10話
6月の中旬が過ぎたあたり。 それは、壮一郎が巴を連れて、服を買いに行ってから数日たったある日の昼過ぎだった。
壮一郎は、社務所で夏祭りの準備作業を続けていた。 御朱印のデザイン案、縁起物の発注リスト、氏子への案内状…。地道だが重要な事務作業だ。 静かな境内に、キーボードのタイプ音だけが響く。
その静寂を破るように、壮一郎のスマホがテーブルの上で震えた。
「…弥生おばさん?」
仕事関係の電話かと思ったが、通知画面に出ていたのは、意外にも巴の母、弥生からだった。
「はい、壮一郎です」
「こんにちは、壮一郎くん。こないだは、ありがとうね!巴すごく喜んでたわよ」
電話口からは、弾むような弥生の声が聞こえる。 どうやら、先日(巴の誕生日には少し早めに)あげたプレゼントのお礼のようだ。
悪ノリであげた犬耳カチューシャに関しては… (「こ、こ、これは壮一郎と二人っきりの時に付けるからっ!」) 誰かに見られるのが余程恥ずかしいのか、そう言って巴は壮一郎の自室のクローゼットの奥に、宝物のように隠している。
壮一郎は、その攻防を思い出しながら、苦笑して答えた。
「いえいえ、それなら、良かったです」
「あ、そうだ。今日はそれ以外に、またちょっとお願いがあってね…」
「…なんでしょう?」
「実はね…」
*
翌日。 壮一郎は、母校である美影高校に、私服の上に(一応の礼儀として)ジャケットを羽織って訪ねていた。
懐かしい校舎だが、今日は雰囲気が違う。 昇降口や廊下では、生徒達に交じって、明らかに場違いな大人たち、保護者の姿をちらほら見かける。 その理由は…
(なぜ俺が巴の三者面談に保護者として行かないといけないんだ…)
壮一郎は、浮かない足取りで、巴のいる3年生のフロアへと向かっていた。
聞けば、父である譲は、急な仕事でどうしても都合がつかない。母である弥生も、今日はどうしても抜けられない親戚付き合いの用事がある。 とのことで、
(「壮一郎くんなら、婚約者なんだし、保護者みたいなものでしょ?」)
と、弥生に(事実上の)業務命令として、父兄代理として三者面談に行ってきて欲しい、と頼まれたのだった。 あの電話口の明るさで、断れるはずもなかった。
浮かない足取りで、見慣れない3年生の校舎に入る壮一郎。 階段まで向かう道のりの廊下で、前方から見慣れた顔が歩いてきた。
「あれ?壮一郎さん?」
巴の親友、桃瀬朱音だった。
「やぁ、桃瀬さん。こんにちは」
壮一郎は、軽く会釈をする。 朱音は、なぜ壮一郎がこんな場所(しかも平日の日中)にいるのか、不思議そうな顔をしていた。
「どうして、壮一郎さんが学校へ??」
壮一郎は、その質問に、気まずそうに頬を掻きながら答えた。
「いや、弥生おばさんから、巴の代わりに三者面談に出てくれって言われて…」
朱音は、その言葉を聞いた瞬間、全てを察した顔で、ハッと息を呑んだ。
「あ…あー…巴のやつ、いつも赤点ばっか取るから…」
壮一郎は、巴が以前言っていた「連続3回赤点は不味いかな?」との言葉を思い出す。
「なる…ほど…」
恐らく、巴の両親は、親として学校に行くと、教師に「お宅の娘さん、このままだと進学はおろか、就職もままなりませんよ」と厳しい現実を指摘されるのが嫌で、その矢面に(どうせ将来の旦那だからと)壮一郎を立てたのだろう…
朱音は、そんな(哀れな)壮一郎を見て、同情するどころか、なぜかフッと笑った。
「…ま、でも仕方ないですね」
「えぇ!?」
なぜ、この状況が「仕方ない」のか。 婚約者だからだろうか?でも、流石に学校の生徒たちにまで、そんな古い情報が広まっているとも思えない…
