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神主見習いと幼馴染の許嫁  作者: ブヒ太郎


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10/20

10話

6月の中旬が過ぎたあたり。 それは、壮一郎が巴を連れて、服を買いに行ってから数日たったある日の昼過ぎだった。


壮一郎は、社務所で夏祭りの準備作業を続けていた。 御朱印のデザイン案、縁起物の発注リスト、氏子への案内状…。地道だが重要な事務作業だ。 静かな境内に、キーボードのタイプ音だけが響く。


その静寂を破るように、壮一郎のスマホがテーブルの上で震えた。


「…弥生おばさん?」


仕事関係の電話かと思ったが、通知画面に出ていたのは、意外にも巴の母、弥生からだった。


「はい、壮一郎です」


「こんにちは、壮一郎くん。こないだは、ありがとうね!巴すごく喜んでたわよ」


電話口からは、弾むような弥生の声が聞こえる。 どうやら、先日(巴の誕生日には少し早めに)あげたプレゼントのお礼のようだ。


悪ノリであげた犬耳カチューシャに関しては… (「こ、こ、これは壮一郎と二人っきりの時に付けるからっ!」) 誰かに見られるのが余程恥ずかしいのか、そう言って巴は壮一郎の自室のクローゼットの奥に、宝物のように隠している。


壮一郎は、その攻防を思い出しながら、苦笑して答えた。


「いえいえ、それなら、良かったです」


「あ、そうだ。今日はそれ以外に、またちょっとお願いがあってね…」


「…なんでしょう?」


「実はね…」



翌日。 壮一郎は、母校である美影高校に、私服の上に(一応の礼儀として)ジャケットを羽織って訪ねていた。


懐かしい校舎だが、今日は雰囲気が違う。 昇降口や廊下では、生徒達に交じって、明らかに場違いな大人たち、保護者の姿をちらほら見かける。 その理由は…


(なぜ俺が巴の三者面談に保護者として行かないといけないんだ…)


壮一郎は、浮かない足取りで、巴のいる3年生のフロアへと向かっていた。


聞けば、父である譲は、急な仕事でどうしても都合がつかない。母である弥生も、今日はどうしても抜けられない親戚付き合いの用事がある。 とのことで、


(「壮一郎くんなら、婚約者なんだし、保護者みたいなものでしょ?」)


と、弥生に(事実上の)業務命令として、父兄代理として三者面談に行ってきて欲しい、と頼まれたのだった。 あの電話口の明るさで、断れるはずもなかった。


浮かない足取りで、見慣れない3年生の校舎に入る壮一郎。 階段まで向かう道のりの廊下で、前方から見慣れた顔が歩いてきた。


「あれ?壮一郎さん?」


巴の親友、桃瀬朱音だった。


「やぁ、桃瀬さん。こんにちは」


壮一郎は、軽く会釈をする。 朱音は、なぜ壮一郎がこんな場所(しかも平日の日中)にいるのか、不思議そうな顔をしていた。


「どうして、壮一郎さんが学校へ??」


壮一郎は、その質問に、気まずそうに頬を掻きながら答えた。


「いや、弥生おばさんから、巴の代わりに三者面談に出てくれって言われて…」


朱音は、その言葉を聞いた瞬間、全てを察した顔で、ハッと息を呑んだ。


「あ…あー…巴のやつ、いつも赤点ばっか取るから…」


壮一郎は、巴が以前言っていた「連続3回赤点は不味いかな?」との言葉を思い出す。


「なる…ほど…」


恐らく、巴の両親は、親として学校に行くと、教師に「お宅の娘さん、このままだと進学はおろか、就職もままなりませんよ」と厳しい現実を指摘されるのが嫌で、その矢面に(どうせ将来の旦那だからと)壮一郎を立てたのだろう…


