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#4 空から女の子

ゲームを始めるにあたって、ファンタジーなら魔法使ってみたいなとか空飛んでみたいなとかありきたりな夢はちょっと思ったし、初めての体験をしたいって願ったのも本心だ。

だが、こんな最初も最初、キャラ作成の段階で非日常は予想してないぞ…!


ゲームをまだ開始する前にもかかわらず、親方、空から女の子が!な状況に固まってしまった俺を尻目にその女の子は雲の上へと降り立った。

肩まで届くくらいの金髪に降りてきた空と同じ透き通るような空色の瞳の美少女は、俺をじっと見つめると不意に空に向かって声をかけた。


「…主、この人族についていけばいいの?」


『えぇ、そうです。貴女はこの人と共に世界を歩んで様々なことを学んできてください。天から見るだけではわからない人々の悩み、嘆き、罪や悪意。逆の喜び、楽しみ、善や親愛も然り。それらを識ることを次の試練とします』


「わかった。じゃあ、今からこの人族が私の主?」


『そうなります。とはいえ、絶対服従ではないですからね。嫌になったら帰ってきても問題ありませんよ。理由なく戻ってくるのはアウト…ですがね』


「ん、了解。では、人族…呼び方が人族では問題。人族、名前を教えて?」


「あ…あぁ、俺の名前はたけ…じゃない。俺の名前はムクだ」


「ムク…。ムク、これからよろしく」


焦って本名を言うところだった…ってそこじゃない!

勝手に話が進んでいってるがどう言うことなんだ?


「ちょっと待ってくれ。まず君は誰なんだ?」


「私?私はトゥニア」


「あ、うん…。ありがとう」


それも大事なんだけど、そうじゃなくて…。あぁ!考えがまとまらねぇ!


『ここからは私が話しましょう』


その声とともに、空から無数の光が降ってきてトゥニアの横に集まってくる。そしてその光が人の形を形成していくとそこには古代ギリシャの人々が着ていたような服 ―確かキトンだったか。服飾部の手伝いの時に見た気がする− を纏った金髪の美女が現れた。


『改めて…はじめまして、ムクさん。私は光神セヴァキア。Alles Arcadia Onlineの世界における大神の一柱です』


「あ、はじめまして…。」


『では、簡単に説明を。まずこの娘は私の眷属なのですが、眷属の中にも階級のようなものが存在します。一番下は役職なしの眷属、今のこの子ですね』


あ、心なしかトゥニアがシュンとしてる。


『続いて、使徒。眷属の中でも優秀なものたちが試験を受けてなれる役です。さらに上に神使もあるのですが、まぁ今は置いておきましょう。私がトゥニアを貴方に同行させようとしているのはこの使徒への試験の一環でもあるのです』


「使徒への試験…」


『はい、眷属には役割はないのですが使徒には世界のバランスの微調整という仕事があります。バランスの大半は我々大神が担っているのですが、細かな部分は人々の正負の感情や生命の生死によって変わります。その調整を担う上で世界を知り人の感情を知り生死を識る必要がある。なので我々はそれらを識ることを使徒への試験としているのです』


なるほど、とりあえず今目の前にいる自称神の言葉を信じるならこの子が神の眷属とやらで使徒になるために試験をすることは分かった。

だが…


「その試験をするのになんで俺と一緒に行くこととなるんだ?内容だけ聞いてたらむしろ一人で行くのが良さそうだ」


試験でこの子が人の善悪だったりを学ぶのなら自身で学ぶべきだろう。同行者が公平でなかったら負の感情ばかり伝える可能性や逆に人を近づけないようにする可能性もあるだろうに…。


『はい、確かに以前までの試験はそうでした』


「以前まで?」


『貴方達来訪者…【プレイヤー】がこの世界に訪れることとなったからです。プレイヤー達は自由にこの世界を動き回り様々な影響を与えるでしょう。以前までのようになぜその行動をしたのか人々に聞いても住民は理解できないかもしれません。何せ元来違う世界…違う常識を持った人々が関わるのですから』


確かにその可能性は…ある。

現実でもそうだ。海外からの観光客や移民とのトラブルはそれぞれの育った常識の違いから生まれることも多い。なぜそんなことをするのか相手が理解できないなんてザラだ。


『そこで、我々は考えました。プレイヤーを同行者につけて新たな知識を眷属に教える役目を担ってもらおうと。そして、共に歩むことでより学んでもらいたいと願っています』


これが試験として貴方に同行させる理由ですとセヴァキアは話を締めくくった。


『あとは、貴方が同行を承諾してくれるかどうかなのですが…どうでしょう?』


「だめ?」


セヴァキアの問いを聞いてトゥニアは首を傾げて俺を見つめてくる。

くっ、美少女にそんな仕草をされたら無条件で頷きそうになってしまう…!

だが、まだ聞かなければならないことが残っている。

頷きたい衝動をこらえて質問を重ねてみる。


「あと2点聞きたい。俺が受けないとこの子の試験はどうなるのかというのとなぜプレイヤーの中で俺を選んだのかということなんだが」


『そうですね、まず先に貴方を選んだ理由なのですが今も他の部屋で私の分体が先程と同じ質問をしています。強くなりたい、戦い暴れまわりたいといった戦闘系の願望や最強の武器・防具を作りたいという生産、この世界を見て回りたい、モンスターを仲間にしたいなど…。あぁ、可愛い女の子と冒険をしたいなんて願望もありましたね。』


俺の質問にセヴァキアは他のプレイヤーが答えたであろう回答を挙げていく。

しかし、可愛い女の子と冒険したい気持ちはわかるが…その欲望をキャラ作成の時点で堂々言える度胸には敬服する。


『そんな中で貴方の答え…初めての経験をしてみたい。それは我々が行う試練の同行者として申し分ないと私は考えたのです。この子と共に様々な場所に行き、様々な人々に会い、一緒に驚き、悲しみ、喜んでくれる。時には違う感情も一緒に共有してくれる。そんな同行者になってくれるのではないかという思いから貴方を選びました』


うあ、始める前にこんなことしたいなと軽く考えていたことをこんなに高く評価されるとは…めちゃくちゃ恥ずかしい。

他に誰もいない部屋でよかった。誰かいたら強制終了してる自信はある。


『そして、貴方が拒否した場合この子の試験は一旦停止という形になります。今のところ私の管轄の中では貴方以外に任せられる人は残念ながらいなかったので…』


なるほど…一旦停止といっても実際来る可能性はそんなに高くないだろう。

大抵の人はこのゲームを始めるときに様々な思いを持って来るだろうがこんな変な思いを持って始める人は少ないはず。

そうなるとトゥニアの試験はいつ来るかもわからないプレイヤーを待ち続けなけらばならなくなるのか…


そんなことを考えていると、トゥニアと再び目が合った。先ほどと同じく見つめて返してくるが、その目には確かに不安の感情が見えた。だが、不安の色を隠して気丈に私はどちらでも大丈夫とでもいうように振舞っている。

そんなトゥニアの様子を見た俺は無意識のうちに答えていた。


「一緒に行こう、トゥニア」


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