理解できない、といった顔をしてる壮一郎を見て、朱音は呆れたように続けた。
「巴から聞いてますよ。…そりゃもう毎日毎日、学校で壮一郎さんの話を…」
「ど、どんな内容を…?」
壮一郎は、自分の知らないところで、巴が何を吹聴しているのか、嫌な予感がして身じろいだ。
朱音は、周囲に他の保護者がいないことを確認し、声を潜めて、しかしはっきりと告げた。
「…中間テストの勉強の面倒見た時に、一緒にお風呂に何度も入ったって…」
壮一郎の顔から、サッと血の気が引いた。顔面蒼白になる。
「っ!?」
「それに、巴の裸を、壮一郎さんが満足げに見てたって…」
「ち、違う違う。巴の身体は見てないっ!あいつの顔を見てただけだ!それに何もしてないぞっ!!」
壮一郎は、慌てて弁明した。
しかし、朱音は真剣な、冷ややかな目で壮一郎の顔を見た。
「そうでしょうね…そうでしょうけど…世間はそれを信じると思いますか?」
壮一郎が、この田舎町で一番気にしてた事を、朱音は容赦なく言った。
「…信じるわけないよな…」
壮一郎は、がっくりと肩を落とす。
朱音は、さらに畳みかけるように、まくし立てた。
「わかってるなら、早く巴と正式に交際して、さっさと結婚してください。巴のあんな成績じゃ、壮一郎さんが貰ってくれないと、あいつの将来ないんですよ」
壮一郎は、その(ある意味、巴の両親よりも手厳しい)正論に、朱音を宥めようと必死になった。
「わかってる、わかってるから…!ちゃんと巴が卒業後には、付き合うから…!」
それを聞いた朱音は、ようやく少し落ち着いた様子で、 「…なら良いです」 と、ポツリと呟いた。 その目は、まるで娘の将来を案じる母親のようだった。
まさにその、朱音の背後から、緊迫した空気を打ち破る声がした。
「そ、壮一郎っ!?」
朱音の後ろに現れたのは、目を丸くして固まっている巴だった。 なぜ壮一郎が、自分の学校の、三者面談の日に、ここにいるのか。その驚きが顔全体に浮かんでいる。
しかし、その驚きの顔も束の間。 状況がどうであれ、愛する壮一郎が目の前にいるという事実が、彼女の思考を塗りつぶした。 巴は、次の瞬間、満面の笑みで壮一郎の胸に飛び込んでいった。
「壮一郎っ」
と、嬉しそうな、甘えた声を上げながら。
壮一郎は、もはや日課のように体勢を崩すことなく反射的に抱きとめる。
そして、学校の廊下という公衆の面前であるにも関わらず、巴はとんでもないことを言い放つ。
「ぁぁああ、壮一郎の匂いがするっ」
壮一郎の胸に顔を犬のようにこすり付ける巴。 その光景を目の当たりにした朱音は、さすがに呆れ果ててこめかみをピクピクさせている。
「あ、あんた…人目も憚らず、んなことして恥はないのか、恥は…?」
そんな朱音のツッコミを、巴は壮一郎の胸に顔を埋めたまま、ちらりと見上げてニヤリと笑った。
「…ぐっふっふ…羨ましかろう?これが旦那という奴だ」
朱音は、もはや何を言っても無駄だと、心の底から醒めた目で言った。
「人前で、そんな事する嫁も普通はいねぇよ…」
(ああ、これが普段の学校での巴と朱音のやり取りなんだろうな…)
壮一郎は、二人のテンポの良い口喧嘩を他人事のように聞きながら、もはやいつもの癖で、自分の胸にじゃれつく巴の頭を優しく撫でていた。
「…ぐへ、ぐへへ…」
その手つきに、巴はますます嬉しそうに、喉を鳴らすように奇妙な笑い声をあげる。 それを見た朱音は、ついに我慢の限界といった様子で吐き捨てた。
「犬かお前は………」
「飼い主め…」
最後の「飼い主め」という言葉は、明らかに、巴を甘やかす壮一郎への言葉であり、ボソッと、しかしはっきりと呟かれた。