朱音は、そんな(哀れな)壮一郎を見て、同情するどころか、なぜかフッと笑った。


「…ま、でも仕方ないですね」


「えぇ!?」


なぜ、この状況が「仕方ない」のか。 婚約者だからだろうか?でも、流石に学校の生徒たちにまで、そんな古い情報が広まっているとも思えない…


理解できない、といった顔をしてる壮一郎を見て、朱音は呆れたように続けた。


「巴から聞いてますよ。…そりゃもう毎日毎日、学校で壮一郎さんの話を…」


「ど、どんな内容を…?」


壮一郎は、自分の知らないところで、巴が何を吹聴しているのか、嫌な予感がして身じろいだ。


朱音は、周囲に他の保護者がいないことを確認し、声を潜めて、しかしはっきりと告げた。


「…中間テストの勉強の面倒見た時に、一緒にお風呂に何度も入ったって…」


壮一郎の顔から、サッと血の気が引いた。顔面蒼白になる。


「っ!?」


「それに、巴の裸を、壮一郎さんが満足げに見てたって…」


「ち、違う違う。巴の身体は見てないっ!あいつの顔を見てただけだ!それに何もしてないぞっ!!」


壮一郎は、慌てて弁明した。


しかし、朱音は真剣な、冷ややかな目で壮一郎の顔を見た。


「そうでしょうね…そうでしょうけど…世間はそれを信じると思いますか?」


壮一郎が、この田舎町で一番気にしてた事を、朱音は容赦なく言った。


「…信じるわけないよな…」


壮一郎は、がっくりと肩を落とす。


朱音は、さらに畳みかけるように、まくし立てた。


「わかってるなら、早く巴と正式に交際して、さっさと結婚してください。巴のあんな成績じゃ、壮一郎さんが貰ってくれないと、あいつの将来ないんですよ」


壮一郎は、その(ある意味、巴の両親よりも手厳しい)正論に、朱音をなだめようと必死になった。


「わかってる、わかってるから…!ちゃんと巴が卒業後には、付き合うから…!」


それを聞いた朱音は、ようやく少し落ち着いた様子で、 「…なら良いです」 と、ポツリと呟いた。 その目は、まるで娘の将来を案じる母親のようだった。


まさにその、朱音の背後から、緊迫した空気を打ち破る声がした。


「そ、壮一郎っ!?」


朱音の後ろに現れたのは、目を丸くして固まっている巴だった。 なぜ壮一郎が、自分の学校の、三者面談の日に、ここにいるのか。その驚きが顔全体に浮かんでいる。


しかし、その驚きの顔も束の間。 状況がどうであれ、愛する壮一郎が目の前にいるという事実が、彼女の思考を塗りつぶした。 巴は、次の瞬間、満面の笑みで壮一郎の胸に飛び込んでいった。


「壮一郎っ」


と、嬉しそうな、甘えた声を上げながら。

壮一郎は、もはや日課のように体勢を崩すことなく反射的に抱きとめる。


そして、学校の廊下という公衆の面前であるにも関わらず、巴はとんでもないことを言い放つ。


「ぁぁああ、壮一郎の匂いがするっ」


壮一郎の胸に顔を犬のようにこすり付ける巴。 その光景を目の当たりにした朱音は、さすがに呆れ果ててこめかみをピクピクさせている。


「あ、あんた…人目も憚らず、んなことして恥はないのか、恥は…?」


そんな朱音のツッコミを、巴は壮一郎の胸に顔を埋めたまま、ちらりと見上げてニヤリと笑った。


「…ぐっふっふ…羨ましかろう?これが旦那という奴だ」


朱音は、もはや何を言っても無駄だと、心の底から醒めた目で言った。


「人前で、そんな事する嫁も普通はいねぇよ…」


(ああ、これが普段の学校での巴と朱音のやり取りなんだろうな…)


