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夢子の日々の人事部

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

人事課は、部長と先輩、そして夢子の三人だけ。

「少人数で大丈夫?」と問われれば、正直に言って大丈夫ではない。

部長は会議続きで席を外すことが多く、先輩はMP制度の影響で休養中。

結局、デスクに残されているのは夢子ひとりだった。


社員数はおよそ百名。

中小企業としては標準的だが、日々寄せられる相談は大企業と変わらない複雑さを帯びている。

朝のメールボックスを開けば、件名だけで息が詰まる。


「引っ越しに伴う住所変更」

「結婚のご報告」

「子どもが熱を出しました。会社の制度は?」

「交通費の精算がまだです」

「出張費の申請お願いします」


福利厚生、勤怠管理、経費精算、生活相談。全てが人事に集まり、全てに回答と調整が求められる。

必要に応じ、同じ部の総務や経理にメールを転送し対応してもらう。雑務の窓口も兼ねている。


電話を片手にマウスを操作し、書類を整理しながら同時に頭の中で優先順位を組み立てる。

夢子はまるでひとりオーケストラの指揮者のように、めまぐるしい業務を捌いていった。


「この小さな部屋で、会社全体の鼓動を支えているんだな……」

ふと、そんな実感が胸をよぎる。


夢子には、誰にも言えない秘密がある。

MP台帳。

社員にほんのわずか加点するだけで、申請が滞りなく進み、誰かが自然と動き出す。

社内の摩擦を減らし、仕事の歯車を整えることができる。

だが、その裏側で社長の生命は延び、自分の寿命が削られる。小さな操作ひとつに、見えない代償が潜んでいるのだ。


昼休み。電話とメールが一時的に静まり、夢子はようやく湯呑を手に取る。

だがデスクの上では書類の山が小さく崩れ、コピー機のトラブルランプが再び点滅している。

思わずため息をつきながらも、夢子は椅子に腰をかけ直した。


「……たとえ少人数でも、支え続けなければならない。誰かがこの会社の生活を守らないと」


彼女は再びMP台帳を開く。画面に並ぶ数字は、無機質でありながらも社員一人ひとりの生活の重みを映しているように見えた。

夢子は静かに微笑み、入力キーに指をかける。


今日もまた、人事部という名の最前線で、見えない糸を結び直す仕事が始まるのだった。

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