第四章 同居
次回から、投稿する日を一定にしたいと思います。なので来週からは、毎週木曜日の9時〜12時の間に投稿させていただきます。
〜その日の夜〜
「お母様〜、巡です!!荷物を持ってきました。今日からよろしくお願いします!!」
私は榛ちゃんの家に入り、温かく出迎えてくれた(榛ちゃん以外。歓迎してくれたっていいのに!!)お母様達に挨拶をする。
「雛鳥 巡です。今日からお世話になります!!」
これからよろしくお願いします、という意味を込めて、私はお母様達に深く深くお辞儀した。
「ハッハッハッ、巡ちゃんみたいな良い子は大歓迎さ」
「ありがとうごさいます」
お父様、ありがとうごさいます!!
心の底から感謝してます!!
あれ…?
何か足りない…。
お母様、お父様、榛ちゃん……。
あっ!!!!
「そう言えば、樺斗お姉様と鳳珠お兄様はどうしたんですか?」
「ん?あ〜、樺斗は女子バスケ部の合宿で、鳳珠は部屋で寝てるよ。本当に巡ちゃんはよく気がつくね〜」
「そんなコトはないですよ、お父様」
ついさっきまで、榛ちゃんしか見ていなくて、樺斗お姉様と鳳珠お兄様の存在をすっかり忘れていたなんて…絶対に言えません…。
ふふふふふ、なんて笑いながらお父様とお母様とお話しをしていると、段々と榛ちゃんの顔が不機嫌になっていきました。
わっ、私、なんか不味いこと言ったかな!?
「あのさあ、んな所で何時までもくっちゃべってないでさっさと中、入れば?」
冷たい…。
榛ちゃんがとてつもなく冷たいです。
私、榛ちゃんに嫌われちゃったのでしょうか?
それだけはイヤです。
「あの、榛ちゃ…」
「んな所に何時までもいっと、風邪ひくぞ」
………。
榛ちゃん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
私の…私の体を思って言ってくれたんだね??
嬉しいよう!!!!
やっぱり私が好きな人は榛ちゃんだよ!
カッコ良すぎるよぅ!!!!
「だからさっさと中、入れよな」
榛ちゃんはそれだけ言うと、さっさとリビングの方へと行ってしまいました。
「そうね。巡ちゃん、中に入んなさい」
「は、はい!!!!」
お母様の後を追ってリビングに入ると、そこは……。
そこは……。
ゴミの山でした……。
「あの、お母様、ここは……」
「リビングよ」
即答するお母様。
「ですよね〜」
すいません、此処は、本当に人間の生活する空間でしょうか?
「ごめんなさいね、巡ちゃん。ちょっとばかり散らかってて」
すいません、本当にすいません。
ここ、人間の生活する空間じゃないです。
「お母様、晩御飯はいつ頃になるんですか?」
「夕飯?そうねぇ、8時頃かしら」
私は黙って腕時計を見る。
今は6時。
うん、大丈夫だ。
「すいません、お母様…。片付け…させて下さい!!!!」
ごめんなさいぃぃ!!
でも、潔癖症歴十六年の巡は、巡は……。
この部屋は耐えられません!!
テキパキと片付けていく私を、ポカンと見つめるお母様とお父様と榛ちゃん。
驚いてはいるものの、邪魔を私を止める気はないみたい。
〜一時間後〜
「おっ、終わった…」
終わりました…。
これぞ人間の住める空間です…。
私がピカピカになって、ゴミ一つない空間を見回してフゥー、とため息をつくと、いきなりお母様が笑いだしました。
「いやー、こんなにキレイになったの何年ぶりかなぁ」
何年ぶり?