壮一郎は、二人のテンポの良い口喧嘩を他人事のように聞きながら、もはやいつもの癖で、自分の胸にじゃれつく巴の頭を優しく撫でていた。


「…ぐへ、ぐへへ…」


その手つきに、巴はますます嬉しそうに、喉を鳴らすように奇妙な笑い声をあげる。 それを見た朱音は、ついに我慢の限界といった様子で吐き捨てた。


「犬かお前は………」

「飼い主め…」


最後の「飼い主め」という言葉は、明らかに、巴を甘やかす壮一郎への言葉であり、ボソッと、しかしはっきりと呟かれた。


「じゃぁ、私、友達待たせてるんで行きますけど、壮一郎さん、ちゃんと約束守ってくださいね?」


朱音は、これ以上この痴話喧嘩に付き合っていられないと、自分の用事を思い出す。 壮一郎は、その「約束」という言葉の重みを噛み締めながら、


「…大丈夫だ」


と、朱音の目を真っ直ぐ見て答えた。 それは、巴の将来に対する、彼の決意の意思表示でもあった。


一方、巴は、壮一郎と朱音の間で交わされた「約束」が何のことかもわからず、ただ自分を置いていこうとする親友に、


「あぁ、あたしも朱音の友達だろぉ!なんで置いてくんだぁぁぁぁあああ」


と、壮一郎に抱き着いたまま廊下に響く大声で叫んだ。


それを聞いた朱音は、振り返りざまに、


「黙れ、この裏切り者がっ!!」


と、これまた大声で叫んで、今度こそ走り去っていった…


嵐のように去っていった親友の背中を見送り、そんな様子をみた壮一郎は、

「桃瀬さんと何かあったのか?」

と、いまだに自分に抱き着いて離れない巴の頭頂部を見下ろしながら、素朴な疑問として質問した。


「ん-………朱音、彼氏いないからなぁ…」


そう言いながら、巴は朱音が走り去っていった廊下を見つめた。


壮一郎はそんな巴の様子を見て、(あぁ…普段からこんな感じなのね…)と、二人の関係を察した。


朱音は確かに真摯に巴の将来を心配もしていた。 だが同時に、自分にはいない彼氏に溺愛され、将来を案じる必要すらないように見える巴に、嫉妬もしていたのだった…



巴の教室。 放課後の静かな空気の中、教卓を挟んで、巴は壮一郎の隣に(やけに嬉しそうに)座り、向かいには担当の教員と思われる、人の良さそうな中年の女性教師が困惑した表情で座っていた。


「…あの、月城さん…三者面談には、普通は親御さんを連れてくるんだけど…」


教師は、目の前の(どう見ても生徒の兄か、良くて大学生にしか見えない)壮一郎をいぶかしみ、まず巴に説明を求めた。


壮一郎は、巴が何かを言う前に、慌ててジャケットの襟を正し、保護者代理として説明した。


「あ、すいません。月城さんの親御さんは今日、急用で忙しいみたいで、代理で私が…」


その言葉に、教師はさらに疑問を深めた。


「月城さんの親御さんの…代理?失礼ですが、月城さんのお兄さんではないんですか?」


「あ、いや、私は…」


どう説明したものか。 壮一郎は、言葉に詰まった。 今朝、ここに来る前に、巴が学校で余計なことを吹聴するのを恐れ、「いいか、絶対に俺のことを旦那だとか、彼氏だとか、婚約者とか、そういう紹介はするなよ」と、巴が言いそうな事は全部先に釘を刺して潰してあった。 だが、その結果、自分が何者なのかを説明する言葉を失っていた。


