天下り役員、夢子にゾッコン
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
天下り役員増田さんは今日も机の前で困惑していた
。コピー機が突然紙詰まりを起こす。慌てて調整しようとするが、どれだけ手を動かしても、微妙に紙が噛んでしまう。
「くそ…なんで今日に限って…」
周囲の社員は遠巻きに見守るのみ。天下り役員としての威厳はあるが、誰も手を貸さない。手伝っても感謝もされるわけでもないためだ。
威張ることはできても、面倒なことは触れられない。それでも夢子だけは違った。
「こちら、コピー機の調整をしましたので大丈夫です。資料の並びも直しておきました」
夢子の声は穏やかで、しかし確実に事態を解決する力があることを感じさせる。
役員はほっと息をつき、思わず頭を下げる。
「…ありがとう、夢子さん」
一度、感謝の言葉を口にすると、役員の態度は変わり始めた。社内で他の社員は役員の威厳に近寄れず、誰も面倒を見ない。だが、夢子だけは状況を正確に把握し、必要な対応をしてくれる。コピー機も、バラバラになった資料も、微妙なシュール現象も、夢子の手にかかれば瞬時に片付く。
増田は次第に思う。
「この子は…救世主かもしれない」
午後、会議の準備でもトラブルが起きた。プレゼン資料が順番通りに映らず、プロジェクターは微妙に映像がずれる。しかし夢子は慌てずに微調整し、資料は瞬く間に完璧な順序に。役員はただ見つめるしかなかった。
「さすが…夢子さん、すごいな…」
他の社員たちは、役員の傍に近寄ることすら恐れ、口も利かない。
威厳のある存在に気安く話しかけられる者はいないのだ。
しかし夢子には自然と頭を下げ、安心して頼ることができる。
役員は次第に夢子をちやほやし、些細なことでも感謝し、彼女の言葉や行動に耳を傾けるようになる。
夢子は内心、にやりと笑う。MPを少し操作するだけで、周囲の社員には見えない微妙なシュール現象を起こし、役員の心理に影響を与えることができる。
「ふふ、これでまた一つ、社内の駒が手の中…」
夕方、役員は夢子に向かって言った。
「今日もありがとう。君がいなければ、もう…私はどうなっていたか…」
夢子は微笑むだけで、具体的な操作方法は伏せる。誰も知らない、彼女だけの“秘密の力”である。
社内の空気は少しずつ変わっていた。威張る天下り役員も、夢子の前では素直に頼るようになり、感謝の念を隠さなくなった。夢子はその変化を見ながら、心の中で小さく笑う。ブラックユーモア混じりのシュールな日常――それは、夢子にとっても快感だった。
「これでまた一歩、社内を私のペースに…」
そう思う夢子の背後で、コピー機が微かに紙を吐き出す。役員はまた微笑みながら感謝する。シュール現象は日常の些細な舞台装置、そして夢子のMPは確実に効いているのだった。




