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第8話:氷刃が道を拓く



 封印の間の奥に行くと、更に異様な気配が立ち上った。


 魔力のうねりが、波となって空間を震わせる。


 その正体はすぐにわかり、異形の存在が、瓦礫を蹴散らして姿を現した。


 黒い霧のような体。獣のような四肢。

 顔は、歪んだ闇そのものだった。


 これが――この《第五訓練遺跡》のボスモンスター?


 アインは疑問を覚える。


「……くるよ」


 リリスが、小さく呟いた次の瞬間、ボスは地を蹴った。


 閃光のような速さで、リリスに襲いかかる。


 だが、彼女は冷静だった。


 指先で空を切る。


「《フロスト・バインド》」


 地面から、氷の鎖が次々と伸び、ボスモンスターの脚を絡め取った。


 動きが鈍る。


 その隙に、リリスは間髪入れず、第二撃。


「《アイスランス》!」


 氷の槍が十数本、空間に出現し、一斉に放たれる。


 鋭い氷槍が、ボスモンスターの黒い肉体に突き刺さった。


 凄まじい衝撃音。


 だが――


 ボスは倒れない。


 怒りに満ちた咆哮を上げ、氷の鎖を引きちぎりながら突進してくる。


 リリスはすぐさまバックステップでかわす。


 滑らかな動き。


 だが、ボスの攻撃は苛烈だった。


 地をえぐり、空気を震わせるその一撃一撃は、リリスの防御魔法すら貫きかねない。


(……俺も、行かなきゃ)


心は戦おうとしている。だが、体が応じない。


 さっきの回想――過去の記憶と向き合った代償だ。

 まるで、身体の奥深くに鉛が流し込まれたような感覚。


(……クソッ、動け……!)


 必死に命令するが、手足は鈍く、呼吸さえままならない。


 そんな俺を見て、リリスが前に出た。


「アイン君。下がってて」


 静かに、だけど迷いのない声だった。


 その目は真っ直ぐに、封印の間の奥を見据えている。


「リリス……!」


 声を張ろうとしたが、喉が乾いて音にならない。


 リリスは振り返らない。ただ、冷たく研ぎ澄まされた魔力だけが、彼女を包んでいた。


 アインは拳を握る。


 だが、体はまだ重い。


 頭ではわかってる。


 リリス一人では限界があるって。


 それでも――今は。


(いや、ここで、止まったら前までの自分と一緒だろ)


「リリス……全力で攻撃してくれ」


 俺は、かすれる声で呟いた。



 リリスは、ほんの少しだけこちらを見た。


 でも、その顔に浮かんだのは、笑みでも涙でもない。


 ただ、まっすぐな、確かな意志。


 アイン・クラウスという”仲間”を信じている瞳


 今、目の前の敵を倒すため。


 それだけの理由で、彼女は氷の魔力を解き放った。


「――《氷結結界》!」


 リリスの周囲に、淡い光の結界が展開される。


 氷の紋章が床に広がり、気温が急激に下がった。


 ボスモンスターの動きが鈍る。


 黒い霧が凍り、空気中の水分までもが結晶化していく。


 今が好機だ。


 リリスは、深く息を吸い――叫んだ。


「《グレイシャル・ノヴァ》!」


 それと同時に、俺も魔法を使う


 絶対零度の嵐が、ボスモンスターを中心に炸裂する。


 黒い肉体が、氷塊へと変わっていく。


 抵抗しようと、ボスは咆哮を上げる。


 しかし、その声すらも、氷に閉ざされた。


 リリスは、最後の一撃を構えた。


 掌に宿る、一本の氷剣。


 それを、高く掲げて――振り下ろす!


「終わりだっ!」


 氷剣が、ボスモンスターの凍り付いた核心を貫いた。


 乾いた破裂音。


 黒い影は砕け、細かな氷片と化して、空へ散っていった。



 静寂が広がる。


 リリスは、膝をついた。


 限界だった。


 全魔力を使い果たし、意識が遠のきかける。


 俺は、ようやく足を動かし、彼女に駆け寄った。


「リリス!」


「……うん、大丈夫。倒した、から」


 肩で息をしながら、リリスは答える。


 その瞳には、誇りが宿っていた。


 俺は、彼女の肩を支えた。


「助かった……お前のおかげだ」


 素直に、そう思った。


 リリスは、少しだけ困ったように微笑む。


「当然でしょ。パーティーなんだから」


(私の魔法の威力おかしかった気が、、、、)


 頭に疑問を浮かべながらも、彼女はふいに立ち上がる。


 ふらつきながらも、まっすぐに。


 頼もしい背中だった。


(……俺も、いつか)


(あの時の自分を、超えていかなきゃならない)


 胸の奥に、静かな火が灯る。



ボスの攻略からほんの少し経った時、


「ところで、コイツは本当にボスモンスターなの?」


 ふと、リリスが呟く


「俺も思っていたところだ。このボス、一年生最初のダンジョンボスにしては強すぎる」


 2人で考えを巡らせていると、リリスがボスモンスターが消えた跡に、ひとつの輝きを見つけた。


 両手に収まりきらないくらいの大きさの青白く光るそれを、リリスが拾う。


「……これは、魔法石か」


「たぶん、このボスのコアね……」


「この大きさの魔法石はなかなか見ないレベルね、」


 この魔法石をどうするか話している最中……


 “ピーピピピピー“


 反響して聞こえるそれは他でもなく、課外授業終了の合図の音だった。


「……とりあえず、帰るか」


 アインがそういうとリリスは小さく頷いた。



(続く)

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