「じゃぁ、私、友達待たせてるんで行きますけど、壮一郎さん、ちゃんと約束守ってくださいね?」
朱音は、これ以上この痴話喧嘩に付き合っていられないと、自分の用事を思い出す。 壮一郎は、その「約束」という言葉の重みを噛み締めながら、
「…大丈夫だ」
と、朱音の目を真っ直ぐ見て答えた。 それは、巴の将来に対する、彼の決意の意思表示でもあった。
一方、巴は、壮一郎と朱音の間で交わされた「約束」が何のことかもわからず、ただ自分を置いていこうとする親友に、
「あぁ、あたしも朱音の友達だろぉ!なんで置いてくんだぁぁぁぁあああ」
と、壮一郎に抱き着いたまま廊下に響く大声で叫んだ。
それを聞いた朱音は、振り返りざまに、
「黙れ、この裏切り者がっ!!」
と、これまた大声で叫んで、今度こそ走り去っていった…
嵐のように去っていった親友の背中を見送り、そんな様子をみた壮一郎は、
「桃瀬さんと何かあったのか?」
と、いまだに自分に抱き着いて離れない巴の頭頂部を見下ろしながら、素朴な疑問として質問した。
「ん-………朱音、彼氏いないからなぁ…」
そう言いながら、巴は朱音が走り去っていった廊下を見つめた。
壮一郎はそんな巴の様子を見て、(あぁ…普段からこんな感じなのね…)と、二人の関係を察した。
朱音は確かに真摯に巴の将来を心配もしていた。 だが同時に、自分にはいない彼氏に溺愛され、将来を案じる必要すらないように見える巴に、嫉妬もしていたのだった…
*
巴の教室。 放課後の静かな空気の中、教卓を挟んで、巴は壮一郎の隣に(やけに嬉しそうに)座り、向かいには担当の教員と思われる、人の良さそうな中年の女性教師が困惑した表情で座っていた。
「…あの、月城さん…三者面談には、普通は親御さんを連れてくるんだけど…」
教師は、目の前の(どう見ても生徒の兄か、良くて大学生にしか見えない)壮一郎をいぶかしみ、まず巴に説明を求めた。
壮一郎は、巴が何かを言う前に、慌ててジャケットの襟を正し、保護者代理として説明した。
「あ、すいません。月城さんの親御さんは今日、急用で忙しいみたいで、代理で私が…」
その言葉に、教師はさらに疑問を深めた。
「月城さんの親御さんの…代理?失礼ですが、月城さんのお兄さんではないんですか?」
「あ、いや、私は…」
どう説明したものか。 壮一郎は、言葉に詰まった。 今朝、ここに来る前に、巴が学校で余計なことを吹聴するのを恐れ、「いいか、絶対に俺のことを旦那だとか、彼氏だとか、婚約者とか、そういう紹介はするなよ」と、巴が言いそうな事は全部先に釘を刺して潰してあった。 だが、その結果、自分が何者なのかを説明する言葉を失っていた。
その、壮一郎の逡巡を破ったのは、隣の巴だった。
「あたしのご主人様ですっ!!」
教室に、巴の元気な声が響き渡る。 壮一郎は、そのとんでもない紹介の言葉を聞き、横で頭を抱えた。
「ご、ど、どど、どういう関係ですか?」
教師は、その未知の単語に盛大に引きながら、必死に理解を求めてきた。
壮一郎は、もはや取り繕うことも忘れ、隣の巴を睨みつけた。
「巴…お前…」
(なんつー紹介だ!)と、その視線が雄弁に語る。
巴は、その壮一郎の非難の視線を受け、気まずそうにプイッと顔を背け、教室の隅を見ながら、不器用に口笛を吹き始めた。
壮一郎は、その態度に、諦めたように深く息を吐くと、教師に向き直った。
「…すいません。私は、巴の婚約者で、今日は親御さんに頼まれて、保護者代理としてこちらに来ました…」
彼は、もはや隠し通すのは無理だと判断し、正直にそう伝えたのだった。
