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逆手のレビュー、七不思議の余韻

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 週明けの月曜日。

 人事部の薄暗いデスクで、夢子はMP台帳の数字を静かに見つめていた。


 ——今日のターゲットは、小林。

 昨夜も彼の好奇心がMP深淵に触れかけたことを、夢子は思い返す。

胸の奥に冷たいものが走った。


 しかし今日は、ただ懲らしめるためだけの操作ではない。

 小林の社内レビュー――言わば、彼の仕事の評価日だ。

ここでMP台帳の力を逆手に取れば、社内の不可思議な現象を味方につけ、見事な成果として演出できる。


 夢子は深く息をつき、台帳に手を置く。


 「さて、どうやって……」


 まず、コピー機の山積み事件を再現する。

 小林が資料を取り出すと、コピー機が微妙に紙を二枚ずつ吐き出す。

社員は眉をひそめつつも、手際よく整理し始め、まるで小林が指揮しているかのように動く。

 次に、社内の自動販売機でジュースを買うと、必ず2本出る。

 小林は最初こそ「偶然かな……」と笑うが、周囲の同僚が「すごい、タイミング完璧!」と口々に褒める。


 夢子は微笑む。

ほんのわずかにMPを操作するだけで、シュール現象が小林の“有能さ”を強調する。

 そして極めつけは、社長室の照明。

レビューの時間に合わせて、室内の光がふわりと明るく変化する。

小林が資料を差し出すたびに、光の強弱が微妙に反応するように設定してある。心理誘導しているかのように。

社長は何も知らずに頷き、「これは……素晴らしい」と呟く。


 ——まるで魔法だ。


 昼休み、社員が社内の七不思議現象に目を奪われる。コピー機、自販機、照明――すべてが小林の行動と絶妙に連動している。

 周囲は半ば笑い、半ば感心する。

小林自身も、最初は冗談半分で楽しんでいたが、次第に背中に微妙な重さを感じ始める。


 「なんだか……妙に疲れるな……」


 彼のMPが、知らぬ間に増加しているのだ。

 コピー機を操作するたび、書類を整理する社員たちが無意識に動き、ジュースを手に取る同僚の行動が完璧に連動する。社長室の光の変化も微細だが確実に影響を与える。

 すべて小林の行動に紐づき、彼は知らず知らずのうちに“運命の中心”になっていた。


 夢子は冷ややかに笑う。

 「懲らしめたつもりが、結果的に成功させてしまった……でも、確実にMPの影響は受けていた…フフフ」


 社内レビューは終盤に差し掛かる。

 社長は資料に目を通し、部下の報告に頷くたび、微妙な光の変化が目立つ。


社長はレビュー結果を見て大絶賛


「小林くん、素晴らしい! こんなに完璧な資料は初めてだ!」


 周囲は小林の働きぶりを褒めはやし、彼自身は冗談半分で笑っている。

 しかしその背後で、彼のMPは知らぬうちに大きく膨れ上がっていた。

と同時に社長の髪が数本黒々と輝きを増す。


 ——疲労感と違和感の正体はここにある。


 レビュー終了後。社員たちは次々と退出する。

 小林は椅子に沈み込み、眉間に皺を寄せた。


 「……何だろう、妙に疲れた……そんなに自信はなかったのに…でも、何か成功した気がする」


 夢子は台帳を閉じ、胸を撫で下ろす。

 「これで少しは、深淵に触れようとする欲望も収まるはず……」


夢子は、小林に近づき耳元で囁く

 「これで少しは、七不思議の恐ろしさが分かったかしら……」


小林は、謎の疲労感でふらふらしつつも、窓の外の光を眺めながらふと思う。

 「七不思議……面白すぎる……でも、この疲労感がそうなら…怖い気もする……」


 夢子は、背後からその声を聞き、ぞくりと背筋が冷える。

 “他人事ではない……この現象、私の秘密が絡んでいる……”


 オフィスは静まり返り、コピー機の紙送りの音だけが小さく響く。

 だがその音も、どこか人間の心拍のように聞こえ、シュールな空間をさらに歪ませている。


 夢子は小林を見守りながら、心の中で呟く。


 「懲らしめたつもりが、逆に現象の中心に押し上げてしまった……。でも、これで少しは学ぶはず……」


 小林は疲労で目を閉じ、微かな汗をかく。

 夢子は知らぬ間に台帳で操作していたことの影響の大きさに改めて気づく。

 ——彼が笑い、喜ぶことで、現象はさらに強化され、次第に制御不能に近づく。


 その日、社内は静かに混沌の余韻を残したまま終わった。

 コピー機は静かに紙を吐き、自販機はいつもの2本を落とす。照明は微かに揺れ、社長室の空気は妙に澄んでいる。

 だが、夢子と小林だけが、その背後に潜む“深淵”を知った気になっていた。


 ——ブラックユーモアとシュールな現象が織りなす、日常の戦場。

 小林は疲労と驚異を同時に体感し、夢子は秘密を守る重圧を胸に抱く。

 社内の七不思議は今日も静かに、しかし確実に、その力を示したのだった。


小林は、帰りの電車で爆睡してしまい、自宅の最寄り駅よりも1時間も離れた他県まで連れて行かれたのは、夢子は、後から知った事だった。


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