さんざんな日
轟音とともに、奴らがドアを蹴破って迫ってきた。
行き止まりの部屋に、サングラスをかけた暴漢が3人ほどなだれ込んでくる。
ここまで来たなら、もうあの手しか残されていないだろう。
「ミウちゃん、準備はできてる?」
「大丈夫だミウ!」
それを聞いた私は、ハート型のペンダントをかかげる。
ミウちゃんはその上を飛び回って、尻尾でハートの形を作る。
「変身!ハイパーミラクル★超プリプリ天使モード!」
何度言っても恥ずかしさを覚えるセリフをつぶやく。
すると体が光りだし、ハートを象ったきらびやかな衣装に包まれていく。
変身が終わり、体が魔法の力で満たされるのを感じながら、私は言い放った。
「サンハート・ジブリール、ここに降臨!」
「……」
あまりのことに、暴漢たちも絶句しているようだ。
「ちょっとカッコつかないけど、こっちからいかせてもらうね」
「ブライト・ハート・フレアー!」
私は橙色の炎を相手に向けて放つ。
暴漢たちは逃げ出そうとしたけれど、炎が熱くないことに気付いてとまどっているみたい。
落ち着きを取り戻した彼らは、ボスに報告するのか一時撤退しようとしていたけど、急に倒れこんでしまった。
それもそのはず。
この炎は、一時的に相手の意思を燃やし尽くしてしまうのだ。
いまのうちに彼らを縄で縛りつけ、ついでに蹴りをくらわせてやる。
「カワイイ」コスチュームにはおよそ似つかわしくない性格の私が魔法少女をやっていて、いちばん気分のいい瞬間だ。
「あとはケーサツに通報すれば……」
そう思った瞬間だった。
突然背後からガラスの割れる音が響き、慌てて振り返るとそこには新たな侵入者がまた3人ほど乗り込んでいた。
報告ではターゲットは3人だったはず。増援があるだなんて聞いてない。
魔法を使おうにも、太陽の光を魔力とするサンハート・ジブリールは屋内では魔力を補充することができないうえに、先ほどの戦闘で魔力を使い果たしてしまっていた。
絶体絶命。私は杖を構え、頭で策をめぐらせながらも、無事では済まなそうだとわかっていた。
そのときだった。
急に床が突き破られ、土と雑草の根が全身にへばりついた、作業着姿の男が這い出てきた。
なんだかキモイ。
「大丈夫かい?お嬢さん」
彼は私を助けようとしてくれたらしかった。だけど、ちょっと彼ともお近づきにはなりたくなかった。
突然のことに、増援部隊もとまどっている。今がチャンスなのは明白だった。
「ミウちゃん、しっかりつかまって!」
私はミウちゃんを抱えて一目散に逃げだした。こんな日もあるのだ。
"機関"には、話が違うってクレームをうんと入れてやらなきゃ、そう思いながら。