ちょっと待って下さい、お母様。
「お母様、たしか、榛ちゃんってキレイ好きじゃありませんでしたか?」
そう、榛ちゃんは確か私以上の潔癖症。
こんな空間(かなり失礼)に住めるハズ…。
「んー?昔はそうだったんだけど、記憶喪失後から、変わっちゃってねー」
また、
記憶喪失。
まるで違う人みたいな榛ちゃん。
私の知らない榛ちゃん。
昔の榛ちゃんをいくら思い浮かべても、
今の榛ちゃんにはちっとも当てはまらない。
どんな人にも優しい性格は、一部の人だけ。
潔癖症は、全然平気になる。
そして私の印象は……きっと、初恋の人から、ただの迷惑な人。
もう、
私の知ってる
…私の大好きな榛ちゃんは居ないのだろうか?
とか思ってしまう。
ブンブンと私は頭を振る。
そうでもしないと、不安に飲み込まれてしまいそうだから。
「さ、巡ちゃん。夕ご飯を作るから、手伝って」
お母様が私の背中をポンと叩き、リビングのすぐ近くにある台所へと連れて行ってくれる。
そんなお母様の優しさに、フワッと顔が緩む。
そんな私を見て、榛ちゃんがボソッと呟く。
「…気色ワル……」
ガーン
榛ちゃんに、
榛ちゃんに、
気色悪いって言われた……。
気色悪いって…。
昔の榛ちゃんなら、
絶対にそんな事言ったりしなかったのに。
酷いよ、
榛ちゃん…。
ポロポロと目から涙が洪水のように溢れ出した。
私はそれを抑えるように両目を手で覆って、地面にしゃがみこんだ。
「榛!何てこと言うの!!」
「だってさ、いきなり笑いだすなんて気色悪い以外の言葉が見つからない」
「な!!!!巡ちゃん、部屋に案内してあげるわ。ご飯は後で持っていってあげるから、今日は部屋で食べなさい」
お母様が私に優しく笑いかけてくれる。
榛ちゃんとは大違いだ。
「榛!!!!アンタ後で覚悟しなさいよ!!」
お母様は榛ちゃんを思いっきり怒鳴りつけると、リビングを出て、玄関のすぐ横にある階段を上る。
私はお母様に遅れないように自分の荷物を持つと、お母様の後を追いかけて行った。
二階に着くと、そこには左側に部屋が4つあった。
そして右側には天窓と、サボテン等の植物が棚に置かれていた。
「一応説明しておくわね。榛の部屋が一番奥。巡ちゃんが、その隣の部屋」
そう言ってお母様が私の為に用意してくださった部屋に入っていく。
部屋の壁紙は白で、カーテンは黒。
モノクロのシックな部屋だった。
「ごめんね、本当はもっと女の子っぽい感じにしたかったんだけど…」
「いいえ、素敵です!私、こういう部屋、好きです!!」
「そう?それと、荷物はここに置いておくわね」
お母様が白のシングルベッドの上に私の荷物を置く。
「あと、巡ちゃんの左隣は鳳珠の部屋。
一番階段から手前にあったのが樺斗の部屋だからね」
「はい」
お母様は部屋を出て行こうとして、ふと足を止める。
「巡ちゃん、お願いがあるの」
「何ですか?」
「榛、あんな風に変わっちゃったでしょ?私達はもちろん巡ちゃんを応援してるわよ?でも…」
「でも?」
「もし、榛に別に好きな人ができたら、恨まないであげてほしいの。そして、榛を応援してあげてほしい」
お母様は優しく言った。
でも今度の言葉には私は微笑む事が出来なかった。
私は、部屋を出て行くお母様の背中に途切れ途切れに返事をした。
「は……、い……」
考えてみたこともなかった。
榛ちゃんが私以外の人と付き合うなんて考えたくなかった。
ふと頭に、
榛ちゃんと学校の前で会った時の事を思いだした。
ギャル風の女の子。
ああいう子が好きなのだろうか?
じゃあ、
私の事はどう思ってる?
榛ちゃん、
榛ちゃん、
榛ちゃん、
榛ちゃん……。
私は黒いクッションに顔を埋めると、思いきり声を出さずに泣いたー…。
続く
次回は、泣いている巡に近づく黒い影。
一体この人は誰なの〜!?