その、壮一郎の逡巡を破ったのは、隣の巴だった。


「あたしのご主人様ですっ!!」


教室に、巴の元気な声が響き渡る。 壮一郎は、そのとんでもない紹介の言葉を聞き、横で頭を抱えた。


「ご、ど、どど、どういう関係ですか?」


教師は、その未知の単語に盛大に引きながら、必死に理解を求めてきた。


壮一郎は、もはや取り繕うことも忘れ、隣の巴を睨みつけた。


「巴…お前…」


(なんつー紹介だ!)と、その視線が雄弁に語る。


巴は、その壮一郎の非難の視線を受け、気まずそうにプイッと顔を背け、教室の隅を見ながら、不器用に口笛を吹き始めた。


壮一郎は、その態度に、諦めたように深く息を吐くと、教師に向き直った。


「…すいません。私は、巴の婚約者で、今日は親御さんに頼まれて、保護者代理としてこちらに来ました…」


彼は、もはや隠し通すのは無理だと判断し、正直にそう伝えたのだった。


教師は、その(あまりにも非現実的な)「婚約者」という言葉を、なんとか状況を吞み込もうと数回反芻はんすうしているようだった。


「そ、そうですか…婚約者の方ですか…まさか、月城さんにそのような方がいらっしゃるとは…」


教師は、巴の、学生らしからぬ事情を、プロとして無理やり納得したようだった。


そして、教師は咳払いを一つすると、なんとか普段通りの三者面談の軌道に戻そうと、本題である巴の成績表を机に広げた。


「これが、月城さんの成績表です」


壮一郎は、その紙を覗き込む。 そこには、巴の成績が一目でわかる評価が並んでいたが、芸術科目以外、そのほとんどが「E」か、それ以下の「E−」の評価ばかりだった。 壮一郎の知る「赤点スレスレ」を遥かに下回る、壊滅的な結果だ。


教師は、その絶望的な成績表を前に、もはや感情を込めることも諦めた様子で、淡々と事実を続けた。


「…残念ですが、この成績だと、留年という概念がない我が校は卒業できても、当面、進学や就職などは非常に厳しいと言わざるを得ません…」


壮一郎は、その分かりきっていた通告を聞き、隣に座る巴の顔を見た。


「…うっ…」


巴は、さすがに自分の成績の悪さを公の場で指摘され、気まずそうな顔をして視線を泳がせていた。


壮一郎は、そのどうしようもない現実を前に、深く一つ溜息を漏らしたが、すぐに教師に向き直り、きっぱりと言い放った。


「はぁ…まぁ、大丈夫です。卒業後の彼女の面倒は私が見ますので…」


「壮一郎っ!!」


その力強い宣言に、巴は気まずそうにしていた顔を一変させ、感激したように壮一郎の顔を見つめた。


しかし、教師はその若すぎる婚約者の発言を、鵜呑みにするわけにはいかなかった。 教師は、壮一郎を値踏みするように、怪しみながら質問した。


「その…壮一郎さんでしたか………失礼ですが、どのようなご職業を?…食べさせていくのは言うほど簡単ではありませんよ?巴さんもそれはわかってらっしゃるのかしら?」


その視線は、巴が素性の知れない悪い男に騙されているのではないか、という生徒を案じる疑問が秘められたものだった。


しかし、巴は教師のその心配を遮るように、胸を張って割り込んだ。


「大丈夫ですっ!!壮一郎なんでっ!」


巴は、何の根拠もなく、ただ「壮一郎だから」という理由だけで、全幅の信頼を示していたが、教師の疑念は晴れない。


「それで、どうなんです?壮一郎さん」


教師は、巴ではなく、飽くまでも壮一郎本人に説明を求めた。


「一応、家業を継いでまして…数年後には神主として自立する予定です…」


壮一郎は、慌てるでもなく、落ち着いた様子でそう言うと、ジャケットの内ポケットから自身の名刺入れを取り出し、一枚の名刺を教師に差し出した。


教師はそれを受け取り、そこに書かれた文字を見て…


「………っ!?神代!?」


その名刺を見て、顔色を変え、驚愕していた。 名刺には「神代神社 権禰宜ごんねぎ 神代壮一郎」と、美しい毛筆体で書かれていた。


※権禰宜(平社員)→禰宜ねぎ(責任者補佐)→宮司ぐうじ(責任者(厳がこれにあたる))