教師は、その(あまりにも非現実的な)「婚約者」という言葉を、なんとか状況を吞み込もうと数回反芻しているようだった。
「そ、そうですか…婚約者の方ですか…まさか、月城さんにそのような方がいらっしゃるとは…」
教師は、巴の、学生らしからぬ事情を、プロとして無理やり納得したようだった。
そして、教師は咳払いを一つすると、なんとか普段通りの三者面談の軌道に戻そうと、本題である巴の成績表を机に広げた。
「これが、月城さんの成績表です」
壮一郎は、その紙を覗き込む。 そこには、巴の成績が一目でわかる評価が並んでいたが、芸術科目以外、そのほとんどが「E」か、それ以下の「E−」の評価ばかりだった。 壮一郎の知る「赤点スレスレ」を遥かに下回る、壊滅的な結果だ。
教師は、その絶望的な成績表を前に、もはや感情を込めることも諦めた様子で、淡々と事実を続けた。
「…残念ですが、この成績だと、留年という概念がない我が校は卒業できても、当面、進学や就職などは非常に厳しいと言わざるを得ません…」
壮一郎は、その分かりきっていた通告を聞き、隣に座る巴の顔を見た。
「…うっ…」
巴は、さすがに自分の成績の悪さを公の場で指摘され、気まずそうな顔をして視線を泳がせていた。
壮一郎は、そのどうしようもない現実を前に、深く一つ溜息を漏らしたが、すぐに教師に向き直り、きっぱりと言い放った。
「はぁ…まぁ、大丈夫です。卒業後の彼女の面倒は私が見ますので…」
「壮一郎っ!!」
その力強い宣言に、巴は気まずそうにしていた顔を一変させ、感激したように壮一郎の顔を見つめた。
しかし、教師はその若すぎる婚約者の発言を、鵜呑みにするわけにはいかなかった。 教師は、壮一郎を値踏みするように、怪しみながら質問した。
「その…壮一郎さんでしたか………失礼ですが、どのようなご職業を?…食べさせていくのは言うほど簡単ではありませんよ?巴さんもそれはわかってらっしゃるのかしら?」
その視線は、巴が素性の知れない悪い男に騙されているのではないか、という生徒を案じる疑問が秘められたものだった。
しかし、巴は教師のその心配を遮るように、胸を張って割り込んだ。
「大丈夫ですっ!!壮一郎なんでっ!」
巴は、何の根拠もなく、ただ「壮一郎だから」という理由だけで、全幅の信頼を示していたが、教師の疑念は晴れない。
「それで、どうなんです?壮一郎さん」
教師は、巴ではなく、飽くまでも壮一郎本人に説明を求めた。
「一応、家業を継いでまして…数年後には神主として自立する予定です…」
壮一郎は、慌てるでもなく、落ち着いた様子でそう言うと、ジャケットの内ポケットから自身の名刺入れを取り出し、一枚の名刺を教師に差し出した。
教師はそれを受け取り、そこに書かれた文字を見て…
「………っ!?神代!?」
その名刺を見て、顔色を変え、驚愕していた。 名刺には「神代神社 権禰宜 神代壮一郎」と、美しい毛筆体で書かれていた。
※権禰宜(平社員)→禰宜(責任者補佐)→宮司(責任者(厳がこれにあたる))
「の、今はまだ権禰宜ですが…」
壮一郎は、教師の反応にも動じず、謙遜の意を込めて静かに答えた。
教師は、信じられないといった様子で、恐る恐る聞いた。
「…神代って、あの美影町の神代様ですか…?」
壮一郎は、営業用の人懐こい笑みを浮かべて答えた。
「はい、名刺通りです。ご用向きがあれば、お電話いただければご祈祷にも伺いますよ?」
教師は、その言葉を聞いて、ようやく全てを納得したようだった。
「…なるほど…確かに神代家の方なら、巴さん一人食べさせるのは特に問題ないでしょうね…」
むしろ、お釣りが来すぎるほどだ。教師の顔にはそう書いてあった。
