ようこそ、PM株式会社の世界へ
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
入社三日目の月影夢子は、まだ給湯室の位置も覚えていなかった。
だが総務部長の平岩に「君、ちょっと来てくれる?」と呼ばれ、応接室に通されると、机の上に一枚の紙が置かれていた。
中央には大きく、「+3,200MP」と書かれている。
夢子は恐る恐る尋ねた。
「……えっと、この“MP”って、マイルポイントですか?」
平岩はにやりと笑う。
「いやいや、ミステリーポイントだ。今日君が受けた責任の重さを数値化したものだよ」
「私も、そこまで詳しくは知らないだよ。未知の概念だ。人事部だけの秘密としている。
ミステリーポイントとは、日常的な業務を淡々とこなすだけではほとんど増えないから、安心したまえ。
役職に見合った働きに過ぎず、数字は静かに横ばいを続ける。
しかし一方で、責任の少ない立場、新人や若手が思いもよらぬ大仕事を成し遂げたとき、その数字は常識を逸した跳ね上がり方をする。君のようにね。
それは賞賛でもなく、罰でもない。ただ、役割の“外側”で動いたことに対する、世界からの奇妙な報酬のように。」
「責任の……重さ?報酬?」
平岩は指を折りながら説明した。
まず、課長が急な腹痛で欠勤。その課長が出るはずだった超重要クレーム電話に、夢子さんが“間違って”出てしまった。
「その時点で+1,000MPだ」
「……高いんですね」
「さらに君が電話の最後に“がんばりましょう”と励ましたのが良くなかった」
「なぜですか?」
「相手方は、それが取引継続の暗黙の確約と解釈され、法的にもね。+2,000MP。確か、20億の契約だったかな。」
夢子は口を開けたまま固まる。
「最後に、書類を落として“ガシャーン!”と音を立てたせいで、相手社長が『そちらは混乱してるな』と思った。+200MP」
「……合計で3,200MPですか」「そう」
恐る恐る夢子は聞く。
「で、このポイントがたまると……何かいいことが?」
平岩は平然とコーヒーをすすりながら答える。
「いや、特にない。ただ、減らす方法もない」
「……え?」
平岩の口角が不気味に上がる。
「強いて言えば—、君のMPが増えると、社長の白髪が減るんだ」
夢子は一瞬、冗談だと思って笑った。しかし窓の外を見ると、通り過ぎる社長の頭髪が、明らかに昨日より黒々している。
夢子の脳裏に、不穏な考えがよぎった。
「ということは……私は、知らないうちに社長の寿命を肩代わりしてるってこと……?」
背筋が寒くなる。入社三日目、夢子は初めて知った——ミステリーポイントは、笑い話ではなく、自分の“命”にも関わる恐怖の通貨なのだと。




