#16 クレーマー登場
すみません、この土日ちょっと体調を崩してました…。
特に発熱とかはなかったのですが、今の世の中的にも万が一があってはと思い安静にしていたため更新ができませんでした。待っていただいていたみなさま申し訳ありません。
そして、見れてない間にAAOの方は元気に爆発的な伸びを見せ…なんと日間(VRゲーム)ランキング2位をいただいておりました。本当にありがとうございます。
今後もAAOをよろしくお願いします!
「そこまでだ!誘拐犯、もしくはチーター野郎!」
やっぱり犯罪者呼ばわりは心にくるなぁ…。
セシルさんは信じてる人ほとんどいないって言ってたけど、この人たちはその噂を信じてしまった奇特な人たちってことか。
「いきなり穏やかじゃありませんね。なんですか、あなたたちは?」
ちょっぴり感傷に浸っていた俺に変わって、ムストが相手をしてくれる。
「俺たちはそこの犯罪者野郎に正義の鉄槌を与えるんだ!」
「正義の鉄槌というのはよくわかりませんが…そもそも犯罪者とは一体誰のことを指してるのです?」
「そこの黒髪の奴のことに決まってるだろ!?お前ら掲示板見てないのか?」
後ろから追いついてきたメンバーにも話を聞いたがムストたちは掲示板を見ないようにしてるらしく、俺がそんな噂になってるとは知らなかったようで、俺から説明をするととても驚いていた。
とはいえ、先ほどの俺たちの会話やトゥニアの俺に対する態度を見てとても誘拐されてるとは思えないと断言してくれたのは嬉しかったね。
そんな俺たちの様子をニヤニヤしながら見ていた件の二人組はこちら側の結論が誘拐犯ではないと達したことに納得できずにまた騒ぎ始めていた。
「そいつが誘拐犯じゃないわけねーだろ!」
「なら、ムクさんが誘拐犯だとあなた方が断じる理由はなんなのですか?」
「そいつがその女の子を連れてるからに決まってるじゃねぇか!そんなクエストは今までギルドで出てなかったし、NPCを連れ歩くことができるなんてβの情報が載ってるサイトにも書いてなかった!だったら無理やりそいつが誘拐した以外ありえねぇだろうが!」
ムストが相手してくれる後ろでみんな聞いていたんだが、絡んできた奴の超理論にみんな呆然としてしまっていた。
あとでセグたちに聞いたのだが、AAOではβテスト終了時にシステムや一部の仕様が変わる場合があると念を入れて通知されていたらしい。
まぁそうじゃなくても可能性は他にもあるだろうに、俺が誘拐したという結論に飛躍するのは恐ろしいが…
「それにだ!さっきのお前らの戦闘見てたけど、あの鎖みたいな魔法は魔法スキルが中級になってから覚える魔法だろうが!なのにこんな初期から使えるなんてチートに決まってる!」
「!」
「あ、それは私たちも不思議に思ってたんだよねー。ムクさん、なんでトゥニアちゃんは色んな魔法使えるの?」
今まで黙って聞いていた花も会話に参加してくる。
やっぱりみんな気になるよな…。
当のトゥニアは二人組が現れた時から威圧してくる態度に若干怯えていたが、話題が自分に向いたことでより怯えてしまったのか俺の後ろに隠れてしまっている。
「大丈夫だ、トゥニア。何にも怖がる必要はないからな」
安心させるためにも頭を撫でてあげるだが、服を掴む手は一層硬くなってしまう。
そう簡単には落ち着けないか…いきなり罵声浴びせかけられるなんて経験ないもんな…。
「トゥニアはこの世界における神様の眷属で、次の位に上がるための試練としてこっちの世界でこの世界の人間のことや俺たちプレイヤーのことを学ぶために来たんだ。で、俺はその同行者としてたまたま神様に頼まれたからトゥニアと一緒に行動してる。トゥニアが中級の魔法を使えるのはその神様の加護がついていて、その称号の効果で光魔法が中級になってるからだ」
セヴァキアが言ってたことってこれで合ってるよな…?
