不幸の足音
4月24日。いつもの時間、いつもの帰路を行く。
そして―――
コツ、コツ、コツ
(またか…)
いつも通り、後を付けるような足音が聞こえる。
毎日毎日毎日―――
(鬱陶しい。こうして俺の日常が脅かされているというのに、同僚も家族も警察も聞く耳を持たない。)
(あんなことしなければよかった。)
3週間ほど前のことだ。同僚と飲み会のノリで行くことになった、いわゆる心霊スポット。最初は乗り気ではなかったが、酒が入るにつれ興味を抑えきれなくなり、そのまま飲み会の参加者全員で向かうことになった。
場所は飲み屋の最寄から電車で数駅、少し山間にある廃旅館だ。
ここは昔、古き良き街並みと自然を一望できることで人気を博していたそうだが、近代化の影響で徐々に自然は減り、街並みも真新しくなっていったことで自然と廃れていったそうだ。
事が起きたのは、閉館して1年ほど経った頃のことだ。
解体作業に関わった作業員に立て続けに不幸が起こった。
それは本人のケガや病気から親族の死まで様々であったが、作業を滞らせるには十分なものだった。
中でも決定的だったのが、作業員の、社会人になる娘がその廃旅館で自殺をしたことだった。
動機は不明、首つりによる自殺だった。
それ以降、その娘の幽霊を見たという作業員が後を絶たず、今なお旅館の大半を残す廃墟と、関わったものに不幸をもたらすという噂だけが残されることとなった。
「な、面白そうだろ?」
その話を聞き終えたのは、ちょうど廃旅館の前にたどり着いた時だった。
「本当に不幸に見舞われるのか、試してみようぜ。」
そんなノリで、私たちはそこに足を踏み入れた。
その翌日のことだ。帰路で後を付けてくる女が現れたのは。
誰も頼れないのであれば、自分で片を付けるしかない。
4月26日。いつもの時間、いつもの帰路を行く。
だが、今日はいつもより騒々しい。
サイレンの音、野次馬の喧騒、それを抑える警察官の声。
(こんな何もない道で何を騒いでいるんだ。)
「すみません、警察のものですが、少しお話を伺ってもよろしいでしょうか。」
(鬱陶しい。)
4月25日18時頃、△△株式会社会社員の――――さん(22)が帰宅途中、何者かによって殺害されました。所持品等に荒らされた形跡はないことから、警察は通り魔の犯行と見て調べを進めています。