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隣の席の美少女はモブ以下の俺に興味があるようで~さんざんモブといじったクラスメイトよ、俺はもうモブなんかではない。~

作者: 聖なる悪の株式会社

「あの、消しゴム、落としましたよ?」

「ああ、ありがとう」


 俺が落とした消しゴムを拾ってくれたのは、学校一の美少女と名高い神宿霞(かみやどかすみ)だ。


 元のルックスの良さと、名前にある漢字から、天使と呼ばれている。


 ちなみに、俺はクラスからだけではなく、学年でモブだということが知られている、一ノ瀬裕太(いちのせゆうた)

 授業中にもかかわらず、クラス中の視線(教師含む)が一斉に俺をにらんだ。

 殺気を感じた俺はほぼ反射的に口を開く。


「すみませんでした」


 できる限り感情をこめず、なおかつ申し訳なさそうに謝った。誰に、ではなくこの場の全員に。

 向いていた視線は、「次は身の程をわきまえろよ」という風なものに変わり、何事もなかったかのように授業が再開される。


 ほっと溜息をついて、ノートをとる。


 今行われている現国は、教師がやたらと難しい漢字を使ってくるので、全員の共通認識として消しゴムは2個以上持ってくるのが鉄則である。


 俺も例にもれず、しょっちゅう漢字を間違えてしまう。

 この時間だけで消しゴムを使うのは7回目だ。まわりにも「あー」やら「またミスった」などと聞こえてくる。

 俺もまた間違え、いつも通りに机の右端にある消しゴムをとろうとしてあることに気が付く。


 スリーブとゴム本体の隙間に不自然なふくらみがあるのだ。

 さっき消しゴムを落とした時にゴミでも入ったのかとスリーブを外してみる。


 出てきたのは指の腹ほどの大きさに折りたたまれた紙だった。

 それも、事務的な白いものではなく、女子が好んで使いそうなピンクの花柄が描かれたかわいらしいものだ。


 さすがに落としたときにこんなものが入るとは思えない。

 興味本心で紙を開いてみると、そこにはかわいらしい、丸っこい文字で、


「放課後、校舎裏に来てください。絶対ですよ?忘れないでくださいね」


 と。


(はあ?どういうことだ?これは誰へのメモだ?でもわざわざ俺の消しゴムに入れる必要は?)


 いくつもの疑問符が浮かんだものの、結局答えはわからない。

 そもそも、テストではいつも真ん中くらいの順位である俺にわかるはずもなかった。


 とりあえず、拾ってくれた天使である神宿のほうに視線を向ける。

 もちろん周囲にばれないように。


 俺の視線に気が付いた神宿は、俺の手元にあるメモ用紙を認識するや否や、それは俺宛のものだといわんばかりの笑み(それだけでも破壊力は十分すぎる)を浮かべた。


 これは俺へのメッセージだと思ってもいいのか。はたまた、今の笑顔もすべて俺の勘違いだろうか。


 そんなことをずっと考えていれば、放課後までの残り時間が長くも感じたが、短くも感じた。

 もちろんノートは何とか取れたが、結局授業の内容は全く頭に入っていなかった。


_____________________________________

放課後………


 俺はようやく終わったホームルームにうんざりしつつも、教室を出てから一直線に校舎裏に行くことはなく、少しだけ考え事をしていた。


 もしかしたら、俺へのメモじゃなかったのに、間違えて入れてしまったのかもしれない。いつだって想像外なことが起きないとも限らない。


 それでも気になることに変わりはなく、気が付けば校舎裏に来ていた。


 陰から覗いてみれば、そこにいるのはやはり天使……じゃなくて神宿だ。

 このままでてもいいが、少しだけ神宿の様子を見る。


 やはり誰かを待っていることに違いはないようで、もじもじしているように見える。

 よく見れば、少しだけ頬が朱に染まっており、何かを言う練習をしていた。


 しかし、油断していたのが運の尽きか、後ろから何かを投げられた。

 びくっとして後ろを振り返ると、クラスメイトの一人であろう(モブモブ言われすぎてみんながおなじことを言うので、だれがだれかが分からない)女子生徒が腰に手を当てている。


「ねえーモブ―。どうせやることないんでしょー。そこの空き缶捨てといてよ」


 といつものようにどうでもいいことを頼んできた。

 この様子だと、空き缶を投げてきた生徒が神宿に気づいている様子はない。

 おそらく、建物の影と俺の死角に入っていることで、偶然見えていないだけだろう。


 俺はできるだけ動かずに、うなずいた。

 生徒は不審な目をしていたが、モブに構う気がわかないようで、無視して立ち去って行った。


(はじめてモブっていうことが役に立った………ん?)


