第2話 フェロモンもレベルアップ
「ぐ、おおおおおおおおっ!!」
「お前もお前で……くそっ! 土足で入り込んでんじゃねえ!!」
ワイバーンの野郎機能ピッカピカに磨いた窓だけじゃなくて床に引っかき傷まで……。
この惨事の戦犯さん、コロちゃんの言うことを聞くみたいで嫌だけど……。
「修繕費用はお前の身体で支払ってもらうか――」
ぶち。
あ……。右腕もってかれた。いってえ。『久々』だと結構しんど。
……。速いし、鱗も硬そう。……なら久々ついでに懐かしの戦い方でいきますか。
「ぐ、お、うぐ、ごくっ。ふふぅ……」
「美味いだろ俺の腕。でも、頭はもっとクリーミーで美味いぞ。うっ……。ほら、目の裏のゼラチン質な部分とかたまらないだろ?」
「ぐ、お……」
素手で無理矢理くり抜いた右眼を差し出すと、案の定ワイバーンの奴は涎を汚くだらだら垂らしながらその顔を近づけてきた。
欲望の赴くまま人間の肉を貪ろうとする、これこそがモンスターの正しい姿――
ぎゅちっ! ぶち、ぐちゅ。ごくん。
ワイバーンの口内はぬるいお湯くらいの温度。
咀嚼される度に五感を、嗅覚を失って、幸い生臭い口臭からは解放される。
普通、ここまでされたなら考えること何かを感じることもできないのが生き物ってやつなんだけど……モンスターが現れるような世界なら今までありえなかったことが可能になったりするんだわ。
『再構築:全身』
きたきたきた、この蟲が這うようなゾワゾワ感。
そう、ワイバーンの体内っていう窮屈な場所でも、俺が授かった『天啓』は通常運転ってわけ。
眼球も口も骨も筋肉もあっという間に再構築。
さて、嗅覚が完璧に戻る前にここをぐっちゃぐちゃにするか。
――ぶち。ぶちぶちぶち、くちゅくちゅくちゅくちゅ
「あ゛あああああああああああああああああああっ!!」
「食道は穴だらけ、幽門は無理やりこじ開けられて、終いには伸ばした俺の右手が心臓に到達。そりゃあ痛いわな。ってもう痛みは感じれない、か」
とくんとくん……とく、ん。……。
熱く鼓動していたワイバーンの心臓が止まった。
というのも俺が伸びた爪で心臓を強く引っ掻いて穴を空けたせいなんだけど……。
「改めて『レベル10』って人外な身体能力になるんだ、なっ!」
内側からワイバーンの腹を思い切り蹴り飛ばす。そうすると、体内にちょっとだけ光が射す。
俺はその光の差しこんでいる穴に指を引っかけて思い切りこじ開けた。
「ただいま、っと。えーっと、こいつのレベルは……8かぁ。ケチって最低料金の魔法を掛けてもらってたけど……。こんなのが頻繁に出るようなら月々の支払い5000円のプランに乗り換えないと……。なぁコロちゃん、俺5000円払うの嫌なんだけど、その辺今後どうにかなるのかな?」
「……。それは……この『フェロモン』次第、ですかね」
血みどろの床、食いちぎられた自分の半身、ワイバーンの死体、返り血を浴びて目を覚ましていたコロちゃんの順番に目を向けて軽く圧を掛けてみる。
そうしてコロちゃんが口に出した『フェロモン』っていう言葉。
確かコボルトが持つ仲間を集って群れを形成するっていう習性が起因して生まれた、モンスターを呼び寄せる物質のことを指してると思うんだけど……。
別種のモンスタ―を呼び寄せた、なんて事例は聞いたことがないぞ。
というかこんなモンスターまで呼び寄せられるって……。今までのモンスターたちも、コロちゃんの仕業だったのかよ……。
「さっき漏らしたって言ってたのもその『フェロモン』だよね? それである程度コントロールできるものなの、それ?」
「今のレベルだと、濃いフェロモンだけであればなんとか……。薄いものはどうしようもありません。お恥ずかしながら駄々漏れです――」
――ジュッ
熱々のフライパンに溶いた卵を流したような音が一瞬流れた。
この音には聞き覚えがある。これは……新しいレベルが身体に刻まれた音。
「俺、じゃないか。じゃあ――」
「私です。ほらここ、今までレベル9だったのが10に。そろそろ私も1人、いや1匹で戦うことが――」
「「があああああああああああああああああああああああっ!!」」
……。……。コロちゃんの股関に刻まれた数字を見てたこの短い間に、ワイバーンが1、2、3……10匹ねぇ。
なるほど、レベルが上がるとフェロモン全てが濃くなって、そんで当然駄々漏れするフェロモンも、か……。
「ねえコロちゃん、さっき1人で、1匹で戦えるって言ってたよね? 俺今日は疲れたからあとはお願――」
「嫌です嫌です嫌です嫌です嫌ですっ! 無理無理無理無理無理無理無理っ! さっきのはちょっと強がっただけなんですよっ! あんな恐ろしい化け物相手に何かできるわけないですよ! 私マスコット枠! 非戦闘員! 悪魔●実なし! 覇●なし! 平穏な東●海出身! 見え張ってごめ゛ーーん!!!!」
……。俺の愛犬ワ●ピース好きすぎんか?それにそのレベルで戦えないってマジかよ。
「わかった、わかったから泣かないでって。ふぅ。でもそうなると今夜は徹夜……いや、今から連絡すれば或いは……。ともあれハードモード突入確定、か」
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