#5 いよいよゲーム開始
ブックマークが気づけば6件も…感謝です!
「一緒に行こう、トゥニア」
自然と口からこぼれた言葉に自分でも驚いた。
トゥニアの気丈な振る舞いがこの言葉を言わせたのかもしれない。
それに、俺は頭の片隅でトゥニアと自分の姉妹と重ねていたのだろう。
俺は父の連れ子、妹の詠里、姉の彩未は母親の連れ子だった。
特に詠里は1歳で父親を亡くしていて、出会った当初は家族に男がいる状況に慣れず男組は随分と警戒され今の距離感になるまで苦労に苦労を重ねたものだった。
その妹を守ろうとする姉の彩未は、姉の責任感と新しい家族と打ち解けなければと板挟みになっていた。
俺の目にはその当時の二人と今のトゥニアが状況は違えど、放っておけば壊れてしまうように映ったのだった。
「…いいの?」
一転目を輝かせるトゥニアに俺は頷く。
「というわけで、セヴァキア。俺はトゥニアと一緒に行こうと思う」
『ありがとうございます。正直貴方に断られるとこの先の試験の見通しも立たなくなってしまうので不安でしたが…よかったです』
やはりセヴァキアも俺と同じ不安を抱いていたんだな。
というか俺AIにまで他にいないと思われるほど変な考えを持っていたのか…。
『さて、話もまとまったところで以上でここでの作業は終了となります。これより貴方をAAOの世界へと転送しますが最後に何か質問などはありますか?』
そういえばまだゲーム始まってもいなかったんだよな…。
質問か、そういえば−−。
「セヴァキアって神様なんだよな?」
『はい、私は光神です。他にもこの世界の属性ごとに火・水・風・地・闇にそれぞれ大神がいます』
「神様ってキャラ作成とかの手伝いなんてやるイメージじゃないんだけど、なんで
神様自らやってるんだ?」
『簡単にいえばプレイヤーの方々の人となりの確認ですね』
「人となり?」
『はい、もちろんその方の全てが分かるわけではありません。我々も心が読めるわけではないですから。けれど、相手の姿が見えない状況というのは多少なりとも人々の心の枷を外します。そんな状況であるこの部屋でも自分の思った通りに進まないからと暴言を吐く人などもいらっしゃるかもしれないと予測し、実際そのような方もいらっしゃいました』
うわ、未だにいるのかそんな奴…。
数十年前からAIが家電や携帯タブレットが搭載され、徐々に彼らが感情を得る中で人々は、AIも人と同じ感情を持っているのだから一人の個人として尊重して共に暮らそうという協調派と所詮は機械でありあくまでも人間が使う側でAIは使われる側、尊重するなど以ての外という使役派の二つの考えに割れたらしい。
だが割れたのも最初のうちだけで、実際に暮らす中で自分を心配し、褒めれば嬉しがるようなAI達に対して実際に当たり散らす人々は少なく、世論は協調派が大半を占めるようになった…らしい。
実際この流れも学校の授業や親の話で聞いただけだし、俺たちの世代は生まれた時からAI達がそばにいたから使役派の感覚は分からない。現実でやってる奴なんてほとんど見たこともない。
『少数ながらいらっしゃたそのような方には申し訳有りませんが、私からGMに情報を共有し監視レベルを1段階上げてもらっています。私たちも我々の世界に何も確認をせずに転送するわけにはいきませんので。これらの確認のためこの世界の最高位である我々大神が行なっているわけです。納得していただけましたか?』
「なるほどなぁ、納得したよ」
『他にはよろしいですか?』
「あぁ、大丈夫だ」
あまり聞きすぎても面白くないしな。
というかさっきからトゥニアが話に飽きたのか、足下の雲をいじりだしてるのだ。
一緒に行けるということで安心したのかもしれないが…セヴァキアさん見てるぞ。
『それでは…トゥニア』
「っ!?」
声をかけられたトゥニアは慌てて背筋を伸ばしている。
全く話を聞いてなかったな、この子。
セヴァキアも小さくため息をついているし。
『ムクさんの横に並んでください。ルコカーイアに転送しますよ。』
「わ、分かった」
ルコカーイア…向こうの世界か国の名前だろうな、こうやってポロッと知らない情報が出てくるのは面白いな。
トゥニアは急いでこっちに向かってくるが、やはり試験の始まりを意識して緊張しているのだろう。右手と右足が一緒に出てしまっているし、隣に来ても服の裾をいじっている。
「トゥニア」
「な、なに?」
俺は落ち着かないトゥニアに向き直って大きく手を広げ、深呼吸を始める。
「…何してるの?」
「ん、知らないか?深呼吸って言って落ち着きたい時にやるんだ。俺も知らない世界に行くのに緊張してるからな。トゥニアも一緒にやろうぜ」
「…ん」
スーハー、スーハーと何回かやってるうちにトゥニアもとりあえず落ち着いたのか自然体で入れるようになった。
「初めての試験は緊張するかもだけどな、行く前から緊張してたら疲れるぞ?リラックス、リラックス」
「ん、確かに…。わかった、ありがとう」
そんな俺たちをセヴァキアは暖かい目で見つめてくる。
そんな公園にいる親子連れを見るような目で見るな!俺はまだ16歳なんだ…!
『やっぱりムクさんを選んで正解でした。そのままトゥニアをお願いしますね?』
「とりあえず期待を裏切らないようには頑張るつもりではいるよ」
『はい、それで十分です。それでは二人を転送します、心の準備はいいですね?』
「ああ、いつでもいいぞ」
「ん、お願いします」
俺たちの返事と共に足元の雲に白い光を放つ魔法陣が展開され、目の前が光で真っ白になったのを最後に再び意識は薄れていった。
最初に宣言した5話まで来ました…!
これ以降は現在あるストックが尽きるまでは毎日投稿になります。
ストックが尽きても隔日投稿はやろうと思っているので引き続きお付き合いいただければ幸いです!