「の、今はまだ権禰宜ですが…」


壮一郎は、教師の反応にも動じず、謙遜の意を込めて静かに答えた。


教師は、信じられないといった様子で、恐る恐る聞いた。


「…神代って、あの美影町の神代様ですか…?」


壮一郎は、営業用の人懐こい笑みを浮かべて答えた。


「はい、名刺通りです。ご用向きがあれば、お電話いただければご祈祷きとうにも伺いますよ?」


教師は、その言葉を聞いて、ようやく全てを納得したようだった。


「…なるほど…確かに神代家の方なら、巴さん一人食べさせるのは特に問題ないでしょうね…」


むしろ、お釣りが来すぎるほどだ。教師の顔にはそう書いてあった。


巴は、その教師のあまりにも現金な態度の変化と、「神代家」という言葉の響きに、一人だけ状況が飲み込めず、きょとんとしていた。


「…え?壮一郎の家って、結構凄かったりするの…?古い神社を継いだ、とかじゃなくて?」


壮一郎は、そんな巴のあまりにも世間知らずな答えを聞いて、呆れつつも、どこか安心したように言った。


「…うん、お前が財産目当ての女じゃないってことは知ってたけど、せめて、町の歴史書くらい見ようよ…」


「歴史…書?」


巴が首を傾げると、見かねた教師が、今度は巴に向かって呆れたような顔で教えた。


「…巴さん…貴女ね…この町で神代神社を知らない人がいるとでも…?」


巴は、あっけらかんと答えた。


「…町の神社って、ほとんどがただの神代神社じゃないんですか?」


その答えに、壮一郎は思わず吹き出した。


「ハハ…いや、巴…」


教師は、もはや頭を抱えるしかないといった様子で答えた。


「名家よ、め・い・か。その神代神社は、この地域一帯の神社を、当然、神代家が取り仕切ってるの!意味わかって!?」


巴は、その言葉を受けて、ふと考え込んだ。 「…あの神社も、あの神社も神代で…壮一郎は神代で…名家で…?」 巴の頭の中で、点が線として繋がっていく。


そして、ハッとした顔で、とんでもない結論にたどり着いた。


「玉の輿っ!?」


壮一郎は、その直球すぎる物言いに、半眼で言った。


「ダイレクトに言うなお前は…」


巴は、しかし興奮冷めやらぬ様子で笑った。


「えー、でもやっぱり苗字が同じだけじゃないんですか?壮一郎の家は…あたしは気に入ってますけど、結構年季入ってますよ?」


それは確かに事実ではある。


「まぁ、あれは母屋だからな」


「母屋…?」


壮一郎は、何でもないことのように、さらっと言った。


「他にも住む家は町にちょこちょこあるけど、今は使ってないから貸家にしてる」


巴は、その初めて聞く事実に、ちょっと引いた。


「お、お…おぼっちゃま…」


壮一郎は、その呼び名を全力で拒否するように、顔を背けた。


「言うな…」


やっと巴が状況を大まかにでも理解した様子になったため、教師が恐恐と話し始めた。


「……まぁ、それなら進路は問題…ないんでしょうか?神代家に巴さんが…?」


教師は、巴の壊滅的な成績表を見ながら、素直にそう言った。


壮一郎は、苦笑いしながら答える。


「ま、まぁ…家の仕事は私と主に父と、地域の組合でしてますので…巴には家のことを任せます」


教師は、なんとかその規格外の状況を呑み込んだようで、 「…な、なるほど…」 と、力なく頷いた。


こうして、壮一郎の素性が判明したことにより、巴の成績問題が、ある意味全て解決するという、異例の三者面談は幕を閉じた。



帰り道。 巴は、壮一郎の手をいつも以上に強く握りしめながら、まだ興奮気味に呟いていた。


「…まさかの玉の輿…」


壮一郎は、その言葉に、心底嫌そうな顔で釘を刺した。


「やめろ、変な目で見るな。調子狂うし、別にお前が思ってるほど金持ちってわけでもないからな…」


巴は、そんな壮一郎の心配をよそに、にっこりと満面の笑みを浮かべた。


「大丈夫大丈夫っ!安心して子育てに専念できるってわかっただけで十分だよっ!!」


壮一郎は、その全くブレない予想外の返答に一瞬驚きながらも、すぐにいつもの調子を取り戻した。


「お前な…」


そう言いながら、空いてる手で巴の頭をワシワシと、少し乱暴に、しかし愛おしそうに撫でるのだった。


「…フヒヒヒッ」


巴は、その感触に、心底幸せそうな顔で奇妙な笑い声をあげた。 そんな巴の姿を、壮一郎は満足げに見つめていた。

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