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興味

「な……!?」


 一瞬の硬直。

 ヴァレンタインは、にこやかな笑みを浮かべこちらを見つめている。


「昨日ぶりだね。ホロウ君……であってるかな?」


 何が起きてる……!? ばれた!?

 まさか、冒険者だとバレて待ち伏せされた!? 昨日の今日で!?

 騎士が街で俺を探していなかったのは油断させるためだったのか!?


「話がしたくてね」


 混乱する頭で、いろいろな可能性が頭をよぎる。だって、これはあまりにも想像していなかった事態だ。


「ホロウ?」


 と、カレンさんが俺に声を掛けたところで俺はハッと意識を現実に引き戻される。


「カスミ!」

「わっと」


 俺はガシっとカスミの腕を掴むと、引っ張るようにして全力でギルドの入口に向かって走り出す。


「どうしたんだよホロウ!? 大丈夫だぜ!?」

「だ、大丈夫じゃないです……!!」


 ここに居たらだめだ、捕まる!!


 俺は周りにいた冒険者を押しのけ、何とか入口へと突き進む。

 やっぱり駄目だった、もうここには居られない!!


 一刻も早くこの街を出ないと――。


「だから、話がしたいだけなんだ。落ち着いて」

「!」


 一瞬にして、ヴァレンタインが俺達の前に立ちはだかる。


 強化魔術……! さすがに早いか……!


 俺は警戒して、腰の雪羅に手を掛ける。


「おっと、相当警戒されているらしい。まあ昨日の今日だからそれもそうか」


 そう言って、ヴァレンタインは両手を上げると敵意がないことを示して見せる。


「……何のつもりですか?」

「何のつもりも何も、僕は最初から君と話したいだけさ」


 話したいだけ?

 信じられないけど……。


「ホロウ、落ち着けって。ホロウの疑いは私達が晴らしたからよ」

「疑いが……晴れた……?」

「あぁ。昨日の疑いはもう君にはないよ」


 そう言って、ヴァレンタインはにこやかな笑顔を浮かべる。


「ほら、剣も持ってないだろう?」


 ヴァレンタインは腰の辺りを指さす。 


 確かに、良く見ると剣聖は剣を携えていなかった。


「じゃあ、本当に話がしたいだけ……?」

「あぁ。まあちょっと場所を変えよう。ここだとギャラリーが多そうだ」


◇ ◇ ◇


 俺たちは冒険者ギルドを出て、ヴァレンタインが泊っている宿へと移動する。


 どうやら今回の切り裂き魔の件で一時的に王都から招集されていただけらしい。


「おぉ……」

「す、すごい宿だねホロウ……」


 綺麗な外装に、豪華な内装。宿を出入りする客も、皆どこか品がある。


 ヴァレンタインの泊る部屋へと案内される。

 俺たちが二人で泊まっている宿の三倍の広さはある。


「いやあ、僕はこんな立派な宿は要らないと言ったんだけどね」


 そういってヴァレンタインは苦笑いを浮かべる。


「剣聖という称号だけで、階級以上の評価を受ける。その気遣いは嬉しいが、正直煩わしいこともあるよ」

「そう言うものですか」

「あぁ。まあ、それはいいさ。座ってくれ」


 俺達は促されるように柔らかい椅子に深く腰を落とす。

 身体の疲れがスーッと抜けていくような感覚。


「さて、とりあえず昨日の非礼を詫びよう。すまなかった」

「い、いや、そんな改まって謝られると……」


 俺は思わず気恥ずかしくて頬を掻く。

 謝られた経験なんて殆どないよ……。


「許してくれるかい?」

「そりゃ、疑いが晴れたのなら俺もヴァレンタインさんを警戒したりはしないよ。何で晴れたのかは疑問だけど」

「あぁ、それだけどね。ある程度昨日の時点でわかっていたんだよ」

「え?」

「僕は君と戦う前に言っただろう? 剣を交えれば見えることもあるかもしれない、と」


 そう言えば、戦う前にそんなことを言っていた気もする。


「じゃあ、戦って分かったと?」

「その通り。剣というのはその人の生きざまを映す。この魔術全盛の時代、剣を真面目に学ぶものは多くない。魔術で事足りるからね。だからこそ、剣を握り戦う人間の剣には信念が宿る」


 剣に信念が……。


「君の剣からは、凄まじい修練を感じたよ。殺しや破壊が目的の剣じゃない。何かを成し遂げたいとあがく、強い信念が」

「強い信念……」


 確かに当たっている。俺はただ、この剣だけでも強くなれることを証明したい。そう思って修行してきた。あの家を見返したい、そういう思いももちろんあった。でも、俺の剣は殺しの剣じゃない。それだけは胸を張れる。


「それに、最後僕の魔術を受け切って見せただろう?」

「あの魔術は正直肝が冷えましたね。死ぬかと……」

「はは、悪かったね。君なら何とか出来ると確信してたんだ。それに、あの魔術は避けることも出来ただろ。けどそれをしなかった。後ろの建物が壊れるのを恐れたんだろ? 僕はそこで確信したよ。君は殺しを出来るような人間じゃないって」

「あの一瞬の戦いでそこまでわかったんですか」


 するとヴァレンタインはハハっと笑う。


「伊達に剣聖と呼ばれていないさ。まあ、剣術の純粋な腕では君の勝ちのようだけどね」

「いや、そんな……」

「事実さ。まあ、それで君に興味が湧いてね。いろいろ調べさせてもらったと言う訳だ。君は最後、魔術を斬った。それは本来有り得ないことだ。その線を調べていくとどうやらそんな噂を持った少年が冒険者試験を受けに来たと言うじゃないか。そこからさらに調査して、カレンさんに会い、彼女の証言から君のアリバイは完璧に証明された。だから、僕は騎士団に少年を追う必要はもうないと進言したんだ」

「この数時間でそこまで……凄いですね」

「それくらいはね」

「けど良かったです。もしこのまま追われ続けたらさすがの俺ももうどうしようもないと思っていたので……。俺を追うあまり、本物を放置して新たな被害者を生むのも心苦しいですから」

「はは、やっぱり優しいね」


 これだけいろいろ話してくれているんだ、どうやら疑いは本当に晴れたらしい。

 本当に良かった。


 俺は安堵の溜息を漏らす。


「ということは、それを伝えにわざわざ俺の所に?」

「それもあるが、さっきも言ったように僕は君に興味があるんだ」

「俺に?」

「……魔術を斬る剣士。これほど僕の興味をそそるものもなかなかない」

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