第2話:静寂を破る“実技テスト”と、銀髪美少女の無茶ぶり
入学して二日目。俺はすでに後悔していた。
目立たないように過ごす? 静かに生きる? ――無理だ。
なぜなら今、俺の目の前には巨大な炎の獅子がいて、隣には“あの銀髪”がいる。
「リリス! なんでお前、わざわざ俺をパートナーにしたんだよ!?」
「だって。あなた、隠してるでしょ? 本当の力」
「隠してるからこそ静かに過ごしたいんだけど!?」
「大丈夫。使わなきゃいいのよ。……私がどうにかするから」
そう言ってリリスは、ほんの少しだけ笑った。まったく、余裕のある顔して。
(この子、どこまで俺のこと分かってるんだ……)
これは入学早々に行われる“実技適性テスト”。
生徒たちの基礎能力を測るための、いわばデータ取りの儀式のようなもの……のはずだった。
なのに、俺たちの試験にだけAランク魔獣が召喚されるってどういうこと!?
「さて、どうする? アイン君」
「いやいや、俺に聞くなって! 俺は魔法使えないからな!? 本当に!!」
「……じゃあ、魔法を使わずに倒す方法を考えましょ」
「……リリスさん?」
何か言ってる意味、おかしくないですか?
「獅子の視界は広くない。正面に回って、目を引いて。私が背後から叩く」
「俺が囮!?」
「うん。得意でしょ? 影に紛れて動くの」
(なんでそれ知ってんだ……!?)
俺は全力で凡人してたはずなんだが。
いや、考えるな。やるしかない。でなきゃバレる。
⸻
そして、なんだかんだで俺たちは勝った。
いや、リリスがほぼ一人で倒した。俺は囮やっただけなのに。
でも試験監督は、やたら感動した顔で言った。
「素晴らしい連携だった! クラウス君、君の戦術眼は見事だったよ!」
「……いや、俺は何もしてないって」
「謙遜しないで。私が選んだパートナー、間違ってなかったわ」
そうして、周囲の生徒の視線が一斉にこっちに集まる。
(……うわあ、最悪だ)
俺はこの瞬間、確信した。
完全に目立った。
⸻
その日の帰り道、再びリリスと二人きりになる。
「ねえ、アイン君」
「……今度は何?」
「“魔法を使えない”って、本当に思ってる?」
「……は?」
彼女は立ち止まり、こちらを振り返った。
「私はね、あなたの魔力が“眠ってる”だけだと思うの」
「……勝手に、決めるなよ」
俺の声は、少しだけ低くなった。けど、リリスは微笑んで言った。
「じゃあ、その答え。――この学園で、確かめてみようよ」
その言葉に、俺は何も返せなかった。
(……やっぱり、静かに生きるのは無理だ)
でもそれでも、不思議と嫌じゃなかった。
あの瞳に見られる限り――俺の過去も、少しだけ許される気がした。