巴は、その教師のあまりにも現金な態度の変化と、「神代家」という言葉の響きに、一人だけ状況が飲み込めず、きょとんとしていた。
「…え?壮一郎の家って、結構凄かったりするの…?古い神社を継いだ、とかじゃなくて?」
壮一郎は、そんな巴のあまりにも世間知らずな答えを聞いて、呆れつつも、どこか安心したように言った。
「…うん、お前が財産目当ての女じゃないってことは知ってたけど、せめて、町の歴史書くらい見ようよ…」
「歴史…書?」
巴が首を傾げると、見かねた教師が、今度は巴に向かって呆れたような顔で教えた。
「…巴さん…貴女ね…この町で神代神社を知らない人がいるとでも…?」
巴は、あっけらかんと答えた。
「…町の神社って、ほとんどがただの神代神社じゃないんですか?」
その答えに、壮一郎は思わず吹き出した。
「ハハ…いや、巴…」
教師は、もはや頭を抱えるしかないといった様子で答えた。
「名家よ、め・い・か。その神代神社は、この地域一帯の神社を、当然、神代家が取り仕切ってるの!意味わかって!?」
巴は、その言葉を受けて、ふと考え込んだ。 「…あの神社も、あの神社も神代で…壮一郎は神代で…名家で…?」 巴の頭の中で、点が線として繋がっていく。
そして、ハッとした顔で、とんでもない結論にたどり着いた。
「玉の輿っ!?」
壮一郎は、その直球すぎる物言いに、半眼で言った。
「ダイレクトに言うなお前は…」
巴は、しかし興奮冷めやらぬ様子で笑った。
「えー、でもやっぱり苗字が同じだけじゃないんですか?壮一郎の家は…あたしは気に入ってますけど、結構年季入ってますよ?」
それは確かに事実ではある。
「まぁ、あれは母屋だからな」
「母屋…?」
壮一郎は、何でもないことのように、さらっと言った。
「他にも住む家は町にちょこちょこあるけど、今は使ってないから貸家にしてる」
巴は、その初めて聞く事実に、ちょっと引いた。
「お、お…おぼっちゃま…」
壮一郎は、その呼び名を全力で拒否するように、顔を背けた。
「言うな…」
やっと巴が状況を大まかにでも理解した様子になったため、教師が恐恐と話し始めた。
「……まぁ、それなら進路は問題…ないんでしょうか?神代家に巴さんが…?」
教師は、巴の壊滅的な成績表を見ながら、素直にそう言った。
壮一郎は、苦笑いしながら答える。
「ま、まぁ…家の仕事は私と主に父と、地域の組合でしてますので…巴には家のことを任せます」
教師は、なんとかその規格外の状況を呑み込んだようで、 「…な、なるほど…」 と、力なく頷いた。
こうして、壮一郎の素性が判明したことにより、巴の成績問題が、ある意味全て解決するという、異例の三者面談は幕を閉じた。
*
帰り道。 巴は、壮一郎の手をいつも以上に強く握りしめながら、まだ興奮気味に呟いていた。
「…まさかの玉の輿…」
壮一郎は、その言葉に、心底嫌そうな顔で釘を刺した。
「やめろ、変な目で見るな。調子狂うし、別にお前が思ってるほど金持ちってわけでもないからな…」
巴は、そんな壮一郎の心配をよそに、にっこりと満面の笑みを浮かべた。
「大丈夫大丈夫っ!安心して子育てに専念できるってわかっただけで十分だよっ!!」
壮一郎は、その全くブレない予想外の返答に一瞬驚きながらも、すぐにいつもの調子を取り戻した。
「お前な…」
そう言いながら、空いてる手で巴の頭をワシワシと、少し乱暴に、しかし愛おしそうに撫でるのだった。
「…フヒヒヒッ」
巴は、その感触に、心底幸せそうな顔で奇妙な笑い声をあげた。 そんな巴の姿を、壮一郎は満足げに見つめていた。




