不条理ループ、MPを減らす試み
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
実際の業務初日。
1席空いてる事は気になりつつも部長から、業務内容の説明を受けた。
PCにある「MP台帳」とだけ表示されたアプリ。
それを立ち上げる。
部長は
「ここで、自分のMPを確認できるぞ。……もし、どうしても減らしたいなら、操作も可能だ。
だが、辞めて置いた方がいい。不正をしても良いことは起こらん。」
夢子の胸に重たい緊張が走る。
恐る恐るリストを追い、自分の名前を見つけた瞬間、心臓が跳ね上がった。
横に並ぶ赤い数字——「3,200MP」。
「……これ、減らせるんですか?」
声はかすれて震えていた。
夢子は一瞬ためらったが、すぐに覚悟を決めた。
指先をキーボードに添え、「−1,000MP」と入力する。
部長は
「ちょっと待て、試しだ10MPぐらいにしておきなさい。何が起こるか分からん。」
数字は一度消え、次に現れたときには「3190MP」と表示されていた。
胸の奥に一瞬、安堵が広がる。
「……やった、減った……」
その言葉が唇から零れた直後、画面が閃光のように瞬き、再び数字が跳ね上がった。
そこに刻まれていたのは——「3210MP」。
夢子の血の気が引く。
「えっ……?!」
部長は、笑みを深めながら、低く囁いた。
「減らすと、なぜか倍になって戻ってくる……これを“逆増殖の法則”と呼んでいる。」
謎に部屋の明かりがシュールにチカチカしている。
夢子は椅子に沈み込み、頭を抱えるしかなかった。努力も、失敗も、そして“減らそう”とする意志すら、すべてが裏目に出る仕組み。理不尽の輪が、彼女をきつく締め上げていく。
脳裏に浮かぶのは、入社式での社長の穏やかな笑顔。
その笑顔が今も健やかに保たれているのは、きっと自分のMPのせい。夢子は唇を噛みしめた。
「……これから私は、社長の寿命を延ばすために、無限に消耗し続けるの……?」
窓の外では、同期たちが楽しげに談笑している。笑い声は、夢子の心に遠い残響として響いた。
“世界は理不尽だ。けれど、笑うしかない”
夢子は静かに呟いた。その瞬間、彼女は自分がすでに、不条理なMP制度というループに捕らえられたことを悟っていた。
翌日、部長からある社員のMP管理を任されていた。
薄暗いオフィスには、ファイルとPCが山積みになっている。
目の前には「MP台帳」がある、秘密裏に管理されている。
「ここでポイントの管理を任せる。誰にも教えちゃダメだぞ」
人事部長は冷ややかに言った。
「秘密が漏れたら……そのMPは全部君に跳ね返る。つまり、社長は元気になり、君は……ね」
夢子は深く息をつき、PCに向かう。
“社長を若返らせる代わりに、自分の寿命を削る……不条理すぎる……”
最初の任務は簡単なはずだった。社員AのMPを更新するだけの簡単なお仕事。
理由は、ちょっとサポートしてやるんだ。と部長は謎に言うだけだった。
1ポイントの変更をキーを打つたびに夢子はシュールな現象を目撃する。
社員Aがコピー機の前に立っただけで、連続で紙詰まりが起こる。
飲みかけのコーヒーが、謎に揺れ、なぜか絶妙な傾きになるのにこぼれない。
廊下でぶつかった新人に「大丈夫ですか?」と言った瞬間、社長室の照明が少し明るくなる
「……これが、MP効果……」
夢子は息を呑む。ポイント操作と現実が結びつき、社長の健康と自分の消耗に直結する。その不条理を受け止めきれず、頭の奥がずきずきと痛んだ。
「私がポイントをいじるたびに、社長は元気になる……。そして私の運命は……」
さらに追い打ちのように、部長は囁く。
「秘密は絶対。もし破れば、その代償はすべてお前が背負うことになる。笑えないブラックジョークだろう」
夢子は机に突っ伏し、ため息をつく。
だが、ふと考える。その瞬間に新たな気づきが胸を打った
“これ、日常生活でも効果が出るってこと……?”
その瞬間、休憩室の自販機でジュースを買おうとすると、なぜかボタンを押すたびにお目当てのドリンクが2本ずつ出てくる。
他の社員が近くにいても、夢子の表情に気づく者はいない。
「……なるほど、これがMPの副作用……?」
夢子は苦笑する。
「私の寿命が少しずつ削られて、社長はピチピチ……。秘密は守らねば……そして日常はシュールすぎる……」
笑わなければ心が壊れてしまうからだ。こうして、彼女の人事部での日々が始まった。
社長を若返らせ、社員のMPを管理し、自分の寿命と引き換えに日常の不条理を受け止める——
人事部の日々は、笑いと恐怖が同居するブラックコメディの連続であった。




