たのは、
「だぁぁぁぁああああ、帰れ帰れお前らっ!」
鳥居の方に向かって、機嫌の悪そうな顔で友人たちを追い払おうとしている巴と、
「えーーー、なんでよぉ。あんたの誕生日祝ってやるって言ってんのにー」
と、その巴の反応を面白そうにからかう朱音、そしてその友人たちと思わしき女子生徒が2名だった。
「そうだよー、巴~、あたしたちも祝いたーい」 「ついでに、どんな彼氏なのか見てみたーい」
巴は、神社に上がり込もうとする友人たちを必死に押しとどめようと、参道を塞ぐように立ちながら怒っていた。
「彼氏じゃねぇぇぇえええ、旦那だぁぁぁぁぁあああ」
そんな巴の(もはやお馴染みとなった)叫びを見て、朱音は冷静に、 「いや、まだ結婚してないし、そもそも付き合ってもないだろお前ら…」 と思わず突っ込む。
その朱音の言葉に、他の友人たちが反応し、 「そういちろぉ!」 「ともえっ!」 と、大げさなジェスチャーで、女同士で抱き合う真似を始めた。
どうやら、先日の三者面談の日に、廊下で巴が壮一郎に抱きついていた場面が、友人たちに見られていたようだ。 その様子を建物の陰から遠く見て、壮一郎は思わず吹き出した。
しかし、巴は、 「やめろっ!お前らぁぁぁぁ!!!」 と、その真似をされ、恥ずかしさからか、割とガチ目に怒っている様子だ。 その本気で怒っている顔つきを見て、壮一郎は昔の巴を思い出して、少し懐かしく感じていた。
そんな巴の様子を見て、友人たちはさらに面白がる。
「ねー、いいじゃーん、ちょっとくらいー、巴の好きな人がどんな人か知りたい~」 「紹介して紹介して~」
朱音は、友人たちが味方についてくれたことで、勝ち誇った顔をして巴に向き直る。
「…フッ、巴、多数決で決まりだっ」
と、どこかで見たような、わざとらしい決め顔をしてみせた。
(どうやら、たまに出る巴のあの決め顔は、朱音から来てるようだな…) 壮一郎は、その(女子高生らしい)微笑ましい攻防を、呑気にその様子を見つめていた。
しかし、どうやら巴は本気で怒ったようだった。 彼女の表情から、いつものからかいの笑みが消え、低い、本気の怒りの声が漏れる。
「お前ら…あたしのモノに手を出したら、タダじゃ済まさんぞ…」
そのただならぬ雰囲気の変化に、朱音は 「…おっと、これは…」 と、久々に本気で怒ってる巴を見て、さすがにやりすぎた、という顔をしていた。
しかし、後ろの友人たちは、その機微を察せなかったようだ。
「流石に、引くわぁ…」 「うわぁ…ご執心でございますねぇ…」 と、本気になった巴を、逆に面白がるでもなく、呆れた様子で見ている。
その一触即発の様子を見た壮一郎は、社務所の玄関先で、やれやれ、と言った様子でため息をついた。
「お前は何を怒ってんだ…」
そう言いながら、怒りに震える巴の身体を、背後から不意打ちで優しく抱きしめた。
急に背後から壮一郎の腕に包まれた巴は、ビクッと体を硬直させ、ゆっくりと顔だけを振り返るように壮一郎を見上げた。
「…うっ」
その表情は、怒りと、友人たちの前で抱きしめられた恥ずかしさとが入り混じった、実に気まずそうなものだった。
そんなことは壮一郎は一切無視して、巴を抱きしめたまま、朱音たち友人一同に、実に人の良い、完璧な笑顔を見せた。
「こんにちは、桃瀬さん。それにお二人も。巴の誕生日祝いに来てくれたんだろ。ありがとうね」
そして、その優しい声色のまま、腕の中の巴を見下ろす。
「巴も何怒ってんだ、せっかく友人が祝ってくれてるって言ってんのに」
と、抱き寄せたまま、空いている手で巴の頭をわしわしと子供をあやすように撫でた。
巴は、友人たちの目の前で、これ以上ないほど甘やかされる状況に耐えられなかった。
「ぐぁぁぁあああ、恥ずかしい恥ずかしいっ!!」
と、壮一郎の腕の中で必死にもがき、振り払おうとしたが、
「今更、照れんな巴」
壮一郎は、からかい半分で、しかしガッチリと巴を離さなかった。
朱音は、その(自分たちには目もくれず繰り広げられる)イチャつきっぷりを見て、もう限界だとばかりに、 「…うわぁ………帰ろっか、二人とも」 と、友人二人を窘めた。
しかし、友人二人はまだ状況をわかっておらず、 「えー、もう帰んの?」 「せっかく、噂の彼氏に会えたのにぃ?」 と、その場の状況を楽しんでいるのか、口を尖らせていた。
だが、朱音は、もうこりごりだとばかりに、 「…なら、私は帰るけど、いいの?あの二人のじゃれ合いを近くで、 ずーーーーーーーーっと見せつけられるのよ?」 と、この先に予想できそうな事を遠慮なく言い放った。
巴は、いまだに壮一郎に後ろから拘束されていたが、その朱音の言葉に必死で反論した。
「ず、ずーーっとじゃないっ!!陰に隠れて、こそこそするだけだから!!」
その盛大な自爆が、参道に響き渡る。 友人二人は、その言葉の意味するところを想像し、
「・・・・・・」 「・・・・・・」
完全に沈黙し、固まった。
朱音は、顔を真っ赤にして叫んだ。
「余計にやらしいわっ!!」
そう言い、朱音は恥ずかしさのあまり、固まっている友人二人を無理やり引きずるようにして、猛ダッシュで去っていくのだった。