というか、セヴァキアと会ってトゥニアと一緒に行動するようになってからまだ1日しかたってないのか。
色んなことがありすぎてもっと長い時間一緒にいる気すらしてたな…。
「トゥニアちゃんって神様の眷属さんなんだー。それなら魔法使えるのも納得だねー」
「ん、トゥニアはセヴァキア様の眷属」
花は俺の説明で納得してくれたようだが、他のメンバーはまだ半信半疑といった様子だ。
そりゃ急にこんな突拍子もない話されたって急には信じらんないか…。
一方で、文句をつけて来た二人組は全く聞く耳を持てなくなってしまっていた。
「…そ、そんな嘘みたいな話信じれるわけねぇだろ!試練がどうとか言ってるけど、それが本当ならなんでお前だけなんだよ!」
「最初のキャラ作成の時に質問されなかったか?」
「し、質問?何をやりたいかってのか?」
「そうだ、あの質問の答えによってたまたま俺は選ばれたらしい。他に該当する答えを言った奴がいなかったから今の所俺だけになったらしいぞ」
「あの質問にはそんな意味もあったんですね…。単純に何したいのか聞かれてるだけだと思ってました」
「俺も種明かしされるまではそう思ってたよ」
俺とムストが笑いあっていると、焦れて来たのか二人組は武器を構え出してまた騒ぎ始めた。
「そんなんでいきなり差別つくなんておかしいだろ…!?」
「騙されんな!どうせそいつがチートで質問の答えを知ってたとかに決まってる!」
「そうだよな!チーターには天罰を与えなきゃな!」
いかにも攻撃して来そうな雰囲気なんだが、プレイヤー同士の戦闘もありなのか…。
明らかに攻撃する気満々だしありなんだろうな…。
モンスターはまだいいけど、トゥニアに人を攻撃させるようなことはさせたくないしな…。
なんて考えていると、今まで後ろにいたトゥニアがなんと突然俺の前に立ったのだ。
「トゥニア!?危ないから下がって−」
「ムク、止めないで」
トゥニアから発せられた言葉の硬い口調で察してしまった。
“怒ってる”と。
「あなたたち、ムクの悪口はやめて」
今まで勢いの良かった二人組もさすがに少女相手に罵詈雑言を吐くのは気がひけるのか、うっと怯んでしまった。
「ムクは私に一緒に行こうと言ってくれた。私とともに歩んでくれると感じた。」
「私はその言葉が本心からのものだと知ってる。あなたたちにムクの言葉を否定することなんてできない。」
「私とムクの一緒に歩む決意を勝手に否定するな!!」
少女の本心からの怒りの叫びを浴びせられた二人組は完全に及び腰になってしまっていた。
そもそも奴らの想定では、呼びかければ俺が謝りトゥニアが喜んで離れることになっていたのだろう。
あわよくば離れたトゥニアと一緒になんてことも考えていたのかもしれない。
そんな幻想を抱いていた奴らに対しての少女からの叫びはその場での戦意を折るには十分だった。
「…う、うるさい!もう勝手にやってろ!行くぞ!」
「あ、あぁ。お前らなんか垢BANされちまえ!」
そう捨て台詞を残して、二人組は去っていたのだが結局何をしたかったのだろうな…。
まぁ今はそんなことよりもトゥニアだ。
「…トゥニア」
「………」
「俺たちのためにあんなに怒ってくれて…ありがとうな」
「−−−っ」
思ったままの感謝をトゥニアに伝えると、トゥニアは後ろから見ても分かるくらい耳まで真っ赤にさせて花達の方に向かって走って行くと顔が見えないようにローゼの服に顔を埋めてしまった。
「あらら、恥ずかしくなっちゃったのかしらね」
アイコンタクトで今はそっとしておこうと決め、俺たちは再び帰路につき今度は邪魔されることなくセントルムへと到着するのだった。