 後ろにとてつもなく天使なオーラを感じる。振り返らなくてもわかる。

 神宿が俺のすぐ後ろに立っているのだ。


 内心でどうしようか焦っていると、後頭部に何かが触れた。さきほど、投げられた空き缶が当たった場所だ。後頭部に触れているそれはあたたかくて、小さくて、頼りないのに、どこか包み込まれるような優しさがある。


 ゆっくりと振り返ると、神宿は慌てたように手を引っ込めていた。


「あ、ごめんなさい。さっき、空き缶の音がして見てみたら、裕太君に当たっていたので」


 神宿は今まで見たことがないくらい頬を赤く染めていた。


「顔、赤いけど大丈夫?」


 モブの俺には人を気遣うなんて立派な芸当ができるわけもなく、素直に大丈夫かとたずねるが、神宿は一層顔を赤くするだけった。


「だいじょうぶですっ」


 やっぱり天使だ。

 10人どころか、100人いても全員が天使だと答えるだろう。


 そんな天使に半殺しにされつつも、本題を切り出す。


「で、ここに呼び出したのは神宿で、呼び出されたのは俺だっていうことでいいのか?それとも俺はお呼びじゃない感じ?」

「いえっ、あってますっ」


 やばい。まともに目を合わせられない。目を合わせたらしぬ自信がある。


「じゃあ、その要件ってのっはなに?」

「その……」


 もじもじしながら、顔を真っ赤にしてうつむいている。


「わ、」

「わ?」

「私と、つ、付き合ってください!」

「はい?」


 付き合うってあれか?ちょっとそこまで、とか?

 そうだ。きっとそうに違いない。


「いいけど、どこに行くの?」

「え?」

「だっていま付き合ってって言ったじゃん」

「あ、そういう意味じゃなくてっ、だ、男女として、ですっ」


 俺の聞き間違いなのか?俺と付き合うって?この天使が?こんなモブと?

 意味が分からない。


「分かった。意味は分かったけど、俺みたいなモブよりも神宿にはもっと素敵な人のほうがいいと思うよ?」

「裕太君は、モブなんかじゃありませんっ!」


 少し大きな声(とはいえ、元が小さいので、普通の大きさぐらいになっただけ)で叫び、はあはあ言っている。


「いつも優しくてっ、人に頼まれたら文句も言わないできちんとこなしていて、それでいて、自分からも積極的に働いてっ、なによりっ、裕太君だけは私のことを特別な感じで接するよりも、普通に接してくれるからっ」

「いや、俺がただ単にモブだったから」

「だからっ!裕太君はモブじゃありませんっ!」


 渾身の表情で必死になってモブ(・・)を否定してくれる天使。

 中身まで天使なのかよ。


「俺にはもったいないよ。神宿と付き合っても神宿に迷惑ばっかかけると思うし、そもそもクラスのやつら、っていうか学年、下手したら学校のやつら全員から否定されると思うぞ」

「そんなの気になりませんっ!もったいなくもないですっ!私が、裕太君といたら幸せなんです!」

「俺はそもそもお前のこと好きだったが、お前の望む彼氏になんてなれないぞ」


 そう。俺だって神宿のことは好きだった。2年も連続でずっと隣の席。ちょっとは意識してしまうし、神宿の言葉を借りれば、モブとしてではなく、普通の一人として接してくれてからは、どうしても好きになってしまった。


「望む彼氏は、裕太君です。わざわざ努力しなくても、今のままがいいです」

「分かった。でも、もうちょっと考えさせてくれ」

「はい!私は全力でもっと好きになってもらえるように頑張ります!」


 これで全力じゃないなら、ちょっと死んじゃうかもしれない。



_____________________________________

翌日………


 俺は重い瞼を必死に持ち上げながら1限目の授業を受けている。


 結局、昨日の一件で夜、まったく眠れなかったのだ。


「じゃあ、一ノ瀬ー。この問題解いてみろー」


 全く気の入っていない教師の声ではっと我に返った。

 黒板には、俺には全く意味の分からない数式が書かれている。

 ふと、机の上に見覚えのない紙が置かれていることに気が付く。


 あまり時間をかけず、ばれないように開くと、そこには黒板の数式の答えであろう数字と途中式が書かれている。

 幸い、今は冬服なので袖に答えを隠しつつも教壇の上に立つ。


 できるだけ怪しまれないように少しだけ時間をかけて途中式を完成させていく。


 30秒ほどで途中式と答えを書き込み、教師に答え合わせをされ、正解しているといわれるが、俺の頭は神宿に感謝するのと、昨日の一件でいっぱいだった。


「ありがとう、神宿」

「私に助けられちゃいましたね」

「ああ、そうだな」


 周りにばれないように小声で会話する。神宿も悟ってくれたのか小声で応答してくれたが、浮かべている笑みは人を殺せるレベルの尊さが混じっている。


 今日一日、この笑みを見続けるという半殺しの時間だったが、俺にはもう決心がついていた。


_____________________________________

放課後………


 俺は今日も校舎裏に来ている。しかし、理由だけは昨日と違った。

 俺自身の意思でここにいる。俺が神宿をここに呼んだ。


 ホームルームの後、神宿は担任に呼び出されていたので先にここにきている。


 10分ほどたって、ぱたぱたとかわいらしい足音が聞こえて顔をあげてみれば、そこには神宿が立っている。



「遅れてごめんね、裕太君っ」

「全然待ってないよ、今俺も来たところ」 

 なんて余裕そうに言っているが、内面は今にも爆発しそうなくらいに心臓が跳ねている。この距離でも神宿に聞こえてしまうかもしれないほどうるさい。


「でも、よかったよ。神宿がここにきてくれて」

「あたりまえですっ」


 やっぱり笑みで死んじゃいそう。


「昨日のことなんだけど、俺なりにめっちゃ悩んだ。これまでにないってくらいに悩んだ。悩んで悩んで答えを何とか出せた」

「うん」


 身長の差もあって自然と神宿が上目遣いで見上げてくる。


「俺は……」

「ま、まってくださいっ」

「え?」


 まさか心変わりしたので、やっぱり告白したのは無しってことにされるのかとドキドキしている。


「も、、もしイェスならぎゅーってしてほしいの。でも、の、ノーなら私のことを気にせずに家に帰ってほしいの。みじめな姿まで裕太君に見られたくないから」


 あー、かわいい。駄目だ。もう我慢できない。思いっきり抱きしめたい。


 もう、俺の答えは最初から決まり切っている。初めて俺が、自分で100点だと思える答えを出せたと思う。


 一歩、もう一歩と踏み出して神宿に近づいていく。

 神宿は怖いのかぎゅっと目をつむっている。


 ふう、と息を吐いて、神宿との距離を埋める。気配に気が付いた神宿ははっと顔をあげる。

 そして、その態勢のまま包み込むように神宿を抱きしめる。


「はぅ」


 甘い香りのする神宿は、小さく息をもらして俺の背中に手をまわしてくる。

 と、その直後に、


「なー、モブ―……ってあれ?」


 後ろから昨日空き缶を投げてきた生徒の声が聞こえた。


(お、終わった……)


 せめてもと思い、弁明するために神宿から離れようとしたが、神宿はそれを良しとしないかのようにぎゅっと力を込めてきた(とはいえ、か弱い力なので抜け出そうとすれば抜けられる)


「離しませんっ!」

「えーっと、神宿?」

「神宿、じゃなくて、霞って呼んでくださいっ!」

「か、霞?」

「はいっ」

「このままだと炎上するかもよ?」


 ネットとかじゃなくて物理的に俺が。


「私が守ってみせますっ」


 やだ、なにこの天使。可愛すぎるんですが。


「ねえ、あんたモブだよねー。もしかしてモブが彼女作ったのー?なに?ウケるんですけどー。早速みんなに報告っと」


 スマホを取り出した生徒は素早くフリック入力で何かを書き込んでいる。

 絶望しながらも、霞がいれば耐えられるかもしれないと考えていたら、俺のポケットに入っているスマホが、着信を知らせる振動をおこした。


 片手でとりだすとメッセージアプリを開き、とりあえず強制的にIDを交換させられた記憶のある女子生徒からのものだった。顔を必死に思い出そうとしていると、ふとあることに気が付く。

 確か、今後ろに立っている生徒が今開いているアプリの未読メッセージがあることを知らせるアイコンが付いているIDだったはずだ。

 それを思い出すと、トーク画面を開き今までの会話も確認するが、やはり後ろの生徒と交わしたものだ。


 最新のメッセージを開くと、


「誰?そいつ。今までそんな相手いなかったから油断してたんだけど」


 とあったので、どういうことなのか考えつつも、とりあえず返信だけすると伝えて、霞にいったん離れてもらう。霞は名残惜しそうにしていたが、ここで無視すれば、確実に明日にはあることないこと言われているだろう。


「誰でもいいだろ、そもそもそっちに教える義務はないと思うが?」


 と高圧的な文章を送る。


 すると、後ろのスマホの着信音が鳴る。やはり後ろの生徒だったのだろう。

 すぐに返信が来た。


「なんで私じゃなくてそいつなのよ?私だってあんたのこと好きなのに……」


 思わず思考がフリーズした。

 この生徒が俺のことを好き?意味が分からない。

 今までそんな気配全くなかったのに。


 固まっていた俺の顔をのぞき込んでいた霞を見て、我に返り微笑み返す。


「もう手遅れだ。もう今更遅い。あきらめてくれ。そもそも、彼女ができる前にそれを伝えられたところで結果は変わらないが」


 無言でメッセージを打ち、送信する。

 着信音の後に後ろの生徒が崩れ落ちる音がした。

 年頃の女子が、制服が汚れることも構わず地面に手をついて泣いている。


 これでモブ扱いはなくなっても、なんかもっといじめられそうだな。

 まあ、それ以上に癒してくれる霞がいれば、俺は怖いものなんてない。


 そっと霞の頭をなでると、最初は驚いていたものの、すぐに気持ちよさそうな顔を浮かべて俺に抱きついいてくる。


 俺はもうモブなんかじゃない。たとえ時間がかかろうと、モブじゃいけない。

 霞の隣に堂々と立っていられる、そんな奴にならなきゃいけない。

 俺は霞のためならどんな努力だってしてやる。


 そう決心した俺は、ようやく立ち上がって去っていく生徒の姿を見ながら、霞を抱きしめた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] セリフの前にはヒトマス開けないものです とても読